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You Are My Sunshine

原作: Fate 作者: こさき
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love song

相も変わらず仮初めの平和を謳歌するカルデア。
マスター同様サーヴァントにもそれぞれ個室が与えられており、縁のある者・気の合う者同士が集まる場合は共用スペースよりも誰かの部屋を使うことが多い。数多の英霊が一堂に会する奇跡の弊害と言うべきか、これだけ濃いキャラが揃っていれば、全員が仲良しこよしというわけにはいかないのが世の理なのである。
同じマスターに従っている以上トラブルは避けるべきで、ならば関わらないようにするのが1番・・・そんな考えで積極的に出歩かないメンバーの1人に、意外にも我らがゴールデンな兄貴・坂田金時がいた。
ただし彼の場合、少々苦手意識のある源頼光や酒呑童子は別として、単に大胆な服装の女性が多すぎていたたまれないという理由からであって、特に悪感情を抱く相手がいるというわけではない。(だから男臭いトレーニングルームは問題なく、足繁く通っている。)

「金時さん、秋です!」
「そうだなフォックス。イモでも焼くか?」
「私お芋よりビタミン類と食物繊維が豊富でポリフェノールも含まれている栗のほうが好きなのですが、今はどちらもノーセンキュー!期間限定スイーツの数々も正直捨てがたいものの・・・はるか万葉の時代より、秋といえば歌人たちが最も元気いっぱいに活動する季節ですよ!」
「なんか虫みてーじゃん?」
「というわけで、プチ歌会を開催いたしましょう!」

しかし現在金時は、くつろげるはずの自室にいながら目のやり場に困っていた。先程急に押し掛けてきた玉藻の前がいつもの衣装でぐいぐい迫ってきているからだ。
その上毎度のことながらそこそこハードルの高い要求を突き付けられ、キャラに似合わぬため息を隠しもせずに吐きだした。

「えっと・・・いつどこで?」
「今!ここ!で!」
「面子は?」
「私と金時さんの2人に決まっております。」
「それは無理があり過ぎでは。」
「歌合じゃありませんから大丈夫ですよぉ。久々に言の葉での駆け引きを楽しみたくなっただけなので、金時さんに“愛しき言尽くして”いただけさえすれば歌会である必要性もゼロです。」
「さらなる高難易度イベントに進化した!」
「ここは“花も紅葉もなかりけり”ですから季題も自由でOKですし、引歌や本歌取もかまいませんから。」
「えー・・・昔っからこーゆーのはどうもな~。」
「仕方ありませんねぇ。ワガママな金時さんへの女神的慈悲として、借用も可といたしましょう!」
「おっ、それならイケそうな気がすんぜ。サンキュなフォックス!」
「金時さんがチョロすぎて心配になるレベルですが・・・ではさっそく私に相応しいと思う歌を選んでみて下さいな。」
「えーと・・・“恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉”。」
「・・・ちょっと金時さん?真面目にやって下さいまし!とんだ狐違いどころか、その方あの暗黒イケモンの関係者じゃないですか!」
「だからフォックスにぴったりかなって。」
「そーゆーこっちゃねーんですよ!恋の!歌を!プリーズギブミー!!」
「んー、それじゃ・・・“わが恋は松を時雨の染めかねて真葛が原に風騒ぐなり”。」
「葛と恋を共存させろって意味じゃないですからね?!そもそも狐から離れろ!」
「え~?・・・あ、“玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする”。」
「・・・それはなんだか酒呑ちゃんっぽくありません?」
「そうか?なら“来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ”。」
「んん?・・・あっ!金時さんたら、さっきのも今のも『玉藻』にかけただけでしょう!?」
「バレたかー。」
「もうっ、源氏のお屋敷で徹底的に教養は叩き込まれたって聞きましたけど?!」
「でも身に付かなかったってのも言ったじゃん?」
「うっ・・・ですが、現在喚ばれている顔触れでは金時さんしか適任者が。」
「言われてみりゃ平安の英霊は男女比かなり偏ってっけど・・・フォックス両刀使いじゃねーの?」
「確かにイケ魂なら性別は関係ない的な発言は致したかもしれませんが、そもそも相性悪すぎな人ばっかなんですよ!」
「あ~・・・スネイクとか鬼共は興味無さそうだしなぁ。」
「残りは論外と脳筋と坊主のみ・・・。」
「俵の兄さんは?貴族だから漢詩もきっと嗜んでて、話のレベルがフォックスと合うんじゃねーかな。」
「ご飯のことで頭がいっぱいの日本三大妖怪バスターと雅な遊びを楽しめと。」
「俺っちだって頼光四天王の一人じゃん。」
「金時さん、私を退治するんです?」
「しねーけど。」
「でしょう?」

けれど結局こうやって玉藻の気まぐれに付き合って、なんだかんだと言われるがまま彼女の望みに出来る限り応えてしまっているのだから、彼がイヤがっていないのは誰の目にも明らかである。
そしてその意味を金時は意外にもちゃんと知っていた。

「・・・じゃあラスト、“あしがらの山のしづくに妹待つと我立ち濡れぬ山のしずくに”ってのは・・・どうよフォックス?」
「“我を待つと君が濡れけむあしがらの山のしずくにならましものを”・・・?枕詞改変の是非については触れないでおいてあげますね。」

だからと言って何もしないしどうにかなることもない。それがゴールデンクオリティ・坂田金時という男なのだった。
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