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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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対立派閥

 マックス(仮名)は背筋が凍るような感覚がした。
「ええっと……」
 マックス(仮名)はなんとか気持ちを落ち着かせようと間をとる。
 とはいえ、彼としては後ろめたいことはなにもしていない。
 あの時、その時、適切であり正しい判断であったと自負しているからだ。
 だが、定期連絡を怠っていたのは事実で、そこになにか隠し事をしているのではないかと疑われてしまうのも仕方がない。
 身から出た錆というものだ。
「えっと、まあ、その……連絡をしなかったのは悪かったよ。でもさ、そっちも催促はしなかったよね?」
「責任転嫁? そう何人も送れるわけないことは知っていたはずだ。こちらから連絡を入れる危険性も……」
「……確かに。悪かったよ。俺としては意外と簡単にケインのしっぽを掴めると踏んでいたんだ。けど甘かった……」
「そこ、そこだよマックス(仮名)。なぜそう思った? 今までずっと手探りでしかなかったケインを射程内に捕らえられたのはなぜだ?」
「確かにクロード少佐と行動をしていると真実味の落差はあれどケインと擬神兵の情報は集まっていた。なりすまして近づく作戦は成功だったよ。でも、軍は融通が利かない。少佐ひとりの判断ではどうにもならないこともあったりで、俺は作戦中に失踪したという筋書きで脱走することにした。というかバレでも似ても似つかない、軍人規定を満たしていない男に辿りつくだけだし」
「ああ、それね。まんまとハメられたわよ!」
 ライザはその時の悔しさを思いだし、歯を食いしばる。
 その殺気は言葉では説明しようにも恐ろしくてできるものではない。
 マックス(仮名)はできるだけ彼女をみないように説明を続けた。
「俺としてはその情報は賭だった。状況報告から察すると、ケインの仕業でもありそうでし、一族の誰かが掟を破り人間を食い散らかしたのか、そのどちらかで確率は1/2だった。少佐も移動する方向で動いてはいたが、こういうのは時間との勝負。もし後者なら同じところにいないだろうし、すぐに移動する。その習性がケインにもあれば、形跡すら残さずに立ち去られる可能性がある。だから……。まあ、その時に連絡を入れておけばよかったと今になって思うよ。ホント、悪かったって」
 アストレイ(仮名)は呆れたようなため息を吐く。
「過ぎてしまったことを今更どうこう言っても仕方ありませんから。それで、怠っただけの収穫はあったんでしょうね?」
「いや、それがさ……そこでわからなくなっちゃったんだよ」
「は? ふさげてんのか?」
「いや、大まじめ。一族では人間を迎え入れる、つまり人間の吸血鬼化は御法度だったはずだよね?」
「当然だ。どうしても迎え入れたい時は、それぞれの派閥の代表の過半数以上の賛同が必要だ。得られない場合は人間の世界で人として生きていくしかない。かなり過酷ではあるな」
「だよね。だから一族同士で家族を構成していく。無闇に増やさないために」
「そうだ。それは徹底されているはずだ。なにかあればこちらにも情報は入る。まさか……!」
「そう、そのまさかだったんだよ。急に人が吸血鬼化して町の人を襲い始めた。自尊心も自制心も持たない化け物だよ。契約を結ぶから成り立つ。でもその契約を無視したら……。そんなこと一族なら誰もが知っている。だから、犯人はケインだと思った。が、その騒動で血の臭いが充満して見失った。俺程度では個人の血の臭いを選別できない。で、そこでもう一度軍に戻るという選択肢もあったんだけど……」
「……戻らなかったわけか」
「まあね」
 マックス(仮名)はヘラヘラしながら答えた。
 アストレイ(仮名)はやれやれとさらに呆れたため息を吐く。
 そしてこう言った。
「軍の規律は厳しい。逃亡兵への罰則に怖じ気ずいたな?」
「バレました? いやさ、なんとか上手く誤魔化せそうな台詞も用意してみたんだけど。なんかね……で、そうこうしている間に、ケインがそこのお嬢さん、シャール嬢と接触、かつての隊長ハンクさんを勧誘するんじゃないかって情報を得た。だけど追えなくて。ケイン、ハンク、シャール。三人の中で一番追跡しやすいのはシャール嬢だと思ってね。ほら、ハンク隊長は途中で行方がわからなくなったし。ケインも同じだし。シャール嬢のことを調べていたら意外な人物との接点がわかったし。それで今回の作戦を実行したわけなんだけど、なかなか上手くいかないものだね……」
 相変わらずヘラヘラしているせいか、本当にそう思っているのかが怪しい。
 だがアストレイ(仮名)を見れば真剣に聞き真剣に考えている。
 マックス(仮名)のヘラヘラは平常運行である証のようだ。
「マックス(仮名)、おまえの失態はふたつだな。ひとつ、正規の手順で退役しなかったこと。ふたつ、連絡をせず単独で動いたことだ。せめてどちらかでもしていればこうはならなかっただろう。正規で退役していれば信憑性のある情報筋から入手としてクロード少佐に提供、一時同行も出来たはずだ。それで単独行動は回避となる。また、ほかの者がマックス(仮名)になりすまし、軍に居座ることもなかった。おまえの作戦を邪魔したのは誰だ?」
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