街灯の下
高校時代から巽と仲が良い内田はドライブが趣味で、よく巽を助手席に乗せて遠出した。
彼女を作れば良いのではと何度か提案してみたものの、男だけで出掛けるから色々と気遣わなくてもいいんじゃないかとその度笑い飛ばされた。その内巽も気にしなくなって、他にも友人を交えて旅行に出掛けるのが楽しみになっていた。
その日はスキーに行った帰り道だった。内田と巽の他にも共通の友人が二人参加したのだが、その時は両者とも自宅に送り届けた後で、深夜零時を過ぎた人通りの少ない道を内田の車は走っていた。
かけていたＣＤが終わり、急な静寂が訪れた時だった。ふと内田が道の端を規則正しく並ぶ街灯を見て｢ああいうの、なんとなく怖いんだよな｣とこぼした。
よく分からない、といった空気を巽が醸し出すと彼は日常会話をするかのような気楽さで、その話を始めたのだった。
【街灯の下】
佐藤はこういう話、慣れてるだろうから俺も話してみるわ。ん？あれあれ、心霊的なやつ。
いや？あれ心霊的なもんだったのかな……今でもよくわからんわ。
俺さー昔チャリ好きだったじゃん？車買う前ね。あの時は免許持ってなかったし、チャリで遠く行くのハマってたんだよね。今思えばあの頃から旅好きだったんだなぁって思うよ。
で、そのチャリで遠出しようってやつ、夏休みに何処まで行けるかやったことあったじゃん？覚えてる？そうそう、高二の頃ね。
俺あの後から通学以外あんまりチャリ乗らなくなったじゃん？うん、まあ飽きたってのもちょっとあるけど、一番の原因はやばい目にあったってことなんだなぁ。帰って来て直ぐ佐藤に話そうかなってちょっと思ったけどさ、その頃はなんか、話したら近くに出てきそうで怖かったんだわ。
で、本題なんだけど、俺その時少しでも距離伸ばしたくて、夜も結構飛ばしてたのねチャリ。若いって凄いよなぁ今じゃ絶対無理。まあそんな感じで、日が暮れてもずっと漕いでたんだ。
夏って日中は暑いし、夜の方が風切ると気持ちよかったから結構いい感じに進んでたんだけど、山道みたいな所に差し掛かった辺りでさ、人とすれ違ったんだ。
その時多分十一時過ぎ位だったと思う。まあまだ歩行者が居てもおかしくない時間っちゃあ時間だけど、そのおっさん街灯の下にぼーっと突っ立ってたんだよな。夏なのに黒い背広みたいなの着込んでて、俯いてたし一瞬だったから顔は影になっててよく見えなかった。
なんか、ボケてんのかな？って一瞬思ったし、変な奴だったらやだからサッと通り過ぎたんだ。男とはいえ、こんな山道で襲われたりしたら一溜りもないじゃん？
でさ、暫く走った時にさ、また街灯が見えてきたんだけど……居たんだよね。同じおっさんが。
は？って思ったよね。だってさっきすれ違ったおっさんが進行方向にいる訳無いじゃん。
変な汗まみれになったわ、ほんと。その前から汗かいてたけどそういうのじゃなくて、冷や汗みたいなの。
さっきすれ違ったの一瞬だったけどさ、黒い背広で俯いてて……やっぱさっきのおっさんと同じ奴にしか見えなかったんだ。
もう全力でチャリかっ飛ばして横通り過ぎたよ。早くこの道抜けなきゃって焦ってチャリ走らせて、次の街灯が見えてきた時……愕然とした。
やっぱり居たんだよ、黒い背広の男が。
もうやばいやばいって繰り返すしか無かった。
そいつの横も通り過ぎて、次の街灯が見えてきて……またその下に黒い背広が見えてきてもう頭が狂いそうだった。
で、その時気付いたんだ。幾らなんでもこの道長すぎないかって。山道って変わり映えしないけどさ、まるで同じ所ぐるぐる回ってるみたいに延々と走らされてる様な気がしてきたんだ。
どうしたらいいか分からないまま走り続けて、そいつとすれ違うのももう両手の指じゃ足りないくらいになった時、流石に疲れてきてスピードが落ちてきて。でも止まれなかった。止まったら最後な気がした。だってそいつ段々顔を上げてきてる気がしたんだ。俺が弱って行くの待ってるみたいだった。
このままじゃ殺られるって思って、走りながら色んなこと考えた。それでふと、これ個々でUターンしたらどうなるんだろう？って思ったんだわ。
だから一か八か、俺はおっさんの手前でぐるっとチャリをUターンさせて全力で来た道を戻った。走りまくって、麓のコンビニに着いた頃には日が昇ってて、その時俺はやっとあの道にたどり着いてから五時間くらい経ってたのに気付いたんだ。
流石にそこから先に進む気になれなくて、結構家に帰ってきたってわけ。結構あのおっさんがなんだったのか分からないし、これが所謂、狐に摘まれるってやつなのかなって思ったんだけどさ。今は車だから、捕まっても何とかなりそうだなとか思うけど。高速移動するおっさんが見られると思うとちょっとウケるよな。
え？何……怖い事言うなよ、やめろよ、確かに黒い背広とか喪服みたいだけどさ……やめろよ死神みたいだとか！車でも夜走れなくなるだろ！？勘弁してくれよ〜！！
