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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第三十話 赤く光る瞳

「ひっ、ひいいい~~。1時間じゃ無理です~っ。2時間か3時間はかかります~~っ」
声を出すことを制止されたサミエルは、ボールから空気が抜ける時のような叫び声を上げた。
「1時間半で行け。着かなかった場合は、お前の首を切る」
サミエルはすっかり震え上がって、タビーを乗せた馬車を静かに出発させた。
当初の予定では、ニールの森ではなく、ボートレイ街の高級アパルトメントの一室に行くはずだった。“あのお方”が「国王の次に王妃までいなくなったら、ちょっと面白いと思わないか?」と言ったから…。
この犯行が発覚した後の、サミエルの保身は約束されていた。あのお方が、サミエルの行動はすでに姿をくらましているクロードという者にそそのかされてやったというシナリオを考えてくれていた。
しかし、今のサミエルにはそんなことなどどうでも良かった。当初の計画が何だと言うのだ。自分の命はあの恐ろしい悪魔に握られているのだ。
サミエルは、ツールーズ城の薄暗い裏口で、王妃の瞳孔が赤く光るのを見た。あれは人間の目でも、野生の動物の目でもない。悪魔の目だ!!
ツールーズ城からニールの森までは、通常なら馬車で3時間近くかかる。しかし、悪魔からの要求は1時間半だ。サミエルは馬に対して非情なまでに鞭をふるった。こんなに全力で走らせていたら馬が潰れるかもしれない。しかし、そうなっても構わなかった。早くニールの森の、旧モラン邸に着かなければ…。
あの悪魔は、時間内に到着しなければ首を落とすと言ったが、その時間まであとどのくらいだろう…。
恐ろしくて、振り返って馬車の中を伺うことがどうしてもできない。早くこの状況から抜け出したい。サミエルは無我夢中で馬車を駆った。

タビー自身も、サミエルが走らせる馬車の中で落ち着かない時間を過ごしていた。全力で走る馬車はひどく揺れた。
今のタビーの一番の心配事は、本当にサミエルはマリウスの居場所を知っているのだろうかということだった。もしも馬車の行く先がマリウスとは関係のないところだったら…、その時はサミエルを半殺しにして警察に突き出し、自分は城に戻れば良いのだが…。マリウス探しは振り出しに戻る。
ふと、ここで不吉な可能性が頭の中にひらめいた。バスコニア王国内の山間部で襲われた時のように、敵が10人以上現れたら…。迂闊にも、タビーはこの可能性を考えていなかった。あの時はローとゾロが助けに来てくれたが、彼らとは自分から別れてしまった。
もしもそうなったら、自分で何とかするしかない。あの時よりももっと上手く、ビムビムの実の能力を使ってみせる。

しかし、タビーの心配は少なくともこの段階までは杞憂だった。
馬車はある屋敷に到着した。サミエルが御者台を降りて屋敷の玄関に向かい、呼び鈴を鳴らした。時刻は午後10時ちょっと過ぎ。タビーが要求した1時間半よりも少し多くかかったかもしれない。
屋敷の中から使用人が出てきて、サミエルと話し始めた。
二人のやり取りを聞こうと、タビーは馬車の窓をそっと開けた。
「ヴァレリー様の客人がここにいるはずだ。その方に御用がある方を連れてきている」
「あなた様は…?ご主人様のお知り合いでしょうか」
「ここへは一度来たことがあるが、私の顔を忘れたのか?! 大事な用だ。私の客人を早く中に入れてくれ」
使用人はただでさえも主人を恐れていたので、面倒なことには係わり合いたくなかった。もしも後でこの男とその連れを屋敷に入れなかったことを主人から咎められても、逆の場合よりは言い訳が立つ。
「主人からは自分が留守の時には誰も屋敷に入れないように言い付かっております。申し訳ありませんがお引き取りを…」
「ええい、話しの分からない奴だっ。後でヴァレリー様からお叱りを受けるのはお前だぞっ!!」
タビーはここで自分で馬車の扉を開けて外に出た。それを見て、サミエルは頭の毛を逆立てんばかりに怯えて震えだし、何やら叫び声を上げながらどこかに走って行ってしまった。
使用人もタビーも、これを見てしばらくあっけに取られていたが、やがてタビーが口を開いた。
「ここはヴァレリー様のお屋敷なの?国王陛下がこの屋敷にいらっしゃるというのは本当?」
使用人は、いきなりこんなことを言われて面食らった。国王のことは分からなかったが、主人の名前がヴァレリーだということは間違いなかったので、それを目の前の若い女にそのまま言った。
「確かにここはヴァレリー様のお屋敷ですが…国王陛下がここにいらっしゃるというのは間違いではないかと…」
見れば、女はツールーズ城の侍女の制服を着ている。馬車を御してきた若者はどこかに行ってしまったし、王宮の侍女をこんな時間に外に放っておくのもいかがなものかと考えた使用人は、とりあえずこの侍女を屋敷の中に入れることにした。
「ご主人様は外出中です。お客様が一人いらっしゃいますが、まさか国王陛下ではありますまい。あなたの馬車の馬ですが、もう一人いる使用人に世話をするように言いましょう。それから、ツールーズ城に迎えに来るように連絡したほうがいいでしょうか。御者はいなくなってしまいましたので…」
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