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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第六話 怪力女の発熱

サウザンドサニー号はゴルジカ島への航路を順調に進んでいた。天候と風向きは申し分なく、操舵者のジンベエは軽やかに舵を取っている。
海軍が追ってくる気配はない。この調子なら何事もなくゴルジカ島に到着するだろう。
しかし、自分達の部屋で休んでいる客に飲み物を持って行ったロビンが、甲板に戻ってくるなり、船内で小さな異変があることを仲間に伝えた。
「お客様は体調が悪いみたい」
それを聞いた一同は、顔を見合わせる。
「船酔いか?」
「いいえ、熱があるみたい。チョッパー、診察をお願い」
船医がカバンを持って、ロビンと一緒に女子部屋の中に入っていく。
船医はすぐに診察の結果を出した。
「過労と軽い風邪だと思う。しばらく休めば大丈夫だ」
船医から病名を聞いた一同は、ほんの少しあきれ、同時に安堵して同情的な反応を示した。
「この季節に風邪かよ」
「か弱そうだもんな」
「ロビン、毛布をもう一枚出したほうがいい?」
「じゃあ、食事は消化が良くて滋養が付くものにするか」
このような会話の中、ゾロはわざと重々しい、調子がかった声で言った。
「お前ら、騙されるな」
全員の目がゾロに集まる。ゾロはニヤリと笑った目つきで、これから自分が口に出すことが、ちょっとした爆弾発言であることを匂わせながら言った。
「あの女はか弱くなんかねえぞ」
「えっ?」
「まず、相当な手練れであることは間違いない。町の中であの女に向かって投げつけられた鬼哭を、あっさり片手で受け止めやがった」
「片手で?」
「町でそんなことがあったのか?」
ゾロの思惑通り、仲間達はこの件に関して興味を示し、軽く色めき立った。
「なんであの人に鬼哭が投げつけられたんだ?トラ男がやったのか?」
この質問にはゾロが答える。ローは客人を船に連れて来てから、ずっと無口だった。
「鬼哭を投げた犯人が誰なのかは分からねえが、それは大きな問題じゃない。口には出さねえが、あの女には心当たりがあるんじゃないかと思う」
ふうんと、話しを聞いていた全員が、事情を察したかのような顔をする。なるほど、さっきゾロが客の女を「訳あり」だと言ったのは、そういうことだったのか。それから今の話しだと、トラ男は町で誰かから鬼哭を奪われたんだろうか??
ゾロは、さらに続けて言った。
「それとだ。あの女は、ああ見えて結構な怪力だぞ!!」
「なに?!」
「あの細い体で鬼哭を軽々と肩に担いで、おれ達と一緒に町から港まで歩いてきたんだぜ。そうだよな、トラ男」
「…ああ」
ローが短く答えた。
「そいつぁすげえな」
「鬼哭って、何キロくらいあるの?」
「…」
ローはこの問いに答えなかったが、一般的な日本刀の重さは、鞘に入った状態で、軽いものは800g、重いものは1.5kgほどらしい。しかし、鬼哭は並の日本刀よりもかなり大きい。短い距離ならともかく、長い距離を持ったまま歩くのは、女性にはかなりきついはずだ。
「でもまあ、怪力でも別にどおってことねえだろ」
「おれ達には害はなさそうだしな」
「魚人の女なら、そんなことくらい普通にやってのける」
「そうか、魚人だっていう可能性もある訳だ」
「いや、あの女性は魚人ではないようじゃが…」
「きっと殴られたら痛いでしょうねえ~」
「そろそろ飯にするぞ」
噂話に飽き始めた麦わらの一味は、これであっさりと解散した。

ナミとロビンは、食事の前に寝込んでいる客の様子を見に行った。女はパジャマに着替えて、ベッドに横になっていた。さっきロビンがそうさせたのだ。
二人が部屋に入ってくると、女はさもたいしたことはないといったふうに、ベッドの上で上半身を起こした。しかし、熱を測ってみると38度2分だった。さっきチョッパーが測った時より少し上がっている。
「熱が上がってるわ。食事は食べられそう?」
「あまり食欲はありません。すみません、ご面倒をかけてしまって…」
「気にしないで。困った時はお互い様よ。何か欲しいものはある?」
「いいえ、特に何も」
「軽めの食事を持ってくるわ。薬も飲んだほうが良いかもしれないわね」
気丈に振る舞ってはいるが、女の顔色は悪かった。それでも、女は二人に向かって申し訳なさそうに言った。
「私一人でベッドを占用してしまっていて申し訳ありません。今夜、お二人が寝るところが…」
女が寝ているのはベッドの端であったが、熱のせいで汗をかいていた。
「それは大丈夫よ。大きいソファやハンモックを出して寝ることもできるから」
「何も問題はないわ。あとでシーツを替えましょう」
病人の世話を一通り焼いた後、ナミとロビンは部屋を出ていった。
二人はとても親切だった。しかし、当然のことではあるが、女には完全に気を許す気はない。
ただ、今は体が重くて思うように行動できない。不覚にも、他人の助けを受け入れざるを得ない状況に陥ってしまっている。
ちょっと前までは、こんな思いをしたことなどなかった。今までも、身近にいる者全員を信用できるという環境ばかりだった訳ではない。でも、知らない場所に一人きりという経験は初めてだった。何とも言えない心細さに、目から涙がにじみ出た。
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