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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第三十七話 予兆

「おや、お迎えがいらしたようですね」
フロリモンとカントーが立ち上がった。しかし、二人の使用人が玄関の外に出てランプの灯りをかざしてみても、誰の姿も見えない。
「気のせいだったかな?」
二人の使用人は屋敷の中に戻っていった。客人とのおしゃべりにすっかり夢中になっていたが、ご主人様達の到着もそろそろかもしれない。二人は自分達の役割を再開すべく、気持ちを切り替えた。
「お迎えの方達が到着したのかと思ったのですが、違ったようでした。でも、そろそろいらっしゃる頃かもしれませんね。お出迎えの準備をしておきましょう」
「怪我をしている馬は今夜はここで預かりましょう。代わりの馬が必要な場合は、お貸しすることもできると思いますのでご心配なさらずに…」
「どうもありがとう」
「もう遅い時間なのにすみません」
ガサッ…
外で物音が聞こえた。カントーが窓を開けて外の様子を伺ってみたが、何も見えなかった。
「タヌキか何かのようですな」
「泥棒ということは?」フロリモンが警戒した顔で言った。
「泥棒が動き出すのはもっと夜中になってからですよ」
そう答えてから、カントーはその可能性も完全には否定できないと心の中で考えた。
「これからお迎えがいらっしゃいますが、用心のために戸締りをしてしまいましょう。おそらく何もないと思いますが…」
二人の使用人はパタパタと動き出した。タビーとマリウスはちょっと心配そうに顔を見合わせたが、すぐにくつろいだ表情に戻った。

「…馬鹿野郎っ、音を立てるんじゃない」
庭の茂みの暗がりから、押し殺した声が聞こえた。
「お前のせいで使用人が戸締りを始めちまった。このマヌケッ」
「す、すいやせん…」
数人の男が木立ちの下の地面に伏せていた。全員が剣や槍等で武装していた。
「どうする?」
「扉や窓を破るしかねえだろうな。この家には何人いるんだ?」
「4人だ」
「そのうち女は?」
「1人」
「よし…」
他の者よりも良い身なりをした男が口を開いた。サミエルだった。
「…4人とも殺すのか?」
「そうなるかもな」
サミエルの隣に伏せている男が答えた。この男は、あの町はずれの酒場でサミエルに声をかけてきた凶悪そうな男だった。
「うまく悪魔の実の能力者だけを…ってことができりゃあいいんだが、おそらく無理だ。自分のツラを見られちまった奴を逃がすつもりはねえしな…」
「怖気づいたんなら帰ってもいいぜ。その代わり、俺達のことは一切口外しねえでもらおう。まあ、しゃべっちまったら自分も共犯だってことがバレちまうが」
別の男がサミエルに淡々と言った。こちらもさっきの男と同じくらい危険そうな人物だった。
二人の迫力に気圧されたのか、サミエルは何も言うことができなかった。
さっき、偵察の者が屋敷の壁際まで忍び寄って会話を盗み聞きしたので、もうすぐこの屋敷に迎えの者が来ることは分かっていた。しかし、それを知っても、この男達には計画を中止しようという気は全く起こらなかった。
「この仕事は時間との勝負だ。迎えのモンが来る前にさっさと終わらせねえといけねえ。5分後に俺が表側の窓をたたき割るから、それを合図にして全員でそこらじゅうの窓や扉を破って、一斉に屋敷の中になだれ込め。音はできるだけたてるな。ターゲットは女だ。その場で殺しちまってもいいが、死体は回収する」
男達は頷き合った。
「よし、他の奴らに連絡しろ」
男達のうちの二人が、かがんだ姿勢のまま音もなくそれぞれ左と右に散った。
サミエルは地面に伏せたまま、ガタガタ震えてすすり上げ始めた。
「おいおい、勘弁してくれよ」
「泣き声で見つかったらシャレにならねえぞ。おい、俺達に殺されたくなかったらさっさとどっかに行ってくれ」
サミエルは後ろ向きに這って、その場を離れた。恐ろしいことになってしまったと思った。それにヴァレリーがこの屋敷に帰ってきたらさぞ驚くだろうとも考えたし、国王と王妃が死んでしまったら国中が大騒ぎになるとも考えた。
(自分は知らぬ存ぜぬを通すしかない)
これがサミエルが出した答えだった。
(ヴァレリー様に何があったのか訊かれたら、王妃に脅されてこの屋敷に連れてきてしまったことは正直に言おう。ボートレイ街のアパルトメントに連れて行かなかったことは隠しようがないから…。それ以外は自分は何も知らない。盗賊が勝手に屋敷を襲ったのだ…)
あの男達は、自分達が襲おうとしている人間が国王と王妃であることを知らない。もしも知っていたら、あの連中は襲撃をやめただろうか。
こんな考えがちらりと頭の隅をかすめたが、故意か無意識か、サミエルはそれ以上このことを考えるのをやめた。
(早くこの場から離れなければ…)
明日の朝、素知らぬ顔でみんなの前に現れなければいけない。愚かなサミエルはそのための算段を必死で考えながら、立ち上がって走り始めた。

「そう言えば、アルと一緒に来る二人の海賊って、どういう人達?」
マリウスがこんなことを訊いてきたので、タビーはさっきよりもドキリとした。
「そ、その人達は…、私がこの国に帰ってくる時に助けてもらった人達よ」
「そう。じゃあ、お礼を言わなきゃね」
その時…、
ガシャン!!
ガラスが割れる音がして窓のほうを振り返ると、割れた穴から弓矢が差し込まれており、次の瞬間、その矢がタビー達に向かって飛んできた。
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