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本田とアーサーの記念日

原作: その他 (原作:Axis powers ヘタリア) 作者: 鮭とば
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星の降る夜

「ふう。ここらでいいですかね」
 小型のランタン片手に真っ暗な辺りをぐるりと見渡し、近くにあった切り株に背中に背負っていた荷物を一度下ろして、持って来たレジャーシートを広げる。そこへ荷物と共によっこらせと座り込めば、足腰の痛みが今更ながら一気に来た。やはり一日仕事の後の山登りは老体に響く。もう少し筋トレやら体力作りに勤しむべきかと反省して、本田は夜空へと顔を上げた。
 そこには一面チカチカと瞬く星の海。
「よく見える、と書いてありましたが、本当に星がよく見えますね」
 一昔前ならいざ知らず、今やこの国で、しかも都心付近でここまで星が見える場所はほぼない。だから仕事上げで辛い体に鞭を打ち、電車やらタクシーやらで昼休憩中に目星を付けていたこの丘まで来たのだが、どうやら大正解だったようだ。
 ランタンの灯りだよりに、そこそこ大きめのリュックサックから魔法瓶と作って来たサンドイッチを取り出す。それとスマホも。タップすれば結構な光量に目が痛い。どうにか薄眼で時刻を見れば、22時58分。約束の時間まであと一時間以上ある。思ったよりも早く着いたみたいだ。
「…一体あの人は何をする気ですかね?」
 湯気の昇る緑茶に息を吹きかけながら、数日前届いた不思議なメッセージを思い出す。

『1月30日午前零時に星の多い所に居れないか?』
「……どういうことでしょうか?」
 年末年始の多忙に追われていたのも一段落つき、ようやく家でゴロゴロできると炬燵に潜り込んでいた時にアーサーさんから送られてきたメッセージに首を傾げてしまう。予定を確認すれば、残念ながら1月30日は一日仕事が入っている。いや、本来ならこの日は休みを取ってアーサーさんとお会いしたかったのだけれど、どうしても外せない仕事が互いにできてしまって、断念したのだ。そんな忙しいだろう相手からの不思議な問い掛けに、メッセージを送って来たのなら大丈夫かと電話をかけてみる。
『ハロー。本田か?』
「こんにちはアーサーさん。聞きたいことがあるのですが、今大丈夫ですか?」
『ああ、あと十分ぐらいなら。聞きたいことって今送ったヤツのことだろう?』
 1コールで出たアーサーさんは、今詳細送ろうと思っていたんだが、と少し申し訳なさそうに呟いて、話を続けた。
『まあ送った文そのままの問い掛けなんだが、疲れているところ悪いがそちらの時間で1月30日午前零時にどこか星が多く見える所に居れないかと思ってな』
「いくつか聞きたいのですが、まず星が多くとはどのぐらいでしょうか?仕事場の近くは晴れたとしてもそこまで見えないのですが…」
『本田が多い、と思う場所で良いんだ。都心より多く見えるな、ぐらいでもいい。まあできれば一面星の海、だと最高だな』
「私が多いと思う場所ですか。…残念ながらちょっとパッと思い浮かばないのですが、調べれば何とかなると思います。あと、その日が曇りや雨の場合はどうすればいいですか?」
『俺の占いなら晴れるとは思うが、その場合は行かないでいい。晴れた時だけ、もし行けたら行ってみてくれないか?』
「行ったら何かあるんですか?」
 天候が悪い日はいい、と言うことはアーサーさん本人が来てくれる訳ではないようだ。少し拗ねたような声色が出てしまった私に気付いているのかいないのか、楽しそうな声色が返って来た。
『それはその日までの秘密だ』

 結局アーサーの占い通りに晴天になったのはいいが、一体何があるのだろうか。あの日のやり取りから推測すると、サプライズプレゼントをくれるのではないかと思うのだが、何故家に居ろ、ではなく一面の星空の下に居ろ、と言われたのか。ここは本田ですら今日知った所だからこの場に宅配などできないだろうし、勿論アーサーに場所を聞かれても、教えてもいない。
 はてさて何が来るのか、起こるのか。一向に予想できないことをつらつらと考え込んでいたら、アラーム音が小さく手元で鳴り始めた。1月30日0時0分だ。さて、何だろうかと星空を見上げ、本田は息を呑んだ。

 数多の星が、一斉に光り輝いたのだ。

 まるでイルミネーションのような眩さに、開いた口が塞がらない。あまりの綺麗さに見惚れていれば、空から何かが降って来た。思わず手を伸ばせば、カラフルな星達が本田の手の上で跳ねて動いてくるくると回り出す。暫く掌でダンスをした星達は、ぴょん、と夜空へ戻っていった。それと同時に先程まで光り輝いていた星空が、元の静けさに戻った。
 いつの間にかレジャーシートの上に落ちていたスマホが震え出したのをひっつかむ。
『驚いたか?本田』
「あれ見て驚かない人はいませんよ!」
『っし!サプライズプレゼント成功だっ!』
 常にない弾んだ声に、本田も同じような声で問いかける。
「すっごく綺麗でしたが、一体どうやったんですか!?」
『それは話すと長くなるが、まあ、妖精さんとか色々な奴にお願いしてな。会えねぇからせめてビックリさせる程綺麗なプレゼントを贈りたくてな』
「もう、大成功過ぎですよ」
 爺の心臓飛び出るかと思いました、と嘆息すれば、大袈裟過ぎないか、と笑われる。
『本当は俺も日本に行って一緒に見たかったんだが、今年はこれで勘弁してくれ』
「……駄目です。勘弁してあげません」
 わざと冷たく返せば、アーサーさんの焦った気配が電話越しに伝わる。全然大袈裟ではないことをして来たのだから、これぐらいは意地悪言ったっていいだろう。
「来年でもいつでもいいので、一緒に見てくれなければ許してあげませんよ」
 絶対来年はどうにかする!と意気込むアーサーさんに、先程まで星が乗っていた手を眺めながら楽しみにしています、と本田は嬉しそうに目を細めた。
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