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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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これまでのこと

 丁寧にお辞儀をした。
「私はライザ。私たちの世界では軍に所属していて階級は少尉よ。こちらの方々は仮の名前を名乗るのが礼儀なのかしら?」
「すみません。彼、マックス(仮名)の場合は任務上コードネームのようなものを任務ごとに付け与えております」
「ええ、それは知っているわ。作戦コードとか、任務の時に仮の名前を名乗るとか、よくあることだから、気にしないで。でも、あなたは代理なのでしょう?」
「実はボクにも使い分けたい理由がありましてね。ご了承いただけないでしょうか?」
「まあ、そういうことなら」
「ありがとうございます。それでそちらの方は?」
 アストレイ(仮名)はひとりだけ雰囲気の違うシャールに目をつける。
「私はシャール。こちらはハンクさんです。えっと、私は一般人ですが……」
「俺は一応元軍人、最後の階級は曹長だ」
 ついでとばかりにハンクの紹介も終わると、アストレイ(仮名)の視線はマックス(仮名)をみた。
「早速、人間を連れてきた説明をいただきたいものだね、マックス(仮名)。きみは定期連絡が途絶えている状態だったんだが?」
 定期連絡を入れる期間は定まっていない。
 調査に時間がかかるならば一週間や一ヶ月単位というのもある。
 短い場合は三日、毎日ということもあるだろう。
 毎日であるなら、昨日と今日のことで途絶えてしまった理由の説明はつく。
「軍を辞めたんでね」
「……? そういう指示は出していないが?」
「単独だよ」
「……っう!」
 雰囲気的には温厚そうなアストレイ(仮名)の気が乱れる。
 一瞬、なんともいえない殺意のようなものが駆け抜けたような……
「怖っ!」
「マックス(仮名)、茶化さない」
 そう言った時のアストレイ(仮名)は温厚なイメージのままの彼に戻っていた。
 さて、ここでライザは小さく首を傾げた。
「あの、話の途中でごめんなさい。ちょっといいかしら?」
「なんです、ライザ少尉」とアストレイ(仮名)。
「いいよ、なに?」とマックス(仮名)。
 ライザはふたりを交互に見てから、
「マックス(仮名)が辞めた、というよりは逃亡的に軍から逃げた、脱走ともいうけど、それって事件の日じゃないの? ええっと、昨晩の任務中」
「違うよ」
 マックス(仮名)は即答で返した。
「え? じゃあ、少佐と一緒に作業に当たっていたマックスって隊員は誰なの?」
 そこにハンクが加わる。
「ああ、それでか。納得だ」
「え? ちょっと、なん? なんでハンクが納得しているの?」
「目撃情報がな。ちょっとありえないと思ってな。マックス(仮名)の話を信じると辻褄があわない」
「もう! また私だけ蚊帳の外? 説明、説明をしなさいよ、あんたたちは!」
 ライザが髪を振り乱しながら説明を求める主張をしていると、アストレイ(仮名)が、
「それはボクも是非聞かせていただきたいね。マックス(仮名)。そしてハンク……確かこちらで得ている情報では元擬神兵隊の隊長、ハンク・ヘンリエット曹長」
 と、冷ややかな声色で静かに言う。
 ライザのように感情に任せた言い方よりも、静かに言われた方が迫力がある。
 それにある程度の情報は知られており、隠すだけ無駄であると悟ったハンクは諦めのため息を吐いた。

「俺は目撃をしたという兵士からこう情報を得た。蔦を操っているのは行方がわからなくなっていた兵士である。それはマックスである……と。だがマックス(仮名)の話では、蔦を操っているのは別の一族の者でマックス(仮名)ではないということだ。彼には植物を操れる能力はないと聞いている。となると、マックス隊員はどこかで入れ替わっているということだ。姿の変化が出来ていたのか、もしくは我々が幻影を常に見させられていたのか。まあどちらにしろ、入れ替わっていたってことだろう?」
「それは違うよ、ヘンリエット曹長。俺はね、そういうことはしない。それをしてしまうとマックス(仮名)として動けなくなるじゃないか」
「まあ、そうだな。だが、ふたりで共謀すれば可能ではないか?」
「それはそうだけど、そもそもあいつとは共謀する意味がない。言ったでしょ。根底にある思いは同じでも過程が違うって。俺たちが保守的ならあいつらは攻撃的かつ過激的って感じで、共闘はない……かな。だからさ、あいつがマックス隊員になりすましているって知ったときは驚いたよ。ただ、あいつは姿を似せるというような芸当はできないはずだから……」
「なにかを仕組んだのでしょうね……」とアストレイ(仮名)。
「なにか……とは?」
 ハンクが問う。
「ボクは専門外ですから確信とまではいきませんけれど、植物には幻覚を見せる、聞かせる効力があるものがあるようで、それらを定期的に取り入れていれば可能かと。たとえば、臭い、食べ物、薬など。紛れ込ませようと思えばいくらでも」
「迂闊だったわ……」とライザ。
「問題を起こさない限り、素性の再調査なんかしないだろう。こればかりは仕方がないな」とハンク。
「それで? 話を戻すとどういうことなのか説明がほしいね、マックス(仮名)」とアストレイ(仮名)が再び静かな口調で催促をした。
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