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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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飴と鞭

「……はい」
「そうですか。わかっていながら、不正を行ったことは、のちほど軍帽会議に申告させていただきます。よろしいですね?」
「……え?」
「ただの行方不明であれば黙認してもいいとは思っていました。とても優秀な人材であり、なにより少佐が気にかけていたという情報も得ましたので。しかし、あなたが同士である兵士を攻撃していたという目撃情報もありまして。その辺りを説明していただかないことには、負傷した兵士、そして今も行方がわからないライザ少尉に対して、申し訳がたちません。その辺、ご理解していただけますね? たとえ、別世界の者であっても、人間の世界で起きた事件の関係者ともなれば、こちらの規則、ルールに従っていただくのは鉄則というものです」
「……なっ! あ、いや……」
「なにか申したいことがあれば、遠慮せずにどうぞ。もちろん黙秘という選択肢もありますが、無言は肯定とみなします」
「……っう……」
 言いたいことはある。
 だが、この状況で話せという方が無理だ。
 オーレン(仮名)はどうにもならない不甲斐なさと決断力のなさに憤りを感じ、強く拳を握る。
 爪が手のひらに食い込み、痛い。
 それでも声をあげられないのは、恐怖という支配下から抜け出すだけの保証と勇気がないからだ。
 すると、頭上が見下ろしていたハンクが、バンッ! と肩を叩く。
 ドキリとしたオーレン(仮名)は背筋が伸び、そして見上げる。
 その先に、今にでも人を殺しそうな形相のハンクの顔を見た。
「なあ、いい加減、はっきりしたらどうだ? 軍には規律がある。素性を隠す。なりすます。スパイ行為をしていたのでは? と疑われても仕方がないな。さらに、今回の汽車の件の首謀者は、おまえということになっている。マックス、おまえはそう呼ばれ、マックスであり続けた。であれば、マックスとして責任を負う義務があるってことくらい、軍人でなくてもわかることだろう?」
 ジェラルドが恩恵をかけるなら、ハンクはその逆。
 オーレン(仮名)を脅し煽り、追いつめる。
 ハンクはさらにオーレン(仮名)を責める。
「だいたい、オーレンって名前があるのに、なぜマックスと名乗った? そもそも、おまえたちは実の名を無闇に名乗らないらしいな。オーレン(仮名)というのも偽名。マックス(仮名)も偽名ってことだろう? だったら、オーレン(仮名)でよかったんじゃないのか?」
「……う、ち、ちがっ……」
「違う? なにが?」
「だ、だって、マ、マックス(仮名)はあいつ……」
 オーレン(仮名)は柵の外にいるマックス(仮名)へと視線を向ける。
「だから、なんでマックス(仮名)になりすましたんだって聞いている」
「そ、それは……」
「近くで見ていたんだろう? マックス(仮名)が偽装の履歴と書類で入隊し、ケインの情報を得るため、クロード少佐に近づこうとしているのを。だが、マックス(仮名)は別の行動をとった。マックス(仮名)の気づきあげたものを横取りしたんだろう?」
 ハンクはオーレン(仮名)の胸ぐらを掴み、顔を近づける。
 オーレン(仮名)は恐怖で失禁、悪臭が漂うがハンクは止めない。
 そのタイミングでジェラルドが入った。
「まあまあ、それくらいにしないか、曹長。ケインのことは我々も追っている。進展がなく情報がほしいところなんだ。どうだろうか、オーレン(仮名)。ケインについての情報交換をしようじゃないか。そのついでに、ライザ少尉がいそうな場所を教えてほしい。その礼として、ここでの扱いに対し、譲歩してくれるよう、あちら側に頼んでもいい。悪い条件ではないと思うが? なあに、こちらは作戦の真意等は関係ない。目的は行方がわからないライザ少尉の捜索で、協力をお願いするために、こちら側にきたのだから。少し時間をやろう。決心がついたら声をかけてくれ」
 そこでジェラルドとハンクは牢から出た。

※※※

 牢から出たふたりは、そのまま別の部屋に移動する。
 そこは円卓のあるあの部屋で、シャールはそこで待機していた。
 尋問の様子は壁に映写されているかのように映し出されている。
 マックス(仮名)が言うには、これも術のひとつらしい。
 少し遅れてマックス(仮名)が合流し、ことの成り行きを眺めていた。
「手応えはありそう?」
 マックス(仮名)は、アストレイ(仮名)が直接尋問している映像を見ながら、ハンクたちに投げかけた。
 ハンクは「どうだろうな」と煮え切らない言い方だったが、ジェラルドは手応えを感じているような感じだった。
「オーレン(仮名)のことだからな。マックス(仮名)と名乗ってしでかした責任をとれと迫っても、マックス(仮名)はあいつ(俺のこと)だから関係ないって言いそうなんだよね」
「実際、言おうとしていたと思う。何度か言い掛けていたからな」
「そうみたいだね。でも言わせなかったのは、ハンクが恐怖心を煽るから」
「それが作戦だ。神経逆なでして追いつめて、ついうっかり口を割ってくれればいいんだが。なかなか強情な男だな」
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