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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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「そーなんだけどね。この時点で、軍人がひとりもいないっていうのが痛手だよ。せめて、ハンクさんが曹長としての信用とか功績とか、使えたならって。実際、現役なの? 退役済みなの? どっち?」
 矛先がハンクへと移る。
 ハンクとて、実際どういう立場であるのか疑問である。
 ただ擬神兵として処分される立場であることは明白。
 であるならば、退役扱いなのかもしれない。
「どうだろうな……」
 ハンクは濁した。
「だが、ひとつだけ確実なのは……」
 と続けた、言葉を切る。
 果たして、自分の口から言っていいものなのだろうか。
 それも、シャールのいる前で。
 彼女は強い。
 マックス(仮名)たちがどう捕らえても取り乱したりはしないだろう。
「そうだな。下手に期待をされても困るから、言っておくが。俺は擬神兵であり、いつ理性が切れても不思議ではない。抹殺対象だ。マックス(仮名)も少佐の近くにいたなら知っていたんじゃないのか?」
 彼ら一族が擬神兵をよく思わず、そしてそれを作り上げた人間を嫌悪している。
 自ら望んで擬神兵になったと知ってもなお、存在を許せないでいるのは、なんとなく感じ取れていた。
「知ってるよ」
 マックス(仮名)は無感情で返した。
「でも、それをあっさり受け入れちゃうってどういうこと? ま、それが本望だっていうなら、もうなにも言わないけど。だけど、人に戻れないにしても、理性を保てるような薬の開発とか、ケアとか、しないっていうのはね。それを受け入れちゃうっていうのもね」
 意外にも、マックス(仮名)はハンクの決断に苛立ち、怒っていた。
 ハンクは別に、自暴自棄になっていたり、諦めたりしているわけではない。
 擬神兵は次第に理性を失っていくことは、後々わかったことで、仲間がそうなっていく様、苦しむ姿も目の当たりにしてきた。
 仲間の自尊心を守るため、彼は仲間同士で最期のとどめを刺すことを提案、彼らもそれを受け入れていたと思っている。
 戦争が終わり、散り散りになった仲間の最期に手を下すのは、隊長であった自分の役割で、それを担った自分の最期もまた、誰かに狩られてしまうのも仕方のないこと。
 ただ、もし可能なら、狂ってしまった、いずれ狂ってしまう仲間を助けられる特効薬が開発されるのなら、それに越したことはない。
 だが、エレインの言っていたことを思い返せば、それができる可能性はほぼ絶望的だろう。
 だからこそ、神殺しの弾丸を生み出したのだから。
「反論もなしかよ……」
 マックス(仮名)はガッカリだ……という仕草を見せた。
 それでも。
「悪足掻きくらいはしてもいいんじゃないの? ほかは知らないけど、今のハンクはまだ正常、理性は保てているわけじゃん。これも何かの縁。俺たち一族に頼んでみてもいいと思うけどね……」
 マックス(仮名)はハンクに向けて言いながら、視線はアストレイ(仮名)を見ていた。
「まったく。どこまでも面倒ごとを持ち帰る男だ、マックス(仮名)は」
 アストレイ(仮名)は余計なことを……というニュアンスを含む言い方をした。
 しかし、彼がハンクを見る瞳には、面倒ごとを毛嫌いしているようには見えない。
「絶対はありえませんが、なにかのついでに、考えてみてもいいですよ。擬神兵全員に効果があるかというのはわかりませんが、少なくとも、ケイン絡みの擬神兵に関しては、打つ手を考えているところでしたので」
 ケイン絡みと前置きをしたのにはわけがあった。
 ケインの元はたぶん一族の誰がの血なりが関係していると予測。
 情報では、一族ないしケインに類似した擬神兵、もしくは吸血鬼が存在しているらしい。
 吸血鬼化してしまった人間を元に戻す研究を最近、はじめたからだった。
 自分の意志で人を捨てるのならいい。
 そうでない場合の末路は悲惨で、見るに耐えない。
 ゆえに、そういった人間の救済を目的とした組織も存在し、そこが薬の開発に乗り出していたのだった。
「……というわけなんだけど、ひと口、乗ってみない?」
 まるで、食事でもどう? と誘っているくらい軽い感じでマックス(仮名)が言う。
 それがあまりにも当たり前のような誘い方で、ハンクは一瞬、理解に困った。
 その様子を見ていたピエロくん、キツネくん、そしてジェラルドのお面くんはわずかに顔を緩める。
 こういう展開になるのがわかっていたかのように。
 そしてシャールは。
「ハンクさん。ここは、お願いしてもいいところだと思います。可能性はゼロではない。それがわかっただけでも幸運です。それに、まだハンクさんには理性があります。狂ってしまうなんて、予測ができないくらいに。もしかしたら……希望を持つのは大事です」
 まるで自分のことのように語る。
 ハンクはどう答えるべきか悩む。
「ああ、もう。じれったいな。ここはさ、ひと言、頼む。でいいんじゃないの?」
 とにかくマックス(仮名)の口調は軽い。
 このノリに乗っかっていいのか、悩むくらいに。
 そしてハンクは声を絞り出すように言う。
「いいのか。それに期待をして。俺は、自分の言ったことを実行して、かつての同士を手に掛けてきた。許されるとは思っていないが、その可能性に縋ってもいいのだろうか」
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