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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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それぞれが見たもの

 一旦言葉を区切り、また話を続ける。
「ですから、少佐とともにいた者たちも少佐といながら別のものを見ていた可能性が大いにあるということです。私たちは少佐と合流した際、あの方が戦場にいるような言動を見聞きして戦争というキーワードからそれぞれ別々のものを見始めました。というのであれば、少佐がどうして戦場にいることになったのか、それは爆破を設置する作業と、戦場でのそれらの作業が似ていたのでしょう」
「少し待ってください、ライザ少尉。少佐は戦地には行っていないと思いますが」
「そうです。ですから、少佐にとっての連想ゲームみたいなものが、爆破=戦争であり、シャールにとっては戦争=貧困を紛らわすための童話、ハンクは実際に経験しているので、その時のきつい経験の密林になったのだと思います。では共にいた者たちはどうだったのでしょう。車内で倒れていたという者たちの話も聞き、行方のわからない者たちを現実に連れ戻しましょう」
「だがライザ少尉。非現実的すぎる。霧が晴れている今、捜索隊を派遣した方が現実的だと思わんかね」
「軍曹の言いたいことはもっともです。ですが、せめて、車内で倒れていた者たちの話だけでも聞いてください。結論はそれからでも遅くはないと思います。行方がわからないのは、それなりに訓練された軍人なのですから」
 一般人でないのだけが救いだとライザが言うと、ジェラルドもそれには強く同意すると頷いた。

 疲労が強く残っているシャールを動かすよりは、そこに集まった方がいいだろうと、ライザは車内で倒れていた兵士を連れてきた。
 シャールたちより先に救出されていたこともあり、心身ともにほぼ回復の兆しがある。
 ざっくりとだがライザが説明してくれていたこともあり、彼らの飲み込みは早い。
 シャールと再会すると、早速とばかりに一晩の間に経験したことを語り始めた。

※※※

「自分たちは乗客の救出が終わり、死体の運び出しも終わったのち、すぐに対処に移行しました。少佐は根本からの爆破を試みると決断されましたので、それを設置する班と、自在に動き攻撃する蔦を切り落とす班とでわかれました。が、作業する者を護衛する者も必要でしたが、そんなに人員を割くこともできず、設置を少佐おひとりで、その少佐の作業を邪魔されないよう数名の隊員が護衛につきました。つまり、蔦の攻撃を車内と車外でも行うということです。正直、たかが蔦と侮っていたこともあり、車内班は苦戦しました。霧と明かりのない場所での攻防は困難で、自分も含め、その場にいた者は多かれ少なかれ外傷を負っています」
 そう言って、袖をめくったり、上着をめくったりなどしてケガの具合を見せてくれた。
「ひとり、かなりの重傷で起きれない者がいます。そんな状況下でしたので、車外はもっと困難だったのではないでしょうか。我々は自身の身を守ることだけでよかったのですが、車外は設置している少佐の護衛も入りますからね。守りながらの戦いは厳しいです」
 いったん話を切る。
 周りを見渡し、そして話を続けた。
「救出され意識が戻った時、ジェラルド軍曹殿より、少佐とほかの隊員はどうしたのかと聞かれ、我々は蔦の爆破に失敗したのかと聞き返しました。どうしたのかと聞かれた時、失敗したものと思ったからです。しかし、蔦は爆破すらされておらず、しかも爆破装置の設置が途中で止まっていいると言うのです。蔦に負けたとは考え難いですが、姿そのものが消えてしまっていると知り、その……」
 チラリとライザの顔を見る。
 ライザは
「思ったことを話してくれていいのよ。どんなことでも、私たち、とくに私とハンク、シャールは否定も避難もしないし、信じるから」
 と軽く肩に手をおく。
 隊員はそれでも何度も言葉を飲み込む。
 それくらい躊躇することを思っているということだ。
 そして意を決して出した言葉は、
「異世界に取り込まれたのだと思いますっ!」
 と、まくし立てるように言った。
 ライザとハンク、シャールはその者たちの話に耳を傾けるが、ジェラルドは信じられないと首を横に振る。
 それを目にした彼らはさらに恐縮してしまい、話そうとした口を閉ざしてしまう。
 ライザはため息をこれみよがしに吐いた。
 そうすることでジェラルドに余計な圧を彼らに与えるなと促す。
 ジェラルドも自分の行動が緊張感を高めてしまったことに気づき、「続けてくれ」と話を催促するが後の祭りである。
 隊員らの萎縮はそう簡単には溶けない。
 そこにシャールが加わる。
「とてもいい表現だわ。異世界、そういう表現をすればよかったのかもしれないわね。ね、ライザさん」
 それぞれが別の世界を、幻想を見させられている状態をどう説明していいのかわからなかったシャールは、彼らの例えが素直にとても的確なものだと思った。
 夢を見ているようとは思っても、そう他人に指摘されれば実態感があったのだから夢ではないと主張したくなる。
 現に、ジェラルドに夢を見ていただけとまとめられた時、そうではないと強く反発をしたが、ではどう言えば伝わるのか、適切な言葉が思い浮かばなかった。
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