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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第二十話 森の中の告白

タビーは落馬した時に、右側の手足と腰にひどい打撲を負っていた。ローによると骨には異常ないとのことだが、大きな痣ができており、非常に痛々しい状態だった。
ローもかなり体力を消耗していた。タビーを追うための長距離走とその後の連続シャンブルズは、丈夫とは言えないローの体に堪えていた。タビーに切られた肩の傷も、まだ完全でないのかもしれない。
必然的に、ゾロが近くの民家を偵察に行くことになった。
太陽が沈んで、周囲は暗くなりかけていた。すると、林の中に灯りがともるのが見えて、何かの建物があるのが分かった。
これが善人が住まう家であれば、食料の提供と宿泊を頼むことができるかもしれない。気候的に薄着でも凍える心配がないとはいえ、毛布も敷き物もない状態で草むらにタビーを野宿させるのは、二人にはためらわれた。
「お前、悪いがもうちょっとだけ頑張ってくれよ」
ゾロが馬の首をポンポンと軽く叩きながら話しかけ、馬にまたがって林の中の灯りのほうにゆっくり歩いて行った。
残されたローとタビーは、自分達の馬から鞍を外してやり、枯れ枝を集めて焚き火をした。
枯れ枝に火をつける時、タビーはちょっと笑ってから、ふっと息を吹いて小さな火を出した。
「便利だな」
ローも笑いながら感想を言った。それはおとぎ話の中の火の精が、小さな火の子を生み出す様子を思わせるような幻想的な光景だった。
タビーは焚き火の炎を見ながら、もしも一人きりだったら、真っ暗な森の中でも絶対に焚き火なんかしなかっただろうと考えた。でも、この人達と一緒なら全然怖くない。考えてみれば、次の追手がすぐそばまで迫っている可能性だってあるのだ。でも、もしも追手が現れても、ローに瞬間移動してもらって逃げるか、ゾロに剣で倒してもらえばいい。…自分は少し図々しいだろうか…。
敵の追跡を恐れる必要はもうない。しかし、目の前の問題がひとつ去ると、影を潜めていた別の問題が少しずつ頭をもたげ始めた。
自分はマリウスに会わなければならない。それからアルにも。
二人に会って、どんな結果に行き着けるのだろうか。それを考えると、タビーはちょっと沈んだ気分になった。
「疲れたか?」
ローはタビーの様子の微妙な変化に気が付いて声をかけた。タビーはすぐに笑顔を作り、ローの質問に首を横に振って答えた。そして、ローにいくつかの質問を始めた。
「あなたも悪魔の実の能力者よね」
「そうだ」
「ゾロもそうなの?」
「いや、あいつは違う」
「悪魔の実を食って良かった?」
「おれは良かったと思っている。中には後悔する奴もいるらしい…泳げなくなるしな」
「悪魔の実の能力者になって、どのくらい経つの?」
「13年以上になる」
「私がビムビムの実を食ったのは一か月半前よ」
タビーはこう言うと目を伏せた。ここ何年かで、タビーの周辺はそれまでとは変わってしまった。周りだけでなく、自分自身も変わったのだとタビーは思った。悪魔の実まで食ってしまった自分が、変わっていないはずがない。
「後悔してるのか?」
「そうではないの。ここまで来られたのはビムビムの実の能力のお陰でもあるし」
タビーはそう言って笑ってみせたが、ローにはそれがとても寂しそうなものに見えた。
気が付くと、焚き火の向かい側に座っていたはずのローの顔が、タビーの顔のすぐ近くにあった。
後頭部に手を添えられたため、タビーは顔を動かすことができなくなった。そのまま静かに、唇に唇が押し当てられた。二人とも座った姿勢のままだった。
ローはもう片方の手でタビーの肩を包むように抱いた。タビーは身をすくめることしかできなかった。
接吻は長かった。一度ローの唇が離れた時に、タビーは抗議の声をあげようとしたが、またすぐに唇を唇でふさがれた。
ローの両腕に力が込められ、タビーの体はローのほうにさらに引き寄せられて、きつく抱きしめられた。ローは唇から唇を離すと、自分の首の左側にタビーの顔を押し付けた。
そしてしばらくの間、そのまま動かなかった。
タビーはやっと言葉を話すことができた。
「お願い。離して」
それでもローは手を緩めようとしなかったが、その時、すぐ近くから容赦なく地面を踏み鳴らす音が聞こえた。ゾロが戻ってきたのだった。
「悪いがもう一人いることを忘れてもらっちゃ困るな」
ゾロが低い声で言った。
タビーは素早くローから体を離した。ローも気まずそうな様子で立ち上がった。
「野暮は重々承知だが、自分だけで食事と宿にありつきに行くのもどうかと思ってな」
ゾロは不機嫌そうに「あの灯りは、大きな農家だった」と言うと、その後は黙ってしまった。ローもずっと黙ったままだった。
間もなく、3人は馬で出発した。宿を貸してくれる農家から借りたのか、ゾロは辺りを照らすためのランプを持っていた。こんなに気まずい雰囲気の中でも、ゾロは自分勝手に先に行ってしまったりせず、全員が歩きやすいようにランプを高く掲げて道を照らしてくれている。
タビーにはゾロの気遣いが身に染みた。そして、自分への気持ちを伝えてきたローのことも。
二人は自分達の船から離れて、自分を追ってきたのだ。多分これは、普通のことではないのだろう。
二人に対して、自分は何かできることがあるのだろうか。
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