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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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偽造とすり替わり

 たしかに似ても似つかない。
「というわれだけど、シャールの考えは?」
「ああ、はい。その志願は先の戦争の時ですよね」
「ええ、そうよ」
「その時採用にならなくても、数年後、再び受けたら受かることもあるのでしょうか?」
「あるわよ。基準もその時々で違うこともあるし、求める兵士のタイプが違うこともある。戦争中は質より量なたころがあるけれど、そうでない時は人員不足の部から要望とかもらうし」
「そうなんですね。では、そうなのではないでしょうか?」
「ん? どういうこと?」
「ですから、なんらかでふたりは出会い、口裏を合わせた。もしくは当事者の死らないところで取引をされ、別人になりすました。前と違うと言われたら、先の戦争でケガをして整形したとでもいえばいいですし。まあ、庶民が簡単に整形なんて無理でしょうが、その辺りも潜らせようと画策した人が資金提供すれば問題はありませんよね」
 シャールの見解にジェラルドが深く興味を示す。
「なかなか面白い。興味深い。実は、資金難になりたくない軍の上層部は、あの手この手で資金繰りをしていると聞きます。援助している方もいますし、その者から頼むと言われれば断れないでしょう。経緯は憶測でしかありませんので、とりあえず行方がわからない者たちを探し、問いただしましょう。支援者絡みの暗躍も視野に入れ、こちらは私の方で探りをいれてみます。それから、中毒作用の報告があがってきています」
 ジェラルドは報告書を手にざっくりと見てからライザに手渡す。
 ライザもざっくりと眺め、重要な箇所だけを再度確認するように見てからハンクに渡す。
 ハンクは結論だけを見てジェラルドに返した。
「とても興味深い結果でしたよ」とジェラルド。
「人工的につくられた霧だったというわけね」とライザ。
 それだけを聞けばシャールにも理解できる。
 誰かがなにかの目的のために、人工的に霧を作り出し、走行している汽車を止め、ターゲット以外の者たちに危害を加えたのだと言うことを。
 ターゲットが少佐であるなら、もうこれ以上の被害はでないだろう。
 一同はおそらくそう思ったはずである。
 少佐には申し訳ないが、ターゲットが軍人であったこと、一般人にこれ以上の被害がでないということは救いである。
 究明は求められるが、新たな被害が出ないことが重要だった。
 しかし、ひとりだけ厳しい表情を崩さない男がいた。
 ハンク・ヘンリエットだ。
「なぜ気を抜く? まだ終わっていない」
「……ハンク? これで終わりだなんて、誰も思ってないわよ?」
「当然だ。霧が人工的に作り出されたものであった。ターゲットは少佐だ。そうであるなら確かにこれ以上の被害は出ないかもしれない。だが本当にそれで片づけてしまっていいのか? 少佐を襲うならもっと効率のいい方法があるだろう。彼らは擬神兵を追っていたのだから、次はどこに向かうかくらいの情報はその気になれば得られる。そこで待ち伏せした方が手っ取り早いだろう。なぜ汽車を襲う? そこに意味があるからだ。ターゲットは少佐だけでない可能性はないのか? 汽車を止める、そこに意味があるのだとしたら、ターゲットは俺である可能性もあるし、もしかしたらシャールだったかもしれん」
「ちょっと、最後以外の理屈は納得できる。でも、シャールがターゲットって。彼女は一般人よ? 犯罪まで犯して攻撃したいほどの恨みを買ってしまっているとは思えないわ」
「シャールは一度ケインの手に落ちている。たとえば、俺が目的として俺自身を攻撃するよりはシャールを攻撃した方が効果がある場合がある。拷問、脅迫など、無関係のものを攻撃しているのを見せた方がいいことは、この世界に身を置くものなら知っていることだ。だから身内の話は口にしない。親しい人との距離を置く。厳しい任務に携わる者ほど平穏というものを遠ざける。ライザだってそうだろう? 情報部にいる者として、やたらと仕事の話は他言しない。また大切な人を巻き込まないよう、本当の素性は隠し二重三重に過去を作り替える」
 ライザはしばしハンクの顔を無言で見据えた。
 それからひとつ息を吐く。
「……たしかに、そうよ。仮に自身のことを聞かされたとしても無条件で信じたりはしないわ。また提出された書類の書かれた経歴もしっかり裏をとる。得た情報は口外しない。それは保身ではなく大切な人を守ることになるからよ。重要任務に携わった軍人は簡単には退役できないし、できたとしても生涯、監視がつきまとう。噂では記憶の書き換えをしているともいうけれど、実際はどうかしらね。で、それがわかっていてハンクはシャールを手元に置くことにしたのは、守れる自信があることと、シャール自身が自身の立場を理解しわきまえているから。でしょう?」
「ああ……が、口ではなんとでも言えるがな。今回も結局はシャールにとばっちりを与えてしまった。まさか、汽車ごととは……」
「でも、あなたがターゲットとは決まっていないわ。もっと重要人物が素性を隠して乗っていたのかもしれないわ。乗客の裏もとりましょう」
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