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俺と彼女の退屈な日常

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第18話

「キョウスケ、解ってる? これデートじゃないのよ。真面目にやるのよ。いい? ……な~んてな」
 喫茶店を出た後、村上が俺に顔を近づけながら、精一杯の甲高い声でそう言った。
「キモイ」
「キモイ言うなっ! ほんのジョークじゃないか」
 そんな俺と村上のやり取りを横目に、桐野がみんなの前に立つ。
「それじゃあ、一時にさっきの桜花駅前に集合でいいかな?」
「もーまんたぁーい!」
「……今度は待たせるなよ。ワタシは暑いのが苦手なんだ」
「了解。気をつけるよ」
「紗奈、恭介くん、また後でね? ようしっ! それじゃあ行くよ、リアちゃん、村上くんっ!」
「仰せのままに、朱音ちゃん」
「わ、わかったから手を引っ張るなっ!」
「あ、てめ、こら仙堂院! 羨ましいぞ!」
 そんな会話を繰り広げながら、人ごみの中に消えていく三人。
 駅を中心に、宮原、仙堂院、村上は住宅街が広がる南側を。俺と桐野は、繁華街が広がる北側を捜索することになった。
「じゃあ、行こうか」
「ああ」
 とりあえず、俺と桐野は歩き出した。


「これからどうする?」
「どうすっか……」
 休日ということもあってか、すごい数の人が繁華街に溢れかえっていた。
 人ごみが好きではない俺にとっては、地獄以外のなにものでもない。
「部活申請書に書く以上、一応は非日常を探さないといけないし、私自身、見つけたいんだけど……」
「だけど?」
「……私の家はこの近くにあってね。このあたりは、私が小さいころからよく探索していたんだよ。だから、こんな近場を今更探しても……ねえ?」
「……確かに。俺もこのあたりは小さいころから歩き回っていたからな」
 中学、いや、小学生の時から、俺はこの周辺を歩き回っていた。このあたりの地理なら、そんじょそこらの人間よりは詳しい自信がある。
 だが、非日常を見つけたことは、一度もなかった。
「真白もこのあたりに住んでるのか?」
「ああ。桜花駅から自転車で五分だ」
「そうなのか。私も同じくらいだ。案外近所なんだね」
「そうだな」
 そんな他愛もない世間話をしながら繁華街を歩くと、ふと、ある騒がしい建物が目に入った。
「ゲーセンか」
 繁華街にある、一際大きなゲームセンター。
 最新のものから、少し古いが根強い人気をもつものまで、多くの種類のゲームが置いてあるここのゲームセンターは、この辺りの中高生御用達の場所だった。
 久しく来ていない気がする。店内からここまで聞こえてくる騒音が、妙に懐かしい。
「ゲームセンターか……」
 横にいる桐野が呟いた。
「寄ってくか?」
「……そうしてくれると嬉しいな」
 言いづらそうに顔を赤らめながらそう言った桐野を、少しだけ可愛いと思ってしまった俺を、誰が責められよう。


 ゲームセンターの中は、そこそこ混んでいた。
 土曜日の、しかも午前中ということもあり、いつもは嫌になるほどたむろってる学生たちの姿はなかったが、その代わりにカップルたちがうじゃうじゃといた。
 村上がこの場にいたなら、『こんのリア充ども! 爆発しやがれ!』と叫んでいたことだろう。
「どうしたんだ?」
「いんや、カップルだらけだな、って」
「まあ、確かにそうだけど、私たちだって、傍から見ればカップルに見えなくもないだろう? 一応、男女が二人っきりなんだから」
「うっ……いや、まあ、確かにそうなんだけどさ……」
「とにかくだ。こんな入り口付近で立ち止まってないで、早く行こうじゃないか」
 どことなくわくわくしているように見える桐野が、俺の手を取りゲームセンターの奥へと進んでいく。
「お、おい! 引っ張るなよ!」
「気にするな」
 いや、気にするって。
「真白。これをやろう」
「……クイズゲーム?」
 桐野が指差したのは、多彩な可愛い女の子のキャラクターが出て来るクイズゲーム、『クイズ・マリック・アカデミー』だった。
 前にプレイした時は、最初簡単だった問題が徐々に難しくなっていくにつれて答えられなくなり、ついには投げ出した記憶がある。
 か、勘違いすんなよ! 俺の頭が悪いわけじゃないんだからなっ!
「……まあ、桐野がいるし、大丈夫か」
 桐野は頭がよさそうだし、簡単な問題はもちろん、難しい問題も答えられるはずだ。
 財布の中から百円玉を取り出し、機械の中に入れる。
 桐野は、ありがとう、と短く言って椅子に座り、真剣な顔で画面を見つめる。
 簡単なチュートリアルを見た後、いよいよ本番。
 最初は、初心者や、最初からやり直した上級者がいる『ミジンコ組』からスタートする。ただ、今回はチュートリアルなので、相手は全てコンピューターだ。
 始まると、簡単な四択問題が出された。
「……私を馬鹿にしてるのか? このクイズゲームは?」
「まあ、最初はこんなもんだろ」
 その後も出てくるのは、簡単な問題ばかりだったらしく(俺には分からないものも含まれていたが)、桐野は問題文が表示されると同時に答えを選んでいく。
 その結果、桐野の機嫌が徐々に悪くなっていくのが、手に取るように分かった。
「…………」
 全ての問題が終了した。
 桐野は当然のごとく一位だった。一問も間違えてない。
 画面に、桐野が選んだキャラクターが表彰されているところが写る。
 桐野は、それを見て、
「……こんな簡単な問題に答えられたぐらいで表彰されるなんて」
 あからさまに機嫌が悪い桐野。
 そんな桐野を見て、俺ははぁ、と嘆息する。
 そして、財布の中から『クイズ・マリック・アカデミー』に使用するカードと、百円玉を取り出して、後ろに待っている人が誰もいないことを確認してから、それらをゲーム機の中に入れる。
 データが消えてなければいいんだが。
「今度は、もうちっと難しい問題が出るはずだ」
「……君を信じるよ」
 桐野が立ち上がろうと浮かしていた腰を、もう一度椅子に下ろす。
 俺の懸念は問題なかったようで、データはまだ残っていた。
 それから、桐野は全国の相手と戦えるモードを選択し、簡単な練習問題をこなしてから、本番に入る。
 クラスは、下から四番目に難しい『メスライオン組』だ。運よく、俺の知っている問題ばかりが出たから、ここまで上り詰めることができた。……まあ、俺一人の力じゃないんだけどな。
 結局、クラスが落ちるのがいやだから、それから一度もプレイしてないし、本末転倒な気がしなくもない。
「……ふむ」
 と、そんなことを思い出して懐かしい気分に浸っている間に、ゲームは着実に進んでいたらしい。
 見ると、既に準決勝。残す問題はあと四問で、桐野は今のところトップだった。
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