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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第三十二話 国王の懺悔

ツールーズ城の王妃の部屋では、ソフィが一人で震えていた。もうすぐ交代の時間が来る。
サミエルは、交代の時間までには国王と王妃が一緒に帰ってくるか、または電伝虫で無事であることの連絡が入るから大丈夫だと言った。
しかし、いまだにそのどちらもなかった。ソフィは湧き上がる不安を押し殺すために、そのどちらかが今まさに起こっているに違いないと、半ば祈るように考えた。
ドアがノックされ、侍女長のカミラが厳しい顔を出し、自分に向かってマリウス様とオクタビア様が城に戻ってきたことを告げる。そして、オクタビア様がいつの間にか外出していたことについて説明を求められるだろう。自分は何も答えることができないが、オクタビア様もマリウス様も庇ってくれるだろうから、ごく軽い謹慎処分か何かで許されるはずだ。もしも、それで済まなくて侍女を辞めなければならなくなったら、サミエルと結婚すればいい。
だが、こんなことを考えても、ソフィの気は紛れなかった。
「サミエル、お願いだからマリウス様とオクタビア様を連れて早く城に帰ってきて…」
ソフィは自分の軽率さを激しく後悔して泣き出した。

ヴァレリーの屋敷の客間で、凍り付いたような笑顔を浮かべたまま涙を流しているマリウスを見て、タビーは胸が締め付けられる思いがした。何と言葉をかけていいか分からなくて、マリウスの手をぎゅっと握ると、自分の目からも涙がこぼれていることに気が付いた。
しばらく二人とも黙ったままだったが、やがてマリウスのほうから話し始めた。
「プレシ公国から電伝虫で君が訊いてきたことはね…、全部僕がやったことだよ。価格協定の破棄も、軍事協定のことも…」
その可能性もあるだろうという予感はしていたが、マリウス本人の口からこれを聞いて、タビーはたまらない思いだった。そして、マリウスは明らかに自分のしたことを悔やみ、助けを求めている。タビーには、マリウスの苦しい思いが手に取るように分かった。
「でも、実質的にはまだ何もやっていないんでしょう?今なら後戻りできるんでしょう?」
タビーは自分が泣いてはいけないと思ったが、どうしても涙を止めることができなかった。
責めている感じにならないように、できるだけ優しく問いかけた。その自分の声が震えているのが分かった。
「うん…実際にどこかと協定を結んだりはしていないけど…。でも、周辺の国々にも僕がやろうとしていたことが知れ渡ってしまった…国全体の信用にも関わることなのに…。今では、ガスケーニュ王国の若い国王は、不穏分子としてすっかり警戒されているよ…一番の友好国であるバスコニア王国からも、他の国からも…」
マリウスはタビーに、自分がしでかした失策を懺悔した。
「僕は何をやっているんだろうね…。根も葉もない噂に惑わされて、バスコニア王国を疑って、それならば出し抜いてやろうと考えて…。よく考えてみれば、すぐに嘘だって分かることなのに…。その結果がこれだよ…。僕は…、」
マリウスは震えていた。目から涙がこぼれ落ちた。
「どうしてこんなことになってしまったんだろう…。僕は、バスコニア王国や…他の周辺の国々とも…、戦争をしようとしているよ…」
口に出すのも辛いことだろうに…そう思いながら、タビーはマリウスの肩を震える腕で抱いた。そして、マリウスの耳元に優しく囁いた。
「大丈夫、今なら全部取り戻せるわ…。二人で頑張りましょう」
タビーは額に額をくっ付けるようにして、マリウスの濡れた瞳を覗き込んだ。
「アルもマリウスのことは分かっていると思うから…。全然怒ってないだろうし、力を貸してくれると思う。だから何も心配しなくても大丈夫だから…」
マリウスとタビーは抱き合って泣いた。思いっきり泣いて泣き止んだ後、二人はお互いに見つめ合って、照れたように笑った。そして、少年と少女のようなキスをした。
さっきの使用人はまだ戻ってこなかった。もしかしたら、もうそろそろやって来るかもしれない。それまでは…。
タビーとマリウスはお互いの肩に寄りかかりながら、静かに座っていた。もう少しだけ、あの使用人が戻って来なければいいと思いながら。

町はずれの小さな酒場で、サミエルは荒っぽそうな数人の男に囲まれて、いまだに呆然として座っていた。
「わ~はははっ!そりゃあ悪魔の実の能力者ってヤツじゃねえのか?悪魔の目といやあ悪魔の目なんだろうが、その正体は悪魔の実ってのを食って特殊な能力を身につけた、ただの人間だ!」
「お前、そいつにビビってここまで走って逃げてきたのか?」
「ぎゃ~ははははっ」
「赤く光る目か…。昨日、隣の国との国境付近でも、それっぽい奴が大勢の男を襲ったって事件があったよな?」
「じゃあ、同じ奴なんじゃないのか?」
「しかしあんな物凄い顔は初めて見たぜ!よっぽど恐ろしかったんだろうな。わはははは!」
酒場にいる男達はかなり酔っていた。サミエルは自分を笑うこの男達を恨んだ。それと同時に、タビーを指定された場所ではなく、ヴァレリーの屋敷に連れて行ったことを、今になって後悔していた。
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