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もうすぐ壊れてしまう君へ。

原作: その他 (原作:あんさんぶるスターズ!) 作者: ヒヨコの子
目次

もうすぐ壊れてしまう君へ

 みかはすっかり無口になり、本当に人形になってしまったかのように黙々と行為にふけっている。いや、恐らくみかのなかではあくまでも自分は人形であるという認識が強いはずだから、当然のことなのかもしれない。
 されるがままベッドに運ばれた宗も、無言でみかの行いを受け入れ続けている。美意識に反する声をあげてしまわないようにするのが意外と困難で、たびたび防ぎきれず甘やかしい吐息を漏らしてしまう。そのたび、無言ながらもみかが小さく笑うのがわかった。決してばかにされているのではない、悦んでいるのだというのが伝わるから、宗は余計に居心地が悪くなってしまうのだった。
「ほんなら……挿れてもええ?」
 マッサージオイルを使って時間をかけて慣らされた部分が、なじんできたみかの指を突然失ってきゅっと切なく痛む。ほぐされたところからじくじくと熱のような痛みのような、しびれのような、なんともいえない感覚が媚薬となって全身に広がっていく。
「……確認する必要はないよ」
 いつもより百倍は覇気のない声でぼそぼそと返す。それでもみかにはきちんと聴こえたらしい。
「お師さん、腰の下にクッション敷いたげるな。あと、ほら、そうやってお顔隠すのいい加減やめてくれはらへん?」
「……無理なのだよ」
「ほんでも俺、お師さんのきれいなお顔見たいわぁ」
 興奮が声に出ているのか、みかの声音はいちいち色気を放ってしかたない。黙りこくっていた彼が言葉を発するたび、宗は腰のあたりがぞくぞくした。望まれるものに逆らえず、顔を覆っていた両手をゆっくりとほどいていく。と、思いのほか至近距離でみかの視線とぶつかってしまい、呼吸が乱れた。
 なにか言うかと思ったが、みかはなにも言わずにただほほえむだけだった。それから改めて宗の両足を抱え込むと、間にすっぽりと身体を入れ込んでくる。
 最初のとき以来、宗からはなにもしていない。それなのに、みかの性器はすっかり力を取り戻していた。いつもは繊細に宙を舞う指が、猛々しいそれを宗のもとへと誘導していく。
「……んっ……」
「お師さん、……痛ない?」
 じわじわとめり込むようにわけいってくる感覚は、痛いとも気持ち悪いとも言いがたい。違和感がひどいのに、それでも心の芯のあたりが歓喜していて、宗にはわけがわからなかった。だからただ、小さくかぶりを振ってみせる。
「堪忍なぁ。……あとちょっとやからね? 力抜いとってな?」
「んっ……か、かげひら……」
 名前を呼んだのは無意識だった。
 みかが小さく「ん?」と応えて小首を傾げる。小さな声を聴こうと折り畳まれる上体をすくいとるように、手をのばしてぐっと抱きしめた。体勢が変わった拍子に、宗のなかにみかがすっぽりと収まりきる。
「んあっ、……全部、はいってもうた……」
 耳元でささやかれる声にこくこくとうなずきながら、宗は腹の圧迫感と感動の波に必死で堪える。
「遠慮、することはないと……言ったよ」
 なんとか押し出した声に呼応するように、みかがゆっくりと律動を始めた。腰を打ち付けられるたび、頭がぼうっとするほどの衝撃が駆け抜けていく。
 まるで音楽を紡いでいるかのような規則的なリズムで動くのは、はじめて暴かれるはずなのに快感に引き裂かれそうになるのは、みかが宗の望むように動く操り人形だからだろうか。思考が混濁して、現実がどこなのかよくわからなくなる。
「あ、あかん……もぉいきそう……」
 小さく焦ったようなつぶやきが聴こえてきて、宗は思わずまぶたを押しあげた。視界を上下に揺れ動くみかの頬はすっかり上気して艶っぽく、人間くさくて、それなのにその存在すべてが美しくきら星のごとく輝いてみえる。
 わずかに目があった気がしたその一瞬。
 みかの口が、声にならない言葉を落とした。
『好きやよ』
 目にして理解したとたんに腹の奥がきゅんとうねり、駆けあがっていくみかを強く締めあげる。声も出さず吐精されたのと同時に、自分も解き放ってしまったのがわかった。
 いまのは反則なのだよ。そう言ってしまいたかったけれど、口にすると彼の唇の動きを読んだのがバレてしまう。彼がすんでのところで人形であることを貫いたのだから、これは自分の胸にしまっておかなければならない。声に出しさえしなければ、ふたりの関係は崩れない。そう、ふたりで暗黙の了解をつくってしまったのだから。
 脱力してきた薄い身体を受け止めながら、宗はその肩口に唇を寄せ、声もなくつぶやいた。
『愛しているよ』


   ★


 夜中に目を覚ますと、隣でみかがすやすやと眠っていた。
 いつもはぬいぐるみを抱いて眠っているのだろうか。まるで宗を抱き枕かなにかのようにぎゅっと抱きしめたまま、幸せそうな寝息をたてている。お互いにまだ裸のようだ。朝起きたら、みかはどんな顔をするのだろう。
 だらしなく口許を緩ませて眠る愛しいひとの額に、そっと唇を押しつける。すると、意外にもオッドアイがゆるゆると姿を現した。
「……起きていたのかね」
 半分夢の中なのか、みかはいつものようには萎縮しなかった。へらっとやはりだらしなく笑って、きゅっと唇をつきだしてくる。
「こっちにしてほしいねんけど、あかんやろか」
 明日、彼が青くなるのも白くなるのも赤くなるのも容易に想像できる。だからといって逃げるのではなく、操り人形という免罪符をもって大胆になるであろうことすら。
「腑抜けた顔をするのじゃないよ。美しくおねだりしてごらん」
 宗の声に、みかの瞳がきらりと妖しく輝いた。





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