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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

少佐の苛立ち

「少佐の場合はなぜ戦争だったのかしらね?」
 もともとの発端は少佐なのだから、そのあたりの説明をする義務があるとか、ライザが強気に責めた。
 クロードは面倒くさいという顔はしたものの、自身でもなぜ戦地だったのかを考えなくてはならないと思った。
 今回は厄介なものを相手にしなくてはならない。
 心の奥底にある、自身でも気づいていないなにかに反応してしまうのだとすれば、自身を知る必要があるからだ。
 シャールほど鮮明な思いがあるわけではない。
 どちらかといえばハンク程度のものでしかない。
 これといって意識もしていないが、クロードにとっては戦争といえば荒野での激戦だった。
「私にとって、荒野での激戦が戦争といえばで思い出す一番のものというわけではない。先の戦争には直接的な参加はしていない。今回、擬神兵やケインのことがなければ、表だって動くこともなかったのではないかと思っている。ではなぜ、参戦もしていない荒野の激戦だったのか……だが」
 いったん、言葉を止める。
 自分でも気づいていないことを思い返すということはなかなか難しく、そして認めたくないことも認めなくてはならない。
 クロードの性格を考えれば、難易度が高めである。
 次の言葉が出せずにいると、シャールが「もしかして」と止まっていた会話の時間を進めた。
「もしかして少佐にとっての戦争が荒野の激戦だったのは、私と同じ理由だったのではないですか? たとえば、お兄さんであるケインさんからの手紙、新聞などの記事、思いこみとして刷り込まれていたとしても不思議ではないと思います。戦地を知らない者にとっては記事だけが頼りで、そこから読みとり想像するしかありませんから」
シャールの読みは当たっていたようだ。
 クロードはばつの悪い表情をし、顔が俯く。
 誰にも見られたくない表情をしているのだろう。
「原因は爆薬か」とハンク。
 本来なら部下にやらせ、自身は全体を見ながら指示をだし統括する身である。
 しかしクロードは自身が無理をしてでも戦陣をきるクソ真面目で融通が利かないところがある。
 今回は救出などに人員が割かれ、上官や部下関係なくやれることをしなければならないほど、手が足りていなかった。
 爆薬を設置し、し終えたところから爆発させていく。
 火薬のにおい、爆音、地響きなどから激戦であった戦争を連想してしまった。
「これで、幻影が見えてしまう理屈はわかったわね。原因は蔦。でもその蔦はどうやって出現したのか。なぜ触手のように動くのか。結局、問題はなにひとつ解決されていないのかもしれないわ。とにかく、元に戻る鍵を見つけなくてはならないわね」
 ライザが言うと、
「私がこんな目に遭っているのだ、共にいた者たちも同じであると考えられる。だが、おまえたちは私しか見ていないという。持ち場を離れたか、もしくは……」
 とクロードは作業をしていた者たちの身を案じた。
「汽車の中で作業をしていた者たちはまだ中に居ながら幻影を見ている可能性がある。が、外にいた者に関しては……幻影と気づかず発狂してしまう者がいても不思議ではない」
 ハンクが可能性として考えられることを発言した。
 そしてしばし、発言が止まる。
 それぞれが考え考えられる可能性の意見を交わすが、考えられることが非現実的で意見として出すのをためらってしまうのだ。
 また、考えたことがうまく言葉で伝えられないもどかしさもある。
 沈黙がしばし続いたのち、話を進めたのはクロードだった。
「ひとついいか」
「なんでしょう、少佐」
 少佐の問いかけに反応したのはライザだ。
「全員で汽車の中で再会した時のことを思いだし共有してしまえば脱出できるのではないか?」
「ああ、それ。それはダメですよ、少佐」
「なぜだ、少尉」
「しょせん、それも幻影だからです。私は専門外なので詳しくはわかりませんけれど、夢を見ているのと同じようなもの、だと思うんですよ。夢は目を覚ませば終わります。幻影は、それを見せている影響が失われるか、及ぼす範囲からでるか……だと考えています。それに、正しいところで戻らないと、とんでもないことになることも。たとえば岸壁に立たされていたとか。知らなければいいですけど、知ってしまえばパニックですよね」
「少尉の意見を信じるとして、原因は蔦だとわかっているのだ。ここにはそれがない。時間が解決するでいいのではないか?」
「それはどれくらいですか? 私たちには見えないだけで、もしかしたら蔦の中にいるのかもしれません。それだったらいつまで経っても効果が切れることはないのでは?」
「……っう。今思ったのだが、なぜ誰も無線を持っていない? 連絡を取ればすぐ解決だろうが!」
「お言葉ですけど少佐。もともと私たちは少佐と合流すれば無線の回復もできると思っていました。一応、無線はありますけど、故障しています」
 と、ライザがテーブルの上にドンッ! と無線機を置いた。
 うんともすんとも言わない、使えない無線機である。
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