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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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見解

「はい。そもそもこちら側に被害がないのは、客室になっているため、つまりより防御に徹していたからだと思っていました」
 すべて飲み込まれている、覆われてしまっていると思っていたため、被害がないということはそういうことなのだと、ハンクが思ったのも頷ける理由だった。
「そうなると……」
 クロードはチラリとライザをみた。
「ハンクはまだ前の車両なのよね?」
 クロードが聞きたかったであろう質問をシャールに投げかける。
 意地をはらずに聞けばいいのにと思うライザだが、今はそんなことでじゃれ合っている場合ではない。
「はい」
 シャールの返答を受け、クロードが数人の部下を呼び集めた。
「前の車両は未知の物体によって荒らされているらしい。すでに死者も出たという情報がある。各々、気をつけるように。そしてハンク・ヘンリエット曹長をここに連れて来い」
 上官の命を受けた男たちが散っていく。
 再びシャールたちが三人になると、ライザが大きなため息をついた。
「なあに、今の指示。まるでハンク捕獲がメインみたいじゃない」
「実際、同じようなものだろうが」
「あのね、彼はいま、民間人を守ってくれているのでしょう? 援護しにいけ。隙をつくり連れて戻れ。くらいでいいんじゃない?」
「彼女をひとりにして、それだけでも捕獲の理由になるっ!」
「あらあら、いやだわ、もう。シャールが心配だったと言えばいいじゃない。意地っ張り」
「なに? そもそもライザ少尉。きみは上官に対する態度があまりにもだな」
「はいはい。もっと弁えろって言いたいんでしょう? わかっているわよ。そうしてほしいなら、そっちも意地張らないで素直になればいいのよ。ねえ、シャール?」
 と突然話題をふられたシャールはきょとんとした顔を見せた。
「え? あの。その、心配してくださったことはとても嬉しいです。だけど、ハンクさんはいつも私のことを気にかけてくれて、別にひとりにされているとか、放置されているとかはなくて」
 どうにもしまりの悪い言い方になっていく。
 まとまりがつかず、どう終わらせていいのかもわからない。
 そこにタイミングよく彼が戻ってきた。
「シャール、無事か?」
 呼ばれてそちらを向けば、細かいキズが増えながらもしっかりとした足取りでいるハンクの姿を確認し、目頭が熱くなる。
「ハンクさん……よかった、なかなか戻ってこないから、心配しましたよ」
「ああ、悪い。思っていた以上の生命力でな。後部車両には巻き付いていないと知っていれば、外から回ったんだが」
「それは私もいま知ったので仕方ないです。それで、ほかの人は?」
 それに対しハンクは静かに首を横に振った。
「シャールとともに先に戻った者たち以外は……」
 恐怖心に勝てず発狂したり、みずから生きることを諦めてしまったりしたのだという。
 しばらくすると、数人の軍人がけが人をサポートしながら戻ってきた。
「少佐、生存者はこれで最後です。あとはもう……手の施しようがない者も置いてきました」
「そうか。致し方ない。彼らを外に。医療チームも到着している。行け」
 部下に指示を出すと、ハンクを方を向き、見据える。
 ハンクの方はクロードよりは気にもしていないように見える。
「単刀直入に聞く。これはなんだ?」
 ピリピリとした空気をまといながらクロードがハンクに問う。
 聞かれたハンクは肩の力を抜くような吐息をこぼしてから、「俺の方が聞きたい」と返した。
「質問をしているのはこちらだ、ごまかすな」
「そんな意図はない。なにも知らない」
「だが、実際に戦ったのはおまえだ。こちらはなにかが汽車の先頭部分に巻き付いているな。しかもなんだこの濃霧。このあたりで霧が発生したなどという事例はない。ということだ。だがおまえはその過程を体験しているだろうが。なにか感じることなどはなかったのか?」
「それはつまり、擬神兵が関与しているのではないか……と言わせたいのか? 無理だな。その可能性はゼロとは言わないがゼロに等しいと言い切れる」
「なぜだ?」
「擬神兵が近くにいれば、感じることができるからだ。とくに夜は俺の擬神兵としての能力が発揮される。それはケインも同じだが」
「そのケインのことなんだが」
「ああ、そっちの方も確率は低いだろうな。統率する側として考えればわかることだ」
 もっともらしい意見が返される。
 クロードとしても軍人の立場から見てもわかっていることだった。
 決定的ななにかがないこの状況の中で、確信に迫るには意見や見解を聞きまとめていくしかない。
 それでも、クロードはハンクを見据える。
 どうにもこうにも、なんでこの男を前にすると感情を乱されるのか……
 理由がわからないことが苛立ちを募らせる。
 その時、パンッ! となにかが弾ける音がして、意識が途切れた。
 反射的に音のする方を見れば、ライザが手を合わせている。
 つまり、ライザが手を叩いた音だったのである。
「少尉?」
「はいはい、そこまでよ。今は仲違いしている場合じゃないでしょう」
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