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てのひら怪談

ジャンル: ホラー 作者: 木葉
目次

押し入れ少女

同窓会で久しぶりに会った畑中さんは、壁の花を決め込んでいた巽に、珍しく話しかけてきた一人だった。
「佐藤君って幽霊とかそういうの、詳しいんだっけ?」
立食式のそこで、料理を片手に思い出話をしていた彼女だったが、これこそが本題だと言わんばかりにその話題を切り出した。巽が確かによくその手の話を聞くが、自分自身お祓い等が出来る訳では無いと答えると、心底残念そうな顔をしたものである。
何かあったのかと訊ねると、先程の勢いを失った彼女は、少し迷ってからその話を始めたのだった。

【押し入れ少女】

正直信じてもらえないかもしれないけど、本当に怖くてさ。自分でも気にし過ぎかなとか思うんだけど。
うちの実家って、昔からある本家なんだ。少し増築したり、リフォームしたりして使ってるんだけど、基本ベースはあんまり変わってないの。なんでも大正時代位から代々受け継いでるんだってさ。
それで、中学校通ってた頃くらいまで私もそこに住んでたんだよね。私さ、小学校の頃ちょっと身体弱かったじゃない?だからしょっちゅう本家の真ん中にある畳の部屋で寝込んでたの。
その部屋って両隣の部屋と襖で区切られてて、縁側の方の扉は障子になってて、部屋と繋がってない方の襖の向こうは押し入れになってたんだ。障子側は隙間風が結構入って来て寒かったから、熱を出して学校休んだ時は押し入れ側に頭を向けて寝てる事が多かったの。
で、問題はその押し入れなんだけど……
いつ頃だったかははっきり思い出せないんだけど、その時も熱を出して学校を休んでた私はいつもの様にその部屋で寝てた。寝てたって言っても正直、その前の日も一日中寝てたし、熱で苦しくて熟睡も出来なくて微睡みと覚醒の間位に居た気がする。
その時にさ、押し入れの方からスルスルって音がしたの。誰かが押し入れを開ける音ね。
あれ?って思って完全に目を覚ますと、部屋には私以外誰も居ないのね。でも、押し入れが五センチくらいあいてたの。最後に起きてご飯食べて、布団に戻った時はそんな事無かったと思ったんだけど。
その時はそれだけで終わったんだけど、数週間してまた私熱を出しちゃったの。今度はこの前より高い熱で、凄く苦しかったのよく覚えてる。
それでね、またその押し入れの部屋に寝てたんだけど、お昼過ぎ位かな?またスルスル……って音が聞こえたの。その時も目を覚まして、押し入れを見てみると、その時は押し入れが十五センチくらい開いてたのね。
幾ら考えてもやっぱりさっきまで開いてた気がしなくて、私その時は様子を見に来たお母さんに「押し入れに荷物取りに来た?」ってきいたの。でもお母さんは昼ご飯の時以来この部屋には来てなかったみたいで、開いた襖を何気なく閉めて大丈夫?辛くないって私にきいてくれたの。だから私、安心したのかその時もそれ以上何にもきかなかったんだ。
で、今度は数ヶ月位して、忘れもしない二月の中旬位の頃、私は今までに無いくらい高熱を出して寝込んでた。今考えるとインフルエンザとかだったのかもしれないね。本当に物凄くキツかった。布団に寝てるのも辛いくらいだったんだけどスルスル……って音に気が付いて、その時は私、直ぐに身体を捻って押し入れの方を見たの。
見えた先の押し入れは、二十センチくらい開いててその中から黒い糸が出て来てた。髪の毛だって気付くのに、大分時間がかかったよ。
何時もならそれ以上襖が開くことは無かったのに、出て来てる髪の毛がうぞうぞ動いてまた五センチ位襖が開いたの。

その先から現れたのは、血走った両目。

そこで初めて、私は押し入れから覗いてるのが女の子だって気付いた。その子は横になってて、頭の先から鼻の頭の辺りまで見えてて、私の事をじっと見詰めてた。それで、私と目が合った時すぅっと目を細めたの。ニヤニヤ笑ってる時みたいに。
それに気付いて理解したらもう怖くて怖くて、直ぐに布団の中に潜り込んだよ。でも、布団の中に逃げ込むって事は、外がどうなってるか分からないって事じゃない?
またスルスルって音がしたから私、そのまま布団の足側に這って行って、縁側に繋がってる障子を開けて逃げ出したの。そのまま立ち上がれないから台所まで這って、見つけてくれたお母さんに泣き付いたのよく覚えてる。
その日から寝る部屋を変えてもらったんだけど、そうしたら不思議と身体が強くなって前みたいに熱を出すことが無くなった。もし、あの時全部押し入れが開いてて、あの子が出てきてたら私はもしかしたら……病気で死んでたかもって。
え?ああ……これだけなら別に昔話だし、お祓いなんて考えないんだけど、最近私、旦那と別れてさ、うちの子を実家に預けて働き出てるんだ。
それで最近うちの子、よく熱を出すようになったの。……あの部屋では寝かせてないんだけど。

その時もしかしたら、もう『出て来てる』んじゃないかって思ったの。

だからねぇ……いいお寺とか知ってたら紹介して欲しいんだけど。……そう、ごめんね。知らないならいいの。
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