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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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引き渡し

「は? なんで? そうなるかもしれないって思わなかったの?」
「幻覚やらなんやらは俺の得意分野じゃないから、ピエロくんの助けを必要としたわけだし」
「じゃあ、そのピエロくんにどうにかしてもらえないわけ?」
「ん~、無理」
「なんで!」
「実はさ……死体で発見されちゃったんだよね……。あ、俺たちの場合は死体というよりは灰? で、命の結晶ともいえる血の宝石が残る。血の宝石とはつまり、血の固まりが結晶化したようなもので、それは個々で違う。灰になったら誰が誰だかわからなくなるから、血の結晶で個人を断定する。で、ずっと身元不明であった灰が誰だったのかがわかって、それがビエロくん。じゃあ、俺たちとともにいたビエロくんは誰なんだって話だよね? 推薦してくれた組織の代表も、気づかなかったらしいんだ。いつ入れ替わったのか。そもそも組織の中では素顔を晒していたはずだから、入れ替わったとしたらお面をつけて協力をしてくれていた時期になるわけ。あれだけの知識と力を持つとなると限られてくるはずなんだけど……」
「……っ、なに、なにをやっているのよ、あなたたちは!」
「まったくだよ。軍曹殿が俺とアストレイ(仮名)が内通者で怪しいと思っているって言ったのはハッタリで、実は別の誰かに大胆な行動をさせるためなのかって」
「たぶん、そうよ。自分に嫌疑がかかっていないとわかると、けっこう大胆になるから。心理として。バレてもいい、引き際が軍曹の発言だったのかもしれないわね」
「そう、かもしれないね。それで、軍曹殿はあれからなにか……?」
「いいえ。こちら、現実の方で手一杯で、そっちとのことは私に一任されているから。そんなことになっているとは思っていなかったし。でも、そういう事態も予測しておくべきだったわ。それで? その件についてあなた方はどう動くつもりなの?」
「もちろん、行方を追っている。といっても、誰がピエロくんのふりをしていたのかがわからないから、追いかけるといってもまだその予定としか言えない。灰になるから死因究明も難しくてね」
「あなたたちって、どうなると死ぬのよ」
「そりゃ、長寿とはいえ寿命はあるからね。でも、個人差がある。他殺という意味だと、殺せる種類は限られる。だから死刑という概念はないかな。生きる屍状態とかは刑の種類であるし、むしろそうなったら殺してくれた方がいいと思う人もいるはず」
「つまり、人間を殺すほど簡単ではなく、また殺し方はパターン化しているってわけね」
「ん~、なんか引っかかる言い方だけど、そんな感じ。それで……」
「……? まだなにかあるの? もう嫌な報告ならまとめてして欲しいわ」
「ごめん。これはいいのか悪いのか、受け取った人に判断委ねる感じなんだけど」
「もったいぶらないで」
「はいはい。オーレン(仮名)の羊皮紙の契約なんだけど、あれの無効化も動き出している」
「……ねえ。オーレン(仮名)の命でしか対処できない事案ばかりなのに、契約の解除の意味、ある?」
「まあ、それを言われちゃうとそれまでなんだけど。ピエロくんの件が出たとき、まっさきに疑われたんだよ。例のふたり。人間の世界にはいけない刑が執行中なわれだから、なにをどうしても行けるはずがない。彼らは無関係という意見もある中、オーレン(仮名)の件もあるから、羊皮紙の契約の中にリンクの件も入れた。だが、ピエロくんはかなりの能力者だから自力解除に踏み切ったものの、返り討ちにあったという見方。身の潔白を示したければ、いま、契約をしているものすべてを解除して関係ないことを示せとなっている。彼らの組織の代表もそれを受け入れてはいるんだけど、ふたりが難色を示してね。まあ、もう別件で刑の執行中なわけだから、ここでひとつふたつ罪が確定しても問題ないと思っているのか、情報収集のために手段を選ばなかった。一族の誇りを守るためとか、考え方はいろいろだけど、とにかく首をたてに振らない。もちろん、オーレン(仮名)が命を持って罪を償えば、契約は終了になるわけだし、ふたりにとっては赤裸々にあかすよりそっちでやってくれと思うのも無理はない……かな」
「……はあ。たしかに、そう考えるのが妥当でしょうね」
 結局のところ、なにひとつ進展はしていないのと同じであるとライザは結論づけた。
「それで、私たちに決定権があると思っていいのね?」
 ライザはひとつ息を吐いてから、そう付け足す。
「うん、そうだね。ここで決めてもいいし、軍曹殿と相談をしてもいいけど?」
「……その必要はないわ。ただひとつ確認したいんだけど?」
「なに?」
「オーレン(仮名)の命で……てところね。それは彼が吸血鬼であることを捨て人間になってからも有効なのかしら?」
「当然。結局、命とか魂とかは換えが利かないから」
「それもそうね。じゃあ、結論は出たわ。まず、オーレン(仮名)から吸血鬼としてのすべてを剥奪したのち、人間として私たちの世界で刑を受けてもらう。審議はするけど、判決は死刑以外なし。それであの忌々しい蔦の撤去と少佐の回復を私たちは手に入れることができる。それ相応のケインに関する情報は共有する。で、どう?」
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