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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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潜伏者

「……ん? どういうことでしょう?」
「簡単なことです。私の過去を調べられないからです。絶対にできないと断言できます。もちろん上辺だけのことでしたら故郷の人たちに聞き回れば可能でしょうが、私が先の戦争中に思ったことは私にしか知らないことです。誰にも話してはいません。もしかしたら、父が面倒を見ていた子供たちなら察していたかもしれません。父も。でも、その父はいません。父がハンクさんと同じ部隊にいたのだから誰かしら聞いていると思われるかもしれませんが、父は他人にそういう話をするような人ではありません。きっと、自分のことを話すついでに私のことを話したとしても、楽しい思い出だったのではないでしょうか」
 シャールは最後にハンクの顔を見た。
 ハンクはその当時のことを思い出したのか、かすかに笑みを浮かべたように見えたが、すぐにその表情は消え、真顔に戻る。
「俺の知る限りだが、擬神兵となった彼らはあまり悲しい過去は口にはしていなかったと思う。故郷のことを思い出したり、辛い経験を語る者はいたが、その先には必ず未来を語っていた。それは俺がいない時でも同じだったのではないか。俺はそう思う。となると、シャールの記憶を知るものはシャール自身となる。たしかに、説明ができないな」
 と、ハンクがジェラルドを見た。
「これは私の完敗のようですね。わかりました。みな、異次元、異世界にいたような経験をした。少佐はその世界に取り残されてしまっている。となるのであれば、どうすればその世界に入れるのかを検証した方が早そうですね。その時と同じ状況を待って、繰り返してみるとしましょう」

※※※

 現実の世界で朝を迎え、霧が晴れた状態になっていた時、幻想の中に取り残されたクロードは、ひたすらケインの背中を追いかけていた。
 追いかけても追いかけてもまったく距離が縮まらない。
 気付けば背後から聞こえていたハンクの声もしない。
 暗闇の中、ぼんやりと見えるケインの背中を追いかけ続けた彼は、ふと立ち止まる。
「私はいったい……」
 なにをしているのだろう?
 そんな疑問がふと脳裏に浮かんだ。
「戻らなくては……」
 追っていたケインの背中に背を向けようとした時、彼に悪魔が囁く。
「それでいいのかい?」
「誰だ?」
「誰……と聞くかい? 心外だね。私はキミだよ?」
「なにを言って……」
 と言い返そうとしたが、声がでない。
 次第に体が動かなくなり、今まで背中しか見せていなかったケインがこちらを見ている。

 ケイン、きさま、なにを、した?

 クロードはその問いかけを声に出すことなく、事切れたのだった。

※※※

 現実の世界では、ジェラルドの指揮のもと、昨晩と同じ状況の中で再現をしようと動き出していた。
 霧の発生率はゼロ。
 もともと霧など発生しない場所なのだ、当然であるが、霧は晴れても巨大な蔦は存在し続け、汽車の先頭車両から中程までに絡みついている。
 霧が発生し蔦が出現している。
 また今の蔦はまったく静かで動いてはいない。
 すべては霧が関係しているのだろう。
 となれば、汽車の進路を妨害したのは偶然ではなく必然、なにか意図があってのこと。
 だとするならば、意図的にかつ人工的に行われている可能性が強い。
 目的が達成されていなければ、日暮れと共にもう一度霧が発生し、巨大な蔦の化け物も活性化するはずである。
 そこにライザが戻ってきた。
「行方不明の隊員の資料と、関係者からの話をまとめると……先の戦場の最前線に配置されていた関係者の血縁者がいたわ。たぶん、少佐は彼の幻想と共有してしまい戦地で戦っていたのだと思うわ」
「つまり、聞いた話と想像とがごっちゃになった状態ということか」
「たぶんね。少佐もあれで結構部下思いのところがあるから、なにかの時にも聞いたか、もしくは自身で資料を見たりしたのかもしれないわね。死んだ部下はその人かもしれないわ。幻想の中で死んでしまった場合、あちらに囚われたままになってしまうのかしら」
 だが、それに帰ってくる言葉はなかった。
 誰も体験していないのだから答えようがない。
「でも、少佐と同じく行方がわからないのだから、その可能性も考えておいた方がいいわね。もう一度同じことをしてあちらに行くというのなら、なにがなんでも死んではダメってこと」
「ああ」
「それと、少佐とともに外の作業に就いたのはもうひとりいてね。ただ、その隊員の素性がね……提出されているものが偽装したものだったのよ。入隊の際は素性、調べるわよね? どういうことなの?」
 ライザは責任を問うようにジェラルドを見た。
「推薦枠であると記憶しております」
「推薦? そんなの、あるの?」
「私も、知り得ませんでしたが、少佐を筆頭に擬神兵討伐の隊を編成するという話がでた時、その者の推薦を受けました。おそらく軍人ではなく、別のなにかで特別待遇でると思い、それはそれで致し方ないものと理解しました」
「ええと、確か少佐のお父上が発案、だったかしら?」
「さようでございます」
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