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どっちもどっち

原作: その他 (原作:Axis powers ヘタリア) 作者: 鮭とば
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どっちもどっち

 ちゅんちゅん、と遠くから微かにする鳥のさえずりが、ふと耳に届いた。それと同時に深い所で微睡んでいた意識が引き上げられる感覚に導かれるまま、アーサーは少し重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。ほの暗い室内に薄っすら差し込む朝の光りが顔に少し当たり眉を顰めていれば、外からコンコン、と二回ドアを叩くような音がした。
 オリバーが起こしに来たのか。
 専属執事の好々爺然とした顔を自然と思い浮かべ、アーサーは何時もの様に短く入れ、と返した。それに何故か少し合間があってから室内に入って来る人影への違和感に気付かないで、乱れた髪を更に搔き乱す。
「…モーニン。何か今日は明るいが、カーテンはいつ開けたんだ?まあ、取りあえず一杯飲んでから予定を……」
「はい。畏まりました」
「っ!?」
 オリバーより低い、耳障りの言い声に慌てて顔を上げれば、執事の様に控えめに笑う恋人の姿がそこにあった。思いかけない人物を前に口をぱくぱくと開閉するしかないアーサーに本田は楽しそうに小さく笑い、「申し訳ありませんがアーリーモーニングティーのご用意がまだできてませんで。今すぐにご用意致しますので、少しお待ちを。ご主人様」と言い置いて部屋を出て行った。
 どうして本田が居るんだ?なんで、どうして、ここ、に…?
 我に返って見渡した室内は、自分の寝室とは全く違う和室で。今まで寝ていた所も勿論ベッドではなく、本田手作りのニオンジャック柄の布団。
 そうだ。昨日から休暇で日本に泊まりに来ていて、という所まで思い出したアーサーの大絶叫が朝の日本家屋に木霊した。


「ふふ、ふふふふふ」
「……」
 朝から大声で近所迷惑をしてしまったというのに、本田の上機嫌が止まらない。
 反して不機嫌なアーサーは、その特徴的な眉をもの凄く顰めて、用意されたイギリス伝統のフル・ブレックファストに、持ったフォークをソーセージへ刺した。ちなみにアーリーモーニングティーはあの後急いで断ったが、ブレックファストティーはきっちりと用意されている。
 ―これは笑ってしまうことへの詫びなのか、元から用意していたのか。
 日本での朝ご飯は和食が並ぶことが常なのに、ここまでのイギリス風は初めてだ。いつもならもしかして恋人の俺の為になのか、なんて浮かれるだろうが、そんな気持ちが目の前で未だ笑いを堪えられない本田を見れば湧くわけもなく。食べるのも儘ならない様子の恋人をついねめつける。
「…そんなに面白かったかよ」
「す、すみませ…ふふ。だってアーサーさんったら、寝ぼけて私の事執事さんと間違えるだなんて…ふふふ」
 あー可笑しい、と笑い泣きを指で拭う本田に、アーサーは目を吊り上げる。
「しょ、しょうがないだろ!つーか、何でわざわざ柱を叩いてから部屋入ってくんだよ!紛らわしい!」
 それさえなければ洋室とは思えなかっただろうし、自分の家とも間違えなかったと抗議され、本田は苦笑を浮かべた。
「だって何度か声をかけたのに返事がなかったもので。だから柱を叩いてノックの音を、と思ったのに、それを、ふふ、まさかドアのノック音と間違われるなんて、可愛すぎです…ふふ」
「可愛いのは本田の方だ!」
「残念。今日はアーサーさんが可愛い大賞です!あはは!」
 とうとう声を上げて笑い出す本田。いつもは相手の機嫌を察して振る舞うのに、ここまでからかってくるのも珍しい。それだけアーサーの対応がツボったのだろう。恋人が自分の行いで上機嫌なのはいいことだが、こういう笑われ方は違う。あと可愛い大賞ってなんだ。好きな相手にはもっとかっこいい所や紳士的な対応で喜ばせたいのだというのに。あと、ただ単純にからかわれっぱなしは悔しい。
 取りあえずこのままでは朝食が終わらない、と笑うのを止めさせようと口を開きかけた瞬間、急にとても聞き慣れた曲が流れた。
「へ?」
「あ!す、すみません!何でもないです!!」
 これはイギリス国歌か、とアーサーが気付いたのと本田がスマホをいじり曲が止まったのはほぼ同時。先程までの上機嫌を一瞬で忘れた様な顔色で目を泳がせる本田に、アーサーがニヤリと笑った。
「今の何だ?」
「ええっと、その、あ、アラームですね」
「何のアラームだ?今日から本田も休暇だよなぁ」
「いや、その、ほら、昨日まで仕事漬けだったもんで、仕事前のアラームの設定を止め忘れていまして…」
「仕事に行くためのアラームは以前聞いたが、何かは分からなかったが日本のアニメーションの曲とか言ってたよな?あの曲を止めてイギリス国歌にしたのか?あんなに気に入ってた曲だったろう?」
 なぁ、ほーんーだー?と元ヤンの追撃に、本田が白旗を上げた。
「……アーサーさんにお休みなさいの電話をかけるためのアラームです…」
「へぇー。そんな健気なこと毎日してくれていたんだな。けど昨日からお邪魔させて貰ってたのに、消し忘れていたんだなー。本田もそんな凡ミスすることあるんだな」
「ううう…」
「可愛い大賞はやっぱ本田決定だな」
「一生の不覚……」
 先程までと逆転した機嫌に、今日のアフタヌーンティーは緑茶と和菓子にしてやろうとアーサーは紅茶を口に含んだ。
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