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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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他人の記憶の中

 マックス(仮名)は「それが可能なら、俺としては」と言うが、ピエロくんも今回ばかりはハンクたちの下した決断よりの反応だった。
「キケン。イチド、トバサレテル。マタ、クリカエス。タブン」
「でも……! 失敗があったからこそ、活かせることもあると思います」
「イイタイコト、リカイ、デキル。デモ、カナエルノ、ムズカシイ」
 銃が使えても、自分には戦力になるほどの腕前はないことを、シャールは自覚していた。
 だからこそ、自分が捜索側に入るのが妥当だと思ったのだった。
 さすがに、ピエロくんも反対となると、マックス(仮名)がいくら味方をしてくれても厳しい。
 シャールはもう一押ししたい気持ちを堪えた。
 ハンクはシャールが喪失したのを悟り、
「では、ジェラルド軍曹とマックス(仮名)でライザの捜索。俺が待機兼見張りでいいな? シャールはできるだけ俺の近くに。決して、オーレン(仮名)には近づくな」
「ボクモ、ソレニ、サンセイ、スル」

※※※

 ピエロくんは、採取してきた植物を花びらと葉と茎にわけ、花びらの部分だけを使用した。
 ほかも使い勝手があるので、保管することにし、花びらは軽くこすり香りを出す。
 それを霧の滴と調合して、即席の香料にした。
 ほんのりといい香りがする。
 近くにいるピエロくんたちは、もっとしっかりとその香りを感じているだろう。
 オーレン(仮名)は自ら横になり目を閉じる。
 ピエロくんの呪文らしき言葉と香りで意識は深いところに追いやられていった。
 術にかかったことを確認すると、ピエロくんがマックス(仮名)を呼ぶ。
 マックス(仮名)はジェラルドに視線を送ると、送られた方はその意図を理解し、続いた。
「ボク、カレノテ、ソレゾレノ、テデ、フレル。ゼッタイニ、ハナレナイデ」
 言われたとおりにすると、彼らを包むように霧が出現、そしてオーレン(仮名)の体内に吸い込まれていく。
 とたん、ピエロくん、マックス(仮名)、ジェラルドの意識も途絶えた。

「だ、大丈夫、なのでしょうか?」
 シャールはどんな感じで幻覚に入っていたのかを知らない。
 どちらかといえば、気にもしていなかった。
 こんなにも無防備な状態なのか……と唖然としてしまう。
 よくこれで肉体が無事であったと思う。
「俺たちは濃霧に助けられたな」
 ハンクも同じことを感じたのだろう。
 シャールの疑問にそう返した。
「そうみたいですね。でも、少し、違うような気もします」
「どう違う?」
「そうですね。今はオーレン(仮名)さんの意識の中にある幻覚に入り込んでいるのではないでしょうか」
「俺たちも、そうだったんだろう?」
「そうなのだと思いますが、でも、違うような……」
「ま、どちらにしろ、戻ってきた時に、気になるなら聞けばいい。俺たちはあいつらの肉体を守ることが任務だ。シャール、おまえも、出入り口から死角になるところに隠れているといい」
「いいえ。私も戦います、援護射撃くらいはできると思います」
「……そうか。無茶はするな」
「はい」
 ダメだと言われると思った。
 だが、受け入れてくれた。
 シャールは少しだけハンクに認められたような気持ちになり、胸にほっこりとするものを感じるのだった。

※※※

 オーレン(仮名)の幻覚の中に入ったマックス(仮名)とジェラルドは……。

「真っ暗ですな」とジェラルド。
「あいつの意識がない状態だからね。でも、ちゃんと入り口はあるはず」
 マックス(仮名)は暗い空間をキョロキョロと見渡す。
 入り口、とはどんなものなのか、ジェラルドにはわからない。
「誰にでも見えるものですか、その入り口は」
「どうだろう? ああ、でも、その心配はなさそうだ。あれがオーレン(仮名)の入り口のようだよ」
 マックス(仮名)が指さす方をジェラルドも見る。
 そこには巨大な花が口を開けて佇んでいた。
「……っ、こんなもの、いつのまに?」
「突然出ることもあれば、そこにあることもある。あまり深く追求すると、脳味噌が疲れちゃうよ?」
「それで、この人喰花の中に入ると?」
「入るよ、当然でしょ」
 マックス(仮名)はそれがなにか? という顔を見せてからさっさと花の中に入ってしまう。
 ジェラルドも戸惑いがないといえば嘘になるが、これも経験とあとに続いた。
 花の中に入ると一気に景色が広がる。
 森林、ジャングル、どう表現するかは見た人の感覚だろう。
 マックス(仮名)は「ずいぶんとまた個性的な森だな」といい、ジェラルドは「まるで空想の密林ですな」という。
 つまり、オーレン(仮名)のあの巨大な植物が生い茂った空間なのだ。
「さてと。ここは俺たちが少佐を助けるために入ったオーレン(仮名)の幻覚の記憶。つまり、彼の記憶の一部ってわけ。これから俺たちは彼の記憶を客観的に見させてもらい、ライザ少尉が飛ばされる瞬間、俺たちも飛び込む。予定では、そうすれば彼女のいる空間、霧の中を共有できているはずで、そうなったら彼女に俺たちの存在に気づいてもらう。のだけど、俺たちは記憶を見ているのであるから、直接手助けはできない。彼女がその状態で誰のことを思っているかを汲み取り、それを霧で演出して、出口まで誘導する」
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