ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

再び地下室


※※※

「ほう。作戦は成功したようだね」

 霧に包まれ、一瞬にして吸血鬼一族の世界へと移動して彼らの前に、アストレイ(仮名)が待っていた。
 場所は、地下室。
 円卓のある、あの部屋に移動していた。
 アストレイ(仮名)はピエロくんたちが連れていたオーレン(仮名)の姿と、ハンクが担いでいた男を見て、作戦は成功したのだと悟ったのだが。
「実はさ。そうでもないんだよ」
 と、マックス(仮名)が神妙な表情でいう。
 軽口風だが、表情はその口調にあっていない。
 アストレイ(仮名)は、マックス(仮名)の表情と、共にいた面々の顔を伺い、彼が言っていることが結構まずい結果となっていることを知った。
「ライザ少尉が、不明? 幻覚世界の中で?」
 あまりのことで、アストレイ(仮名)は幾度も復唱する。
「なんてことだ。きみたちがついていながら……」
 どちらにも負傷がなく終わることが大前提。
 そうでなくてはならない作戦だった。
 これから先、ことあるごとに今回のことを持ち出されたくはないからだ。
 仮に、ケインの件は人間側に非があったとしても、だからといってオーレン(仮名)のしたことは正当化はできない。
 それを、協力して解決する道を作れたからこそ、後々まで引きずることはないと、思っていた。
 そうなるように動くことを前提に、渋る組織を説得したこともあった。
 それなのに!

「アストレイ(仮名)。過ぎたことを悔やんでも仕方がない」
 珍しい。
 マックス(仮名)がもっともらしいことを言っている。
 だが、誰もそれを野次ることはしない。
「今はやれることをしよう。このままでは少尉は眠り続けるだけの人生になってしまう。まずはその治療。そしてケアだ。かなりエグいものを見させられている。シャールもケアを受けた方がいい」
「……そうですね。あなたの言うとおりです、マックス(仮名)。今はできることをしましょう。ケアのできる者を待機させています。それと、少佐の方は、医師も待機しているので診せましょう。それと、オーレン(仮名)のことですが、彼の組織幹部から抗議がきていましてね」
「そんなもの、聞き入れる必要はないんじゃないかな。彼には聞きたいことが多々ある。少佐の回復には、この男の証言が不可欠だ」
「それには同意いたします。ですが、一族同士で争いは起こしたくはないのですよ。その辺も察してください。期間は三日。三日後の日の入りに解放、彼の組織に手渡すことで、納得していただけました」
「三日? たった三日でなにができる?」
「それをしていただくしかありません。少佐を助け、ケインのことを聞き出します」
「ま、それはほぼ無駄と思うけどね」
「わかっています。それでもしないよりはこちら側の者たちを納得させられるでしょう。それで、オーレン(仮名)のような行動の抑止力になればと思っているのですが。マックス(仮名)は反対ですか?」
「いや。任せるよ」
「ありがとう。あなたなら、そう言ってくれると信じていました。それで、聞き出す方法ですが……」
 アストレイ(仮名)はやや言いにくそうな顔を見せる。
 オーレン(仮名)の強行ぶり、なりふり構っていられないほどせっぱ詰まった状況から察するに、簡単に協力してくれるとは考え難い。
「アストレイ(仮名)? なにを考えているのかな?」
 彼がなにを考えているのか、マックス(仮名)にもだいたいの予測はついた。
 だが、それは人道的に反していると言ってもいい。
 オーレン(仮名)の自我は崩壊、廃人にしてしまうからだ。
「あのさ、アストレイ(仮名)。その方法は、なんていうか、あまり賛成はできないかな。もっと別の……」
「そうでしょうか。三日という限られた時間を多いと思うか少ないと思うかはやり方次第ですよ。もちろん、我々一族だけのことであれば選択肢は広がりますが、今は少佐のこともあります。なにをしたかわからない状態では治療もできません。下手に施して少佐の方が廃人になってしまいます。それでいいのですか? 被害はこちらが被ってこそ、今後も人間とよい関係を続けられるのではないでしょうか?」
「たしかに。でも、それって。それってさ、こちらがリスクを背負ったのですからってことで、これからの取引を優位に使うための手段ってことじゃん? 交渉って、つき合いって、対等でなきゃ長続きはしない」
「では、マックス(仮名)はどうしろと?」
「せめて、信用できる軍の幹部クラスに正直に話す。幹部が無理ならジェラルド軍曹でもいい。聞くところによると、にわかに心事がたいってことですべてを信じてはくれてないみたいだけど、少佐の口からもことの経緯を聞ければ信じるに値すると思ってくれるかもしれない。こちらは主犯を捕らえている。それだけでも十分対等に向き合ってくれるんじゃないかって。甘い?」
「ええ。甘すぎます。この時点で信じてもらえていない。かなりの向かい風です。仮に、その方法が最善としても、ライザ少尉がいない今は、さらに不信感を抱かせるだけでは?」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。