彼女を作れば良いのではと何度か提案してみたものの、男だけで出掛けるから色々と気遣わなくてもいいんじゃないかとその度笑い飛ばされた。その内巽も気にしなくなって、他にも友人を交えて旅行に出掛けるのが楽しみになっていた。
その日はスキーに行った帰り道だった。内田と巽の他にも共通の友人が二人参加したのだが、その時は両者とも自宅に送り届けた後で、深夜零時を過ぎた人通りの少ない道を内田の車は走っていた。
かけていたＣＤが終わり、急な静寂が訪れた時だった。ふと内田が道の端を規則正しく並ぶ街灯を見て｢ああいうの、なんとなく怖いんだよな｣とこぼした。
よく分からない、といった空気を巽が醸し出すと彼は日常会話をするかのような気楽さで、その話を始めたのだった。
【街灯の下】
佐藤はこういう話、慣れてるだろうから俺も話してみるわ。ん？あれあれ、心霊的なやつ。
いや？あれ心霊的なもんだったのかな……今でもよくわからんわ。
俺さー昔チャリ好きだったじゃん？車買う前ね。あの時は免許持ってなかったし、チャリで遠く行くのハマってたんだよね。今思えばあの頃から旅好きだったんだなぁって思うよ。
で、そのチャリで遠出しようってやつ、夏休みに何処まで行けるかやったことあったじゃん？覚えてる？そうそう、高二の頃ね。
俺あの後から通学以外あんまりチャリ乗らなくなったじゃん？うん、まあ飽きたってのもちょっとあるけど、一番の原因はやばい目にあったってことなんだなぁ。帰って来て直ぐ佐藤に話そうかなってちょっと思ったけどさ、その頃はなんか、話したら近くに出てきそうで怖かったんだわ。
で、本題なんだけど、俺その時少しでも距離伸ばしたくて、夜も結構飛ばしてたのねチャリ。若いって凄いよなぁ今じゃ絶対無理。まあそんな感じで、日が暮れてもずっと漕いでたんだ。
夏って日中は暑いし、夜の方が風切ると気持ちよかったから結構いい感じに進んでたんだけど、山道みたいな所に差し掛かった辺りでさ、人とすれ違ったんだ。
その時多分十一時過ぎ位だったと思う。まあまだ歩行者が居てもおかしくない時間っちゃあ時間だけど、そのおっさん街灯の下にぼーっと突っ立ってたんだよな。夏なのに黒い背広みたいなの着込んでて、俯いてたし一瞬だったから顔は影になっててよく見えなかった。
なんか、ボケてんのかな？って一瞬思ったし、変な奴だったらやだからサッと通り過ぎたんだ。男とはいえ、こんな山道で襲われたりしたら一溜りもないじゃん？
でさ、暫く走った時にさ、また街灯が見えてきたんだけど……居たんだよね。同じおっさんが。
は？って思ったよね。だってさっきすれ違ったおっさんが進行方向にいる訳無いじゃん。
変な汗まみれになったわ、ほんと。その前から汗かいてたけどそういうのじゃなくて、冷や汗みたいなの。
さっきすれ違ったの一瞬だったけどさ、黒い背広で俯いてて……やっぱさっきのおっさんと同じ奴にしか見えなかったんだ。
もう全力でチャリかっ飛ばして横通り過ぎたよ。早くこの道抜けなきゃって焦ってチャリ走らせて、次の街灯が見えてきた時……愕然とした。
やっぱり居たんだよ、黒い背広の男が。
もうやばいやばいって繰り返すしか無かった。
そいつの横も通り過ぎて、次の街灯が見えてきて……またその下に黒い背広が見えてきてもう頭が狂いそうだった。
で、その時気付いたんだ。幾らなんでもこの道長すぎないかって。山道って変わり映えしないけどさ、まるで同じ所ぐるぐる回ってるみたいに延々と走らされてる様な気がしてきたんだ。
どうしたらいいか分からないまま走り続けて、そいつとすれ違うのももう両手の指じゃ足りないくらいになった時、流石に疲れてきてスピードが落ちてきて。でも止まれなかった。止まったら最後な気がした。だってそいつ段々顔を上げてきてる気がしたんだ。俺が弱って行くの待ってるみたいだった。
このままじゃ殺られるって思って、走りながら色んなこと考えた。それでふと、これ個々でUターンしたらどうなるんだろう？って思ったんだわ。
だから一か八か、俺はおっさんの手前でぐるっとチャリをUターンさせて全力で来た道を戻った。走りまくって、麓のコンビニに着いた頃には日が昇ってて、その時俺はやっとあの道にたどり着いてから五時間くらい経ってたのに気付いたんだ。
流石にそこから先に進む気になれなくて、結構家に帰ってきたってわけ。結構あのおっさんがなんだったのか分からないし、これが所謂、狐に摘まれるってやつなのかなって思ったんだけどさ。今は車だから、捕まっても何とかなりそうだなとか思うけど。高速移動するおっさんが見られると思うとちょっとウケるよな。
え？何……怖い事言うなよ、やめろよ、確かに黒い背広とか喪服みたいだけどさ……やめろよ死神みたいだとか！車でも夜走れなくなるだろ！？勘弁してくれよ〜！！
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。