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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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想定外の出来事

 バンッ! とテーブルを叩く。
「ちょっと、勝手に話を進めないで、私にもわかるように話しなさいよ!」
 ライザの言動にマックス(仮名)は半ば呆れ顔を見せながら、
「せっかちなお嬢さんだ。なにも話さないとは言っていないよ?」
 とひょうひょうとした態度でいる。
 それがさらにライザを苛立たせていた。
「だったら話しなさいよ。そもそも履歴を偽り姿を偽り軍に潜入とか、大罪だから。極刑よ! 軍法会議なんて必要ないから」
「え? そこから?」
「当然でしょ!」
「いや、そこはさ……察してよ」
「私だけ置き去りで、察してって無理に決まっているでしょ!」
「……承知した。となると、俺の一族の話も必要になるね。あのさライザ少尉。あなたは吸血鬼って存在を信じられる? あ、俺は擬神兵じゃないから。そういう意味で信じられる?」
 その後、ライザがなんともいえないような不細工な顔をしてマックス(仮名)を凝視したのは言うまでもない。

※※※

「ざっくりと言っちゃうと、俺たち一族はケインのオリジナルって感じかな。まあ、正しくはないけど間違いでもない。なぜケインのような擬神兵を作り出せたのかをエレインって人に聞いてはみたいんだけど、死んでしまったんじゃしょうがないよね。死んだって言うのは、そこのハンク・ヘンリエット曹長の目撃情報のみっていう信憑性に欠けるものだけど」
 ライザは、にわかに信じがたいことを言っているな……というのが正直なところだが、シャールでさえ受け入れているのだから、そうなのだろう。
「ま、まあ。エレインの死亡に関しては私もなんともいえないところはあるんだけど。そもそも死体が無くなっていたわけだし」
「でしょう?」
「だけど、あなたが吸血鬼。しかも擬神兵ではないっていうあたりがね……むしろ、擬神兵ですって言われた方が信憑性があるわ」
「でも、俺は違う。擬神兵という人の手で作られた化け物の存在を知ったのは、先の戦争の終盤だ。あれだろ? 押されていた状況を打破するには人の力以上のものが必要だ。圧倒的な強さを見せつけ刃向かえないようにしてしまおうってことから研究に力を注いだ。結果、その通りになった。惨敗は免れたが、双方ともたくさんの犠牲者をだした。それでも、双方にとって戦争に終演が訪れたことは喜ばしいことではあった。俺たち一族は人間の世界がどうなろうと知ったことではないというのが建前だが、接種できる血が無くなるのは勿体ない、その程度だな。血っていうのはなにも人からじゃなくてもいい。血が流れているモノからであれば。ただ、その中で人の血は格別な美味で、一度その味を知ってしまうとそれ以外をなかなか口にしたくなくなるっていう問題もあり、一族の中でも派閥があって、人の生き血は口にしないを徹底している者もいる。だが、どうでもいい人間の世界に突如出現した擬神兵の存在は別だった。あれらのオリジナルもいい気分じゃなかっただろうな。戦争が終わり、あれらはどうなるのか。人の世界で受け入れられないのなら、オリジナルたちが救いの手を差し伸べるのか。一応、俺たちの一族でもそんな議論をしていた派閥はある。見方をかえれば人の欲望のために犠牲になったといってもいい存在だからさ、人に拒絶をされたら迎え入れてやろうって意見の方が多かったのは事実だ。けど、そんな俺たちの気持ちをあの男はあっさり裏切った。新たな擬神兵、擬神兵を集め束ね、新たな国家の設立。人を襲い仲間を増やす。そんなことのための力ではない。俺たちはケインを探し抹殺すること。擬神兵の生みの親であるエレインの生死の事実。生み出された擬神兵の処分。それらを遂行するために人の世界に紛れ込み、情報を集めていた。俺が軍に潜り込んだのは、クロード・ヴィザースに近づきケインの情報を得ること。そして彼の部隊にいれば擬神兵を追える。かつ、彼は抹殺の命を受けている。同行することでふたつの役割を果たせるからね、お近づきなるために頑張ったんだよ? まあ、情報の方は当てが外れたけど、擬神兵の抹殺の役割は果たせているし、ハンクっていう擬神兵の元隊長殿と出会えたし。いい感じじゃんって思っていた矢先、ケインと直接対決があった。俺としてはここで捕まえてやると張り切っていたんだけど。まあ、結果は言わなくてもわかるでしょ。で、それ以降、ケインの気配はプッツリと消えた。なので、俺もちょっと強硬手段に出ることにしたわけ。軍を去るのはちょっと勿体ない気もしたけど、方向性を変えない限りどうにもならなかったからね」
 マックス(仮名)は、チラリとシャールを見た。
「……?」
「シャールとの接触は、もう少し穏便に行うつもりだったんだ。俺たちは人の世界に紛れ込み同調するように行動をする。その時、人の記憶を探ることがある。人間てさ、同じ記憶や思い出の共有で意外と簡単に相手を信じて受け入れるところがあるでしょ? だからついやっちゃうんだよね。手っ取り早いし。今回もそれで上手く情報だけを聞き出そうとしたんだけどさ。邪魔が入った。三人は無事に霧から出してあげられたけど、少佐はダメだった。今はもうあいつの手中だと思う」
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