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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

シャールの考え

 ライザの判断にジェラルドが頷き、指示を出した。
 それでもハンクの表情は変わらない。
「まだだ。まだ解決への糸口にはなっていない。蔦はどうみる? 異様に巨大化してしまう生物は希にある。人喰いの植物も存在するくらいだ、あの蔦の存在に驚くことはないが……」
「なぜ急に出現したのか。なぜ霧が晴れると動きが止まるのか。蔦の出現に意味があるのか……そんなところかしら?」
「ああ、そうだな」
 するとジェラルドが一枚の紙を眺めながらポツリと言う。
「その件なのですが」と。
「実は中毒の成分はなんなのかも早急に調べさせましたところ、これまた面白い結果を得ましたよ」
「あら、ジェラルド軍曹。結果がでているのでしたら勿体ぶらずに情報の共有をしていただきたいわ」
「もちろんです、少尉。蔦の件に関しましては霧の話とは別にしたかったもので。後付けとなってしまいますが」
 そう前置きをしてから、場にいる一同を見渡してから、ゆっくりと唇を動かした。
「あの蔦は実在する植物と同じ成分でありながら、信じがたいことに巨大化をしてしまっている……というものです。詳細にはまだ時間がかかるそうですが、その蔦は通常密林地帯にしか存在せず、このような荒れ地で育つことは皆無だそうです。だが、ゼロとは言い切れない。どんなに乾いた土地であっても地中深くには水脈がありますので、そこから水分を得られるのであれば……と、かなり非現実的なことが書かれてあります。が、我々はすでに非現実的なことをいくつも目の当たりにしておりますので、地中深くにまで根が張っているのでしょう。仮に地中深くにその元があったとしても急激に育つことはなく、人工的な細工がされているであろうとの追記があります」
 ジェラルドはハンクを見ながら報告を締めくくった。
「ふっ……なるほどな。人工的な施しを受けた蔦、人工的に発生させた霧、霧には幻覚を見せるような中毒症状がでる何かが含まれ、軍人数名を連れ去った。人工的な蔦と霧を使い一般人が使用している汽車を強引に止め、乗客に危害。決まりだな。まだ終わっていない。汽車の乗客の中にもターゲットがいる。もしかしたら、それが本命かもしれん。もう一度来るぞ。昨晩の悪夢が!」

※※※

「私も同行します。連れて行ってください、ハンクさん! 絶対に足手まといにはなりませんから!」

 陽が傾きはじめ夕刻へと時が刻む中、シャールは縋るようにハンクに頼みごとをしていた。
 再現をするため、昨晩と同じ場所にて待機することになったのだが、ライザとハンクはシャールを軍の保護下に残すことを決めた。
 ジェラルドもその決断を賢明な判断と称賛し、責任を持って身の安全を守ると約束をしてくれた。
 自力で動けない兵士以外は昨夜と同じ持ち場にて待機となる。
 シャールは自力で動けるし、思いの外頭の中もスッキリとしていて好調といってもいいくらいの状態である。
 それなのに置いて行かれるのだ。
「どうしてですか? 私が一般人だからですか? 女性だからですか?」
 軍人なら、四の五の言わずに持ち場につけと言われるだろう。
 一般人の男性なら、無理のない程度で協力してほしいと言われることもあるかもしれない。
「ハンクさんをどうにかするために、私を狙ってくるかもしれないんてすよね? それって、ハンクさんにはサシでどうにかできる相手ではないと思っているからではないですか? だからアキレス腱になるかもしれない私を狙うんです。だったら、ハンクさんといた方が私は安全なのではないですか?」
 軍の能力を疑っているわけではないが、たしかに自分の目の届くところにいてくれた方が守りやすいという点はある。
 ハンクはジッとシャールを見下ろした。
「……一理あるな」
「それだったら……」
「俺とおまえが共にいた場合、有耶無耶になるかもしれない。離れていた方がより正確なことがわかる」
「それだったら、私、変装します」
「……なに?」
 無表情を貫いていたハンクの表情が一変、声もわずかに裏返っていた。
 間の抜けたような顔をしているハンクを見上げたシャールもつられてクスリと笑う。
「提案があります、ハンクさん」
「……言ってみろ」
「軍のテントに私に化けた人をおきます。女性の方にお願いできればいいのですが、無理なら小柄な男性でも騙せると思います。私は女性ではなく少年のような姿で昨晩と同じ場所で待機します。外見で認識しているのでしたら騙せると思いますが、ぞうでない場合はすぐにバレてしまう作戦ですけど」
「どうやって認識をしているか……それも検証するに値するな。わかった。ライザにかけあってくる。だが、却下されたら諦めろ」
「……わかりました」
 ライザはたぶん却下というだろう。
 だけど、ギリギリのところで気持ちを汲んでくれる情というものを持っている女性である。
 シャールはそこに賭けることにした。

 しばくするとハンクとライザがシャールの元へとやってくる。
 ライザの表情は明らかに困惑の色を出していたが、意外にも彼女の口から出た言葉は、表情と真逆のことだった。
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