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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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疑惑とカラクリ

「ちょっと待って、ハンク。力の差の件はともかく、幻影のケインになら勝算はあるのでは?」
「肉体的にはな。だが精神がやられたら、いくら五体満足でも死体と変わらんだろう」
「……っう。酷い言い方だけど、そうね。精神攻撃は強者で厄介だわ」
 ライザは唇を噛みしめた。
 それから隊員の方を見る。
「あなたたちも知っていると思うけれど、少佐と外で作業をしていた隊員が行方不明になっているの。あなたたちなら、彼らはどういう異世界にいると思う? まあ少佐の場合はケインを追いかけていってしまったらしいのだけど」
「そうですね。隊員全員素性を知っているわけではありませんが、ひとり、自分と同期の者が作業に当たっています。同期といってもあちらは資産家のご子息で階級も上ですが、気さくな人物で面倒見のいい男です。その彼が珍しく愚痴ったことがありますが」
「いいわ、聞かせて。もちろん守秘義務的な内容は省いてくれていいわ」
「では簡単に。知り合いが擬神兵適正結果を受けたのだとか。だがそれ以降、行方がわからないらしいのです。それを調べるために志願したと。まさか自分が擬神兵討伐に加わるとは因果だと」
 ライザは「知っていた?」とジェラルドに問う。
「表向きの素性は把握していますが、そういったことまでは。血縁関係に擬神兵適正がいたのであれば書類に残りますが、知人では。さらにいえば、適正がでたといっても成功するとは限りませんので、もし、最悪の場合はデータ削除、書類には残らないでしょう」
「となると、軍やケインに恨みをもっていても不思議ではないな」とハンク。
「そうね。絶対とはいえないけれど。そっち方面で疑似体験とかしている可能性はあるかもしれないわね」
「ああ。ケインを追った少佐。擬神兵の知人を捜している隊員。ケインという共通点で合流しているかもしれないな。どうにかしてケインとあう方法か少佐と同じ現状の体験ができる方法を探るしかないな」
「わかったわ。その隊員の素性と擬神兵の知人、その辺りは私の管轄ね。情報部フル回転で調べさせるわ。で、ほかにはない?」
「すみません、少尉。それほど親しいわけでないですから。それに、志願兵はいろいろ抱えているもので、あえて誰かに話すということはないと思います。が、士官学校や貴族、資産家の出などであれば、親自慢など酒の席でする者もいるとは思いますが」
「……まったく、その通り。正論だわ。ありがとう。あなたたちもゆっくりと休んで」
「承知いたしました。また何かあればお声がけください」
 隊員が一斉に敬礼、そしてテントを後にした。
 少し間をおいてライザが情報部に連絡を入れてくるといい出て行く。
 シャールの近くにはハンクとジェラルドが残った。

「まったく、いまもなお信じられない」
 ジェラルドは少し頭を抱えるようにして呟く。
「しかし、すべて事実です」
 ハンクが念を押すように言うと、ジェラルドは「わかっている」と自分自身に言い聞かせるように呟いた。
「だが、それでも……」
 納得し難いと彼はいう。
「なにかカラクリがあるのではないか?」
「たとえば?」
「何者かが意図的に催眠療法的なことを施した。その方がまだ現実的だ」
「わかります。そうであれば簡単なことと思います」
「ふっ……あなたがそう言ってくれるのは救いですな。だが、そうだとしても疑問は多々ある。一度に何人もの人にそれらを施せるのか、道具などは必要ないのか、あげていたらキリがない。それでも、個々の素性を知ればどうにでもできることなのではないか? 記憶を作り替えるなど……だが、どうやって記憶操作をするのだ。それこそ非現実的だ」
 現実的なこと、その可能性を例えても、それらをひとつずつ突き詰めていけば非現実的なことになってしまう。
 ジェラルドは可能性としてありえることを考えるのがバカらしくなっていく。
 そんな時、今まで黙っていたシャールが口を開いた。
「あの、少しいいでしょうか?」
「……なにかね」
「その、ジェラルドさんの考え方も一理あるとは思います。霧がとても濃かったので、誰か不審なものが近寄ってきたとしても瞬時に対処はできなかったでしょうし、なにかで眠らされてしまったら、それこそ隙だらけです。視界が悪くてもハンクさんたちなら気配で気付くとは思いますが、それは異常な状態でも正しく察知できるものでしょうか」
 シャールの視線がハンクを見る。
「気配で察知いる……常に気を張っていてこその技だ。それに俺はシャールが思っているほど的確に察知はできん。だから、異常な状態になればさらに鈍る。もしくは異常に鋭くなる。そのどちらかだ。それを踏まえ、霧の中、汽車からでてからのことを思い返してみたが、何者かが近づく気配も殺気も感じはしなかった。で、納得できたか?」
「ありがとうございます。十分です。このようにハンクさんでさえ鈍るのであれば、蔦の処理、攻撃してくる蔦を切っていた彼らはそちらに意識がいきますので、何者かが近づいても気付いていなかったと推測できます。ジェラルドさんの現実的な仮説は可能です。でも、それは私には通用しないと思います」
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