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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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それぞれの

 その上でこう提案をした。
「我々は乗客に紛れていままであなた方を監視していた。気づかれていないという自信がある。その点は信用してもらいたい」
「わかっている。だが、危険が迫ったらどうするつもりだ? 民間人はそうそう武器を持ち歩いてはいないし、体術に長けているとも限らない」
「それも一理あるが、それをいったらあなたも同類ではないか?」
「そうだな。だが、ずっと車内いた。ともに旅をしている者として認識されているだろう。だがそちらはどうだろうか。ともにいたところを見られていない。突然見知らぬ男たちが少女を守ったら不審がる。そもそも、軍人が変装して乗り込んでいたと知られる方がパニックになる」
 おそらく、先の先まで考えてはいなかったのだろう。
 もしくは、軍の命令に意義を唱えられるとは思ってもいなかったか。
 軍の男は次の言葉が出てこなかった。
 ハンクはさらにたたみかける。
「だが、俺としては軍に貸しをつくっておきたい。あとあと、なにかと便利そうだからな。そこでだ。ギリギリまで俺はシャールと車内に残る」
「それでは我々に恩を作ることにはならないのでは?」
「まあ待て。擬神兵が近くにいればわかる。だから、その不思議な現象が擬神兵絡みであれば、それが出現すれば俺にはある程度離れていてもわかるということだ。夜になれば本領発揮になる。すぐに向かってやる。これでどうだ?」
 妥当な落としどころだろう。
 軍の男も渋々ではあるが、このあたりが妥協点であると思ったのだろう。
 自身を納得させるように、幾度となく頷いた。
「承知した。それで手を打とう。ただし、そちらが気づくより早く我々が擬神兵を確認できたらこちらの情報を信じ、現地に向かってもらう」
「……わかった」
「結構」
 その言葉を最後に、男は部屋を出ていった。

 シャールは黙ってふたりのやりとりを聞いていた。
 ハンクが無理をするとは思っていなかったが、やはり言い負かされてしまうのではないかと、気が気ではなかった。
 なんとかハンクの言い分を聞きいれて去っていった軍人の後ろ姿が完全に扉によって消えたのを確認してから、小さく安堵の息を吐く。
「わるかったな、変なことに巻き込んでしまって」
 シャールが緊張していたと思ったのか、ハンクが声をかける。
「いいえ。そんなことはないです。本当に擬神兵絡みなら、私が望んだことですから」
「まあ、そうなんだが」
「それで、ハンクさんはどうなんですか?」
「どう、とは?」
「不思議現象の正体です。擬神兵が関わっている率です」
「ああ、そうだな。ゼロと断言できないとしかいいようがないな。本当に、研究のことはエレイン任せでな。俺はいっさい関与していない。いま思えば、もっと関わっていれば、仲間たちの些細ななにかに気づいて寄り添えたかもしれない」
「……ハンクさん」
「結果論だな。もう一度過去をやり直したとしても、俺はそう思うことなく行動して、同じ過ちを繰り返すだろうが」
「それは仕方のないことだと思います。人は過去を悔いて反省をしても、それを次になかなか活かせないものです。過去に戻ってやり直しができたとしても、同じ過ちを繰り返してしまうと、私も思います。だって、私は未来の結果を知っているから正そうと動いても、周りは違います。未来がどうなるかわからない中、そのときその時の判断で動くんです。そうしたら、流されてしまうっていうか。やっぱり、それ以外の判断は考えられないって思うかもしれません」
「そうなると、過去を悔いてる暇はないってことになるな。俺たちには未来しかない。ならば、後悔しない選択をして進むしかない」
「……はい。そうですね。私、ハンクさんの出した答えは正しいと思います。いま、この瞬間に出せる最善の答えだったと、思います」
 シャールがそう断言すると、ハンクは口元を少しだけ緩めて笑った。

「それにしても……」
 しばしの沈黙ののち、シャールが時を動かす。
「ん?」
「気になりますよね。その、不思議現象」
「ああ、そうだな」
「木々が生える程度であれば、人に危害はないのではないでしょう? だって、もし危害があれば民間の人たちも知っていますよね?」
「軍がもみ消している。情報操作をしている。とも、考えられるな」
「だけど、そこまでするのであれば、ハンクさんに協力を求めませんよね? だって、擬神兵かどうかわかっているってことになりますから」
「問題が起きている場所は荒れ地だ。まず、人は生活していけない場所ってことだ。目撃情報は少ないだろうが、軍に情報があがる程度には広まっている、その程度だろう。危険な場所に行く者は限られている。口止めに対しなにか交換条件を出して一般には知られないようにした。不思議現象に対し、もっともらしい説明ができないからだ。というのが俺の見解だ」
「……なるほど。それだと、擬神兵が関わっている率は低そうですね」
 ゼロと断言できないのは、一度断言してしまうと撤回できないから。
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