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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第四十七話 回想、これからのこと(四)

ヴァレリーはバーの個室に一人でいた。
(マリウスに一服盛ったのは成り行きだったが…、面白くなるかもしれない)
ヴァレリーは、思い付きでやった自分の行動の意味を後から考えて、ほくそ笑んでいた。
マリウスは供も付けずに一人でやって来た。おそらく、どこに行くとも告げずに城を出たのではないだろうか。このままもうしばらく時間が立ったら、城は大騒ぎになる。または、既にそうなっているかもしれない。
(まあ、奴もひと眠りしたら帰るだろう。まさか三日三晩眠りこけるということもあるまい。それにしても、薬の効きが早かったな)
ヴァレリーがマリウスの飲み物に仕込んだのは、ごく弱い睡眠薬だった。効き目が良かったのは、マリウス自身が毎日の忙しさで疲れていたせいだった。
ヴァレリーは電伝虫でクロードとサミエルに連絡を取った。
クロードは、バスコニア王国とは反対側にある隣国にいた。実はクロードは堅気の人間ではなかった。貴族の籍は金で買ったもので、ヴァレリーと性格的に馬が合った。
クロードはマリウスからの親書を周辺諸国へ届ける役目を負っていたが、実は親書の約半分は届けられずに捨てられていた。そして、素知らぬ顔でマリウスから旅費と報酬を受け取り、その3割はヴァレリーの懐に入っていた。
ヴァレリーはクロードに、しばらく帰ってこないように、できたらもっと遠くに逃げるように助言した。
サミエルは、下級ではあったが本物の貴族だった。彼は宮廷の下っ端の事務官からスタートして、徐々に上に登っていくという地道な働き方に嫌気がさしていた。そのような不満が彼の何かを狂わせさせ、ヴァレリーのような人物に引っかかるという不幸を呼んでしまった。
ヴァレリーがサミエルにツールーズ城の様子を確認したところ、やはりマリウスが外出から帰ってこないことでちょっとした騒ぎにはなっているが、もうしばらく放っておく方針らしかった。
ヴァレリーは物足りなさを感じた。それで、サミエルにこっそり王妃を連れ出すように言った。

しばらくすると、ヴァレリーのポケットの中でマリウスの電伝虫が鳴った。
彼自身も忘れかけていたが、ヴァレリーは天性の勘と才能で、今日マリウスが彼を訪ねてきた割りと早い段階で、電伝虫をすり取っていた。
電話の内容は、アルの身柄を確保していることをほのめかすものだった。
(これは…、アルの身柄を高値で売り付けたいのか、またはマリウスを誘い出したいのか…?)
危険かもしれないと思いつつ、ヴァレリーは好奇心を押さえられなかった。
当然ではあるが、バスコニアの次期国王という自分の昔の立場にいるアルは、マリウス以上にヴァレリーが関心を持っている存在だった。しかし、さすがに実の両親であるバスコニア国王夫妻に近すぎて、自分からアルに近付いていく気にはなれなかった。
だが、チャンスは向こうからやって来た。
(もしも本当に危なかったら、その時は逃げればいいさ)
ヴァレリーには怖いもの知らずなところがあった。もともとの性格だが、出奔して以来フラフラと堅気でない世界にも鼻を突っ込んで生きてきて無事だった自信が、それに輪をかけていた。
ヴァレリーは一人で指定された場所に行った。そして、待ち構えていた3人の様子から、目的はマリウスの捜索であることが判明した。
気が向いたら、マリウスが自分の屋敷にいることを教えてやってもいい…薬を盛ったことに関しては証拠がないし、マリウスは自分からやって来たんだから誘拐でもない。
また、王妃を連れ出すことを指示したサミエルには、クロードにそそのかされてやったと言うように入れ知恵してあるから、自分は容疑者として挙がることすらないだろう。
ヴァレリーは楽観していた。しかし、残念ながら今回は彼の思惑通りにはいかなかった。


あれから一週間後、タビーとマリウスとアルは、ルナンの屋敷の客間で改めて再会した。
丸くて小さなかわいらしいテーブルを3人だけで囲み、お茶とマフィンを食べながら昔のように親密に話し合っていたが、その内容はほんわかとしたものとは言えなかった。
「ヴァレリーには、王妃誘拐を指示した罪とその他諸々を考慮してガスケーニュ国外への追放処分が下されるだろうけど、公にはされないだろう。バスコニア国王夫妻への配慮もあるし」
マリウスがこう報告すると、アルは眉を寄せて、ここにいない人達に向かって文句を言った。
「財産没収もしてやっていいくらいさ。今回の件で、伯父上と伯母上が親としては激甘だということが判明したよ。彼が王家から籍を抜く時に王家所有の金鉱を一つ贈与して、さらに、時々ではあるけどいまだに個人的に送金してた。それがなかなか結構な額で…。どうりで複数の屋敷やアパルトメントを所有して贅沢に暮らしてた訳だ。バスコニア王家がそのうち破産しても僕は驚かないね」
「まさか。アルは大袈裟なのよ」
タビーは呆れた顔で言ったが、心の中ではアルがそう言うならそうなのかもしれないと考えていた。
「実行犯のサミエルは、宮廷事務官を懲戒免職になったわ。刑事裁判はこれからだけど、実刑は免れないでしょうね。それと盗賊達の犯行にも関わってるから、それがどの程度の罪になるか。彼のご両親は彼を勘当したそうよ」
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