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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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正体

「軍の後始末のようなものだし、軍としてもあまり経費はかけたくないとか?」
「あると思います」
「支援者関係ってことかしら?」
「そう思っていた方がよいと解釈いたしました」
「だとしてもよ? お役所仕事をするってわけでもないのだから、それなりのなにかはあるわよね?」
「私が見た限り、訓練を受けた新人よりは使えると感じました。とくに目立つ感じでもなく、人当たりも可もなく不可もなく。改めて問われますと、印象の薄い男としかいいようがないですな」
「そう……。ねえ、怪しくない?」
「たしかにな」とハンク。
「でも、疑うっていうのは。だってその方も行方がわからないのでしょう?」とシャール。
「いや、自ら去ったという考えであれば、辻褄があうと思います」とジェラルド。
 そしてジェラルドは隊員たちに与えた仕事をひとまずとめさせ、その男について知っている者がいれば包み隠さず報告するようにと伝達をだした。
 ジェラルドのいうように、本当に印象の薄い男だったようで、同じ隊にいた者からでさえ情報があがってこない。
 そんな中、「彼のことでしたら少佐がご存じだと思います」と意外な情報が飛び込んできた。
「どういうことだ、報告しろ」
 いつになくジェラルドの口調が厳しくなる。
 意外な情報を提供した隊員は「はっ!」と姿勢を正す。
「自分もそれほどはっきりと断言できるほどの情報は持っていませんが、少佐はずいぶんと彼のことを気にかけていたようであります」
「なぜ?」
「そこまでは……しかし、時折呼びよこしては、頼むというような主旨の言葉を耳にしたことがありますので、個人的に任務を与えていたのかと推測しております。ただ、時折少佐は眠りが浅いことを気にかけておいでで、彼はそれに対し助言をしていたような場面もあったと記憶しております。ただこちらもすべての会話を聞いたわけでないので、信憑性としてはほとんどないと思っております。以上であります」
 彼はさらに背筋を伸ばし……いやそらすような感じで正した。
 ジェラルドは、どうおもう? というような視線でハンクとライザを見た。
 意見を求められたふたりは口を閉ざす。
 これといって意見がまったくないというわけではなく、突っ込みたい内容であるからこそ、どう言えばいいのか、適切な言葉が見つからないだけであった。
 しかし、それが答えであることはジェラルドにはわかっていた。
 彼もまた、ふたりと同じ心境だったからだ。
「睡眠が浅いという話は私も聞いたことがあります。本人の口より、寝付きが悪いというようなことですけど」
 とライザが言う。
 それに関してはジェラルドにも思い当たることが多々あった。
「となれば、あの兵士の言っていることもまんざらでもないということじゃないのか?」
 とハンクがふたりの顔を見る。
「まあ、そうなるわね。つまり、敵は少佐の懐に入り込んでいたってことになるわね」
「ああ……」
 敵が近くにいた……場にいた者たちがざわつき出す。
 そんな中、シャールは珍しく小難しそうな顔をしていた。
 ライザはシャールの様子が気になり声をかける。
「シャール、どうかした?」
「ライザさん。みなさんは、その兵士を犯人と思っているのですよね? 偽造の履歴で入隊をしたから」
「ええ、そうよ」
「今こうして簡単に偽のものだとわかるような履歴でよく入隊できましたよね」
「言われてみれば、まさにそこがツッコミところなのよ、シャール。戦争中で志願兵はどんな者であれ大助かりという時ではないので、しっかりと素行的なものまで調べているのよ。まあ、よこしまな気持ちで志願しても、訓練の厳しさに挫けたり、その時の適正などで落とされたりもするから、だいたい残るのは信念のようなものをしかっりともった心の強い者たちってことになるわ。ただ、推薦となるとね。志願兵以上にしっかりと裏はとるはずなのよ。たとえどんなバックがいようとも。右から左に処理され受理されてしまうようなことは絶対にない……と今まで思っていたけれど、今回の件でそうでないことが証明されるというとても残念な結果にはなってしまったわ……」
「あの、ではこうは考えられないでしょうか?」
「なにか思い当たることがあるのなら、聞きましょう」
「ありがとうございます。もともと、推薦で入ってきた者はその履歴通りの人で、なにかの時に入れ替わったとは考えられませんか? その書類の人は今、どうなっているのですか?」
「実在する人物よ。でも、軍人としての経歴はまったくないわ。ただ一度だけ志願兵として適正審査を受けたみたいだけど。ああ、それとね。この書類にある写真とは別人だったわ」
 ライザの報告に、ハンクが首を傾げた。
「なあ、どうやってこの短時間で顔認証をしたんだ?」
「ああ、同姓同名を調べて経歴がまったく同じものに絞ったらビンゴ。で、連絡をして確認をした。志願兵の時も顔写真が残るから、通話で風貌を聞き確認をしたというわけ」
 ライザは志願兵の時の書類に張られている写真とを比べられるように並べておいた。
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