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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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仮死の少佐

 ハンクをはじめ、兵士の証言を夢を見ていたのだろうと決めつけたことを悔いる。
 たしかに、世界は広く、そして知らないことの方が多い。
 自分の感覚ではかってはいけないのだと、いま、それを思い知らされた。
「驚かせてしまったようですね」とアストレイ(仮名)。
「いえ……」
 というジェラルドだが、声が上擦り、動揺しているのが隠せない。
「なにぶん、外部の者にこの敷地内の構造を知られたくはないもので。ご理解、いただきたい」
「……わかっています」
 立場が逆であれば、自身も同じことをしただろう。
 ジェラルドはアストレイ(仮名)の行動、思考が理解できる方だった。
「それで、少佐は?」
「この奥の隔離部屋におります。人間ですので、こちらとしてもなるべく隠しておきたいもので。それと、普通のケガや病気ではないので。はじめに申しておきますが、少佐には外傷はありませんでした。完全に心と脳への攻撃でのダメージと考えられます。ただ、それの治療には下した者の自白が不可欠です。たとえるなら、毒の治療には使用された毒がわからないことには対処のしようがない。というのと似ているとお考えください。今は現状維持を優先しております」
 毒のたとえはとてもわかりやすかった。
 照らし合わせると、現状維持を保つのも教科書通りの処置といってもいい。
 しかし、その処置はあまり時間をかけられないリスクがある。
 維持を保っていても、少しずつ毒には犯されているからだ。
 であるならば、受けた痛手は今も少しずつ進行しているのだろう。
「予断を許さない……ということでしょうか?」
「はい。そうです」
「それで、主犯の自白は?」
「難航しております。相当の圧力をかけられていたようで、どんな責めにも屈しておりません。最悪の場合は薬物拷問も辞さない。その覚悟で当たっております。ジェラルド軍曹はとても手練れの軍人とお見受けいたしました。尋問、されますか?」
「……よいのですか?」
「こちらとしても重要な人物ですので、使い物にならないほど痛め付けられるのは困りますが、方法が変わればあるいは……とも思いまして」
「そうですか。では、お言葉に甘え、尋問をさせていただく。その前に、やはり少佐をひとめ、見ておきたい」
「はい。どうぞ。そういえば、シャールさんやハンクさんもまだでしたね。どうぞ、ご同行ください」

※※※

 少佐がいると言われた部屋は、とても空気が冷たかった。
 現状維持とは、仮死状態、もしくはギリギリまで肉体の温度を下げて保管しているという状態だった。
 棺桶のような箱に横たわる少佐は、まるで死人のよう。
 しかし、触れれば死体の感触とは違い、生きている肉体と同じ肌の弾力があった。
「この状態で、どれくらい保てるとお考えですかな?」
 ジェラルドが聞く。
 時間がなければ聞き出す方法は限られてくる。
「ある程度は大丈夫です。ただ何日と断言はできませんが、三日は持ちます」
「三日は? とは?」
「三日後、正しくは二日と半日後には引き渡すという約束をしております」
「主犯を?」
「こちらもいろいろとありまして。ただ、彼、オーレン(仮名)は引き渡されたくはないというのが正直なところでしょう。だからといって、すべてを話す気はない。どちらにしても、彼には未来はないと思います。それでも話さないのは……」
「どちらも恐怖であるなら、より恐怖な方に従う」
「はい。そこで、少し口裏を合わせたいのですが」
「どんな?」
「すべてを話してくれたら、人間の世界で保護する……と。つまり、人間として生きていくまであれば、全面的に協力をすると」
「どういうことですかな?」
「吸血鬼であること、その時の記憶すべてを抹消。作り替えます。さらに吸血能力をなくし人であると思いこませます。一度、人の血を知ってしまった彼はまた人を襲う可能性がありますが、吸血鬼を人に戻す方法は今のところありません。そのため、記憶を操作して苦しみを和らげるのです。彼の場合は姿も変えましょう。一族が追っ手を差し向けても、簡単にはしっぽを掴めないくらいに。実際、そうするかどうかは決めておりませんが、そういう方法もあると知っておいていただき、自白させるための道具としてお使いいただきたい。彼が確認を求めてきたら、そうだと言っていただきたいのです」
「……わかりました。薬物拷問は最終手段、と思っても?」
「はい。正直、最初から使用するつもりでしたが、マックス(仮名)に反対されてしまいましてね」
「賢明な決断かと。では、そのように」
 ジェラルドなら薬物拷問も厭わないくらいに思っていると思っていた。
 少佐を救うためなら。
 しかし、そうはしなかったのには彼にも理由があった。
「そういえば、ライザ少尉の件ですが」
「はい。それも、オーレン(仮名)がなにか知っているかと思います」
「そうですか。ありがとうございます。それで、いつから尋問させていただけるのでしょう?」
「このあとすぐに、地下牢にご案内いたします。そこで行われている様子を見ていただき、作戦を練ってください。ハンクさんやシャールさんも、ご希望があれば」
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