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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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命で清算

「隠す? なんのために? 俺たちはどうしてもあなたたちと協力関係を保ち、ケインの情報が欲しい。そんなことをする利点はない」
 珍しくマックス(仮名)も感情的になる。
 それだけ進展がないことがもどかしいのだ。
 ギスギスした空気が漂い始めるのを変えようと、シャールが「でも」と加わる。
「ライザさん。私たちもケインさんの事は別の意味でも情報交換は必要だってことになりましたよね?」
 情報が欲しいのはお互い様では? と窘める。
「別の意味ってどういうこと?」とマックス(仮名)。
「実は……ケインさんの擬神兵の能力の元が、マックス(仮名)さんたち一族の誰かの能力であるとしたら、人に戻す手がかりもあるのでは? という話が出ています。マックス(仮名)さんたちは吸血鬼ではなく人間になって生きていくことができるって言っていましたよね? いろいろ施すことで。その方法で擬神兵を人間に戻す、もしかしたら擬神兵としての記憶を書き換えることで人間の姿を保ち続けられるかもしれないと。だから、こちらで得たケインさんの情報は些細なことでも開示していこうと。でしたよね、ライザさん」
 そうなの? とマックス(仮名)がライザを見た。
「ええ、そうよ。元々は神と崇められた部隊の生き残りだし、ケインのところにいる擬神兵もそれで人に戻れるのなら、ケインの計画阻止にも繋がるのではないかってなってね。擬神兵を人に戻せるとなれば、これ以上増えることは阻止できる……かもしれない。ということよ」
「へえ……、そうきたか。でも、そう上手くいくかな。実験っていう言い方はあれだけど、それを繰り返す必要もあるし」
「それなら俺の体を提供すると言ってある」とハンク。
「本気? 失敗したらどうなるかなんて、俺たちだってわからないよ?」
「それでも……もう父のような人を見たくはないですから」とシャール。
「そう。たしかに殺処分的な今の体制よりはマシ、だとは思うよ。そっか。そっちも腹を括ったって感じなら、少し込み入った話をしちゃおうかな」
「なによ、もったいぶって」とライザ。
「もったいぶっているんじゃなくて、慎重になっていると言ってよ」
「進展じゃなく、後退? 現状維持すら保てないほどのことがあったってこと?」
「ま、そういうことかな。でも、そっちにしてみたら進展にも取れるかもしれないよ?」
 前置きをしてから、話を続けた。
「さっき、ライザ少尉が言っていた、巨大蔦の存在が広まってすごい騒ぎになっているって言ってた件、蔦の消滅方法の仮説がほぼ確定しつつあることと、少佐の回復の鍵の仮説もほぼ確定って感じになっている」
「本当に?! どちらも仮説が確実になるのなら、すごい進展よ。同一に進行できないなら、蔦の方が先。あれがあることで野次馬が群がり、そして怖がっている人も同じくらいはいるの。一般人の安全を守るのも軍の勤めだから、少佐の回復を二の次にしても彼は納得してくれると思う。ジェラルド軍曹も同じよ。どういう仮説?」
「結論から言うと、同時にできると思う。というか、同時に行うことになる」
「本当? 願ってもいない進展よ。素晴らしいわ。なのに、なんで引っかかるような言い方をするの?」
「そりゃね。だって、オーレン(仮名)を人間にしてこっちに連れてきて、一連の主犯として拘束、人間の世界での罪で償いをしたのち、新たな人生を与えるから余生を人間としてこっちで暮らしてもいいって条件だったはずでしょ? それが叶わなくなるってこと。つまりは、どちらかを断念してもらうしかないってこと」
「……なに、それ。ちゃんと説明をしなさいよ!」
「わかつているさ。いまからするから、焦るなって。つまり、ストレートな言い方をすれば、この一連のあれこれはオーレン(仮名)の命ひとつで解決できるってこと。だけど、命はひとつしかないから、どれに遣うか決めてもらうしかないってこと。な? 進展だけど後退にもなるだろう?」
 ライザは一瞬、言葉を失う。
 まさに天国から地獄に突き落とされたような心境だった。
「……なに、それ」
 やっと出た言葉だった。
 考えがまとまらない。
 ここはいったん持ち帰ってジェラルド軍曹と話し合わないと……と思っても、言葉に出せない。
「ねえ……」
「なに?」
「少佐の回復にはオーレン(仮名)の命が必要かもしれない説は納得できるとして」
「え? 納得、できちゃうの?」
「術にかかった人を救うには術を解くしかない。特にはかけた人に解いてもらうか、かけた人が死ぬかっていうのは、そういう物語の鉄板というか。だからかしらね、なんとなく納得できてしまうのよ。現実問題としてありえないんだけど。でも、世界は広くていろんな種族がいてと考えると、人間としてはあり得ない事ばかりでも、別の種族からしたら当たり前であったりとかね。そういう意味で、納得できちゃう展開はそれのみってこと。あとはあり得ないわ。蔦の処分に命? なんで?」
「え? いま、ライザ少尉が言ってるじゃないか。術をかけた人が解くか死ぬかって。あの蔦はオーレン(仮名)にしか作り出せないし、作った本人にも消滅は難しい感じなんだよ。ほら、俺たちが手を加えちゃったからさ」
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