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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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行先

 エレインの知らないところで開発が進んでいた、予備軍が用意されていた、その可能性はゼロではない。
 だが……
 ハンクは少しずつ疑念を膨らましつつあるが、それを声にして出せるほどの確信はもてずにいた。
「その辺も探ってみるか。まあ、クロードたちも調べるだろうが」
「……そうですね。じゃあ、軍施設があった町に行くんですか?」
「いや、すぐっていうのは危険すぎる。とりあえず、この場から別の場所に行こう」
 ふたりは近くの町から汽車に乗り、できるだけクロードたちから離れることを優先することにした。

※※※

 シャールは高鳴る鼓動を押さえることで精一杯だった。
 生まれて二度目の汽車での移動、前回はあまりの嬉しさに自分を押さえきれず、ずいぶんと子供っぽい言動をしてしまったと少しだけ後悔したからだった。
 文句も言わずハンクは付き合ってくれたが、心中は面倒だったかもしれない。
 あれから、ハンクの戦う姿を幾度も見、そして擬神兵となった時のすさまじさを目の当たりにし、自分と同じと思ってはいけないのだ。
 心身の疲労は人の何倍もあり、自分では思いもしない苦悩があるのだ。
 少しはハンクを気遣う、大人でありたい。
 それでも、まだ人生二度目の汽車はワクワク感が増し、いつまで押さえていられるか、シャール自身にもわからない状態だった。
「珍しいな。どこか具合でも悪いのか?」
 できるだけ遠くに移動するため、寝台付きの汽車を選ぶと、運良く一般客室がふた部屋開いているという。
 行き先もほとんど確認せず、ハンクはその部屋をとり、運賃は最終駅まで支払った。
 車両の席で流れる景色を見るシャール、それを物珍しそうに見るハンクという構図である。
「えっと、べつに、どこも悪くないけど?」
「……そうか。それならいいが」
「どうしたんです、ハンクさん」
「いや、なかなか年頃の女の子の考えていることはわからないな……と思ってな」
「……? どういう?」
「汽車にはじめて乗った時のはしゃぎようは凄かったからな。もう珍しくもないくらい、乗ったのか? その、俺と別れている間に」
「移動はほぼ馬でしたから、馬車か徒歩でしたけど?」
「じゃあ、前回の乗車で満足をしたのか?」
「そういうわけではないですけど」
 といいながら、シャールは落ち着きを隠せずにそわそわしはじめる。
 そうなるとさすがのハンクにもシャールの考えが手に取るようにわかるのだった。
「はっ、そういうことか。かまわないぞ、俺は。好きなだけはしゃげばいい。なんなら、前回できなかったことを付き合ってもいい。とはいっても、それほどめぼしいものもないがな」
 といいながら、肩を震わせて笑っている。
 すべて見透かされてしまった……そう悟ったシャールは顔が俯き、そして真っ赤に染めていた。
 ハンクの笑いのツボが収まったのは、次の駅に着いた頃だった。
 駅から駅への移動は馬車や馬よりは早いが、もの凄く早いというほどでもない。
 というのも、線路の上を動物が移動すれば止まり、何か車体に異常があれば止まり……問題なく次の駅にたどり着ける確率は五分五分といったところだろうか。
 環境改善や開拓が進んでいれば、そのような問題はないに等しい。
 運良く、ふたりが乗った駅は開拓が進んでいる地域で、次の駅も開拓が完了しつつある場所。
 問題なく到着できたということは、予定通りということ。
 ハンクの笑いのツボも意外と早く収束したといったところか。
 開拓が進んでいる地域は人の往来も多く、駅の利用者も多い。
「下車してみるか?」
 駅の利用者が多いところは、しばし停車している時間がある。
 車体の検査などもその間に行うので、駅周辺の出店くらいなら見て回る時間はある。
「いいんですか?」
「ああ。だが、発車の汽笛が鳴ったら戻れよ」
「はい! ハンクさんは行かないんですか?」
「俺が行ったら、シャールは存分に楽しめないだろう? 気にせず行ってこい。あまり時間はないぞ」
 そんな話をしている間にも時間は刻々と過ぎていく。
 シャールは小さい鞄をひとつ持ち、デッキから駅のホームへと降り立った。
 下車した乗客目当てに商売をする人が、シャールめがけて突進。
 シャールは物珍しそうに商売人の薦める物に見入っていた。
 ハンクは車内の窓から、そんなシャールの姿を暖かい眼差しで見つめている。
 どうやらこの当たりは平和そうだ……人の雰囲気も明るく活気がある。
 このあたりの治安が安定しているのなら、擬神兵の噂もないだろうし、ケインが潜んでいるとも思えない。
 シャールの安否を気遣いながら、ハンクは今後のことを考える。
 たしかに、ライザを通して得られる軍が掴んでいる情報が得られないのは厳しいが、今、ライザと連絡を取ると言うことはもれなくクロードに筒抜けになるということだ。
 情報部のライザと討伐を目的とするクロードは別物だが、クロードとて討伐にあたる際は情報部の持つ情報は欠かせない。
 彼らとはいったん距離を置く、その決断は間違ってはない。
 ライザは身の回りを片づけたら追いかけると言っていることからも、離れても情報部には自分たちの行動を把握されている可能性がある。
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