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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第四十八話 回想、これからのこと(五)

「それからサミエルに協力した侍女のソフィは3か月の停職処分。騙されていたということで免職は免れた。裁判でもおそらく無罪になるでしょうね」
サミエルや盗賊達が、タビーが悪魔の実の能力者だと思ったことに関しては、公には「間違い」として処理されることになった。よって、ガスケーニュ国王妃が悪魔の実の能力者であることは、ごく近くにいる者以外には秘密とされる。
「噂は残るだろうね。サミエルや盗賊達を死刑にしてしまうこともできないし…」
マリウスがキャラクターに似合わぬ物騒なことを言ったが、タビーは噂に関しては気にしていなかった。
「噂は噂でしかない。でも公に認めたらそうはいかなくなる。この能力は普段は隠しておいて、いざという時に切り札として使いたいの」
「なるほどね」
アルが頷いた。マリウスが報告を続けた。
「僕が周辺各国に送ったはずの親書は、8通中5通しか届いていなかった。しかも、うち2通はなんと郵送だ。ずいぶんとずさんにやってくれたけど、結果的にはかえって良かった。これは悪意のある者が送った偽造文書ということで通そうと思ってる」
「それが一番いいだろうな。初めから偽物ではないかと疑ってた国もあったし」
親書を届ける役目を負っていたクロードは行方不明だった。ただ、クロードはこの件で法律的に罪がある訳ではないし、マリウスも彼を捕まえるつもりはなかった。アルは「どうせ叩けばホコリが出てくるような奴だろうけど…」と呟いた。

タビーがプレシ公国に留め置いていた供の者達も帰路についたそうだ。容疑者として捕まっている、アルの指示でタビーを誘拐しようとした者達については、アルが二人に寛大な措置を求めた。この者達がアルに協力したのは、マリウスの不穏な動きの真相を確かめたいというアルの心情を理解したからで、つまりは彼らも自国のことを思ってやったのだ。
「プレシ公国の叔母様にも電伝虫で今回のことを報告したわ。いつか改めてお礼に伺わなくちゃ」
タビーは今度はマリウスと二人で行きたいと思ったが、口には出さなかった。多忙な国王に無理を言ってはいけない。
実際、マリウスは多忙だった。これまでタビーは、祖母の代に起きた王位継承権の問題もあって、できるだけ自分は表に出ないようにしていたが、この考えを改めることにした。今後はマリウスの負担を減らすために、タビーが公務の一部を担おうと思っている。これはマリウスもルナンも賛成しているし、議会でも承認される見通しである。
そして、これからは時々二人でお忍びで出かけよう。二人で訪ねて行けるところが近々できるかもしれない…それはフロリモンとカントーが経営するプチホテルだった。

タビーとマリウスは、住まいと職場を一度に失ったフロリモンとカントーのことが気になっていた。それであの日の翌日に二人に会いに行ってみたところ、二人からプチホテルを始める計画を聞いたのだった。
「実は、以前から考えていたことなのです。私ももう年で、誰かにお仕えするのが辛くなってきましたし」と、フロリモンが言った。
「特に最後のご主人様は癖が強い方で私達も大変でした。たまにしか帰ってこないという点では良いご主人様だったとも言えますが」と、カントーも言った。
「あの屋敷が次に売りに出されたら、自分達で買い取ろうと考えていたのですが…。それが少し残念です」
「私達が住み込みで働ける新しい物件を探さなくてはいけません。もしも良い物件をご存知でしたら、紹介していただけませんか」
この二人は、タビーとマリウスが国王と王妃であることに気付いていない。もしかしたら、これからも気付かないかもしれない。
ヴァレリーのことも同じだった。この二人は自分達の最後の主人が、実はバスコニア王国の元王子であったことを知らないままかもしれない。
カントーがマリウスに言った。
「あの火事の火が馬屋にまで燃え移らなくて良かった。あの時はあなたの馬もいましたし。うちの馬も…といってもご主人様の馬ですが、全部無事でした。(そしてタビーのほうを向いて)あなたが乗ってきた馬車の馬も、怪我の程度は軽いのでちゃんと手当てしてやれば治るでしょうし」
マリウスも馬が好きなので、カントーと話しが合うのだ。

そしてローとゾロだが…。
あの夜、ローとゾロとアルは、深夜にルナンの別荘に着いた。屋敷のほうに行かなかったのは、こんな時間に使用人を起こしたくなかったからだ。
別荘で一眠りして翌朝6時、もう帰らなければいけないアルと一緒に、二人も出発した。アルは二人にはゆっくりしていけばいいと言ったが、「いや、アンタが帰るんならおれ達も帰る」と、ローがあくびをしながら答えた。
「せめて二人は朝食を食べていったらどうだい?リュシーも喜ぶよ」とアルが言うと、「ならますます早く出て行かなくちゃならねえ」とゾロが言い出し、ローも「堅苦しいのは性に合わねえのさ」と出発の準備を始めた。
そして、アルをバスコニア王国の王宮まで送り届けた後、さっさとどこかに行ってしまった。
「報酬を支払う約束をしてたんだけど、何も受け取らずに行ってしまったよ」
アルがため息とともに言った。
「マルゼイヨ港に彼らの船がまだ停泊しているかもしれない…」
タビーが呟くと、マリウスがちょっと焼きもちを焼いたように、慌てて「まさか、会いに行く気なの?」と訊いてきた。タビーとアルは互いに目配せした。マリウスが自分の感情を素直に表に出すのは何年ぶりだろう。もしかしたら、自分も同じなのだろうか。
「手紙を書こうと思ってるの」
タビーは壁際の机からペンと便箋を取ってきた。

「“もしもあなた方に助けが必要な時は、今度はビムビムの実の能力者がお二人の元に向かいます。”」

ローとゾロは手紙を読んで微笑んでくれるだろうか。そして、自分はこの約束を果たすことができるだろうか。
タビーはちょっと迷ったが、手紙の最後に追伸を付け加えた。

“p.s. 鬼哭によろしくお伝えください。”

すると、なぜだか自然に顔全体に笑みが滲んできた。
タビーの様子と書き足された一文を見て、アルとマリウスが不思議そうに言った。
「オクタビア、鬼哭って誰?」
「ローの刀…じゃなかったっけ?」
タビーはまだ一人で嬉しそうにくすくす笑っている。そして、さっさと便箋を封筒に入れて、しっかりと封をしてしまった。

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