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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第二十八話 逃げた者と立ち向かう者

「申し訳ないが、おれ達にも分かるように説明してもらえないか」
ローが口を挟んだ。
アルはヴァレリーの前に新しいグラスを置き、飲み物を注いでから話し出した。
「この方はヴァレリー。僕の従兄で、バスコニア国王夫妻の実子だ」
「? バスコニア国王には後継ぎがいなかったから、甥のあんたが養子に入ったんじゃなかったのか?」
「この方はね…10年程前に出奔したんだ。その後、王家から籍を抜いて王位も返上してる」
「…」
ヴァレリーは品良く飲み物に口を付けてから、穏やかに言った。
「持つべきものは出来の良い従弟…ってとこかな。父上と母上も、俺なんかよりも君のような優秀な息子のほうがいいだろうしね。バスコニア国民も同じ気持ちだろうな」
アルはローとゾロのグラスにも飲み物を注ぎながら言った。
「今までどこにいらっしゃったんです?ずっと行方不明だと聞いていましたが」
「いろんな国を回ってた」
「そうですか」
「その二人のことは紹介してくれないのか?」
ヴァレリーはローとゾロを視線で示した。
「失礼しました。こちらはローとゾロ。私の友人です」
「次期国王の友人にしては珍しいタイプだな。…海賊かい?」
「まあな…」ローが答えた。
「まあ、友人が多いのは良いことだ」
アルがちょっと話題を変えた。
「お父上とお母上はお元気です。お父上は最近、お忙しい中でもゴルフを再開されました。お母上はドッグショーに出す犬の訓練に夢中です」
「あの二人は相変わらずか…よろしく伝えてくれ」
アルとヴァレリーはジリジリと当たり障りのない会話を続けた。これがいつまで続くのかと思われた時、ゾロが口を開いた。
「あんたはどうして出奔なんかしたんだ?」
「まあ、いろいろとね…敢えて言うならプレッシャーって奴かな。ガスケーニュ王国は前の国王の子供やら兄弟やらがズラリと揃ってたが、バスコニア王国は王位継承権があるのは俺一人しかいなかったから何かにつけて注目されたよ。それで面倒くさくなって国を出た」
「それは気の毒だったな」
「でも、代わりに王位を継いでくれる奴がいて本当に良かったよ!アルのガスケーニュ王国での王位継承順位は低い訳ではなかった。マリウスとオクタビアに子供が生まれないままマリウスに何かあったら、王位は前王弟であるアルの父君に回ってくる。その次がアルだ。アルの父君は次に自分の息子が控えてるんなら、王位を辞退する可能性もある。オクタビアの母君の王位継承権が微妙だけどね。でも、もし本当にそんなことが起こったら、当然の権利でガスケーニュ国王になれるのに…」
「…」
「隣国に養子に出るとは…そんなに王位に就きたかったのか?それとも…」
ヴァレリーはここで意味ありげに少しの間を置いた。
「君には他の理由もありそうだね…マリウスとオクタビアを近くで見ているのが辛かったとか…」
ヴァレリーの口調は終始穏やかだったが、内容は明らかに挑発的だった。
「ただの噂ですよ」
アルは顔色一つ変えずに答えた。
「貴方も…10年も前に国を出た割には、最近の我々の事情に詳しいようだ。10年前というと、私達はまだ子供でした。それ以前も、血縁が近い私は別でしたが、王子だった貴方にマリウスやオクタビアが会う機会は年に一度あるかないかだったと思いますが…」
「マリウスとはちょっと前から友人を介して親しくしている。彼もいろいろと苦労が多いようだ。特に、君が隣国に行ってしまったのはマリウスが追い出したからだという噂がいまだに根強くて、かなり気に病んでいる」
「マリウスはそのような噂には惑わされません。精神的な強さは私など足元にも及びません」
「そういう奴ほど崩れる時はもろいものだよ。彼の気苦労は君のことだけじゃない。妃であるオクタビアとの不仲説も以前から囁かれている。二人のことについては関心があるだろうから、ご存知だと思うが…」
しばらく沈黙が流れた。アルもヴァレリーも、穏やかな表情を崩さないまま睨み合った。
やがてアルが口を開いた。
「…それで、マリウスの電伝虫に貴方が出た理由は?」
「マリウスの代わりに俺が来てやったってだけさ。国王を危険な目に合わせる訳にはいかないだろう?マリウスは俺の屋敷にいる。彼が勝手に出て行っていなければだが」
「なぜマリウスの近辺の者に知らせなかったんです。騒ぎになっていますよ」
「平民の俺がツールーズ城に訪ねて行って、門番に王様はうちにいますよとでも言うのか?」
相手に気が付かれないように小さくため息をついて、アルは立ち上がった。
「…マリウスを迎えに行きます。ヴァレリー、貴方の屋敷まで道案内を頼めますか?」
「あいにくだがこれから用事がある。俺の屋敷はニールの森の中にある。ずいぶん前にモランって大商人が建てた屋敷だ。“旧モラン邸”と人に聞けばすぐに分かるだろう」
「ニールの森?ガスケーニュ王国にお住まいなのですか?」
「ごくたまに寝に帰るだけだがね」
ヴァレリーも立ち上がった。その時、アルがずいとヴァレリーの前に出た。
「申し訳ありませんが、マリウスの安全が確認できるまで貴方の身柄を確保させていただきます。ロー、ゾロ、この方の身柄を押さえてくれ。扱いは丁重にね」
有無を言わさぬ口調だったが、ヴァレリーは薄ら笑いを崩さなかった。
「おいおい、手荒な真似はするなよ。後々後悔することになるぞ」
「それはどういう意味ですか」
「さあね」
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