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雪解け

ジャンル: その他 作者: 水篶(みすず)
目次

雪解け⑶

縁側の方へ歩いているといきなり雪玉が飛んできた。いつの間にか和泉守が近くに来ていたのだ。そして彼が投げた雪玉は堀川の顔面に見事直撃した。
審神者はおそるおそる声をかける。
「…ほ、堀川さ〜ん…?」
彼の顔は雪であまり見えなかったが、顔が引きつっているように感じたのは気のせいだろうか。
「か〜ね〜さ〜ん。」
和泉守はニヤリと笑う。
堀川の顔から雪が落ち、彼の顔が見えた。
「ひぇ……」
彼の目は据わっていた。
「主さん、ちょっと失礼します。」
「え?」
堀川は片手で審神者を抱え、もう片方の手で雪玉を作り、和泉守に向かって投げた。
堀川が投げた雪玉はとても速かった。しかし和泉守はひょいっと避けた。
「ははっ、そんなもんかぁ?」
得意げな顔で言った。すると和泉守の後頭部に雪玉が当たった。
「ってぇ!!」
「あははは、当たった当たった!!そんなもんかぁ?」
安定が指をさし、笑いながら言った。
「てめぇ・・・。」
そして今度は和泉守の顔面に堀川が投げた雪玉が直撃した。
「……おうおう、お前ら。…揃いも揃って舐めた真似してくれたなぁ!!おらぁぁあ!!」
怒りで体をプルプルと震わせ、叫びながら和泉守は安定と堀川の方へ雪玉を投げた。
それを合図にそれぞれが雪玉を投げ出した。雪合戦の始まりだ。
「はぁ、まったく。寒いのによくやるよね…。」
安定の後を追って雪の中を歩いてきた清光は少し離れたところで見ていた。
「ほどほどにしておきなよー。そのうち長谷部に見つかって怒られるy…っった!!」
雪合戦をしている彼らに向かって注意をしようと叫んでいた最中、どこからか飛んできた雪玉が清光の顔に当たった。
「あ、ごめん清光ー。」
「安定ぁ!!今の絶対わざとだろ!」
「お前がぼーっとしてるからだろ~」
「ふっざけんな!!オーラオラオラァ!!」
ついに清光も参戦し、四振りと一人の雪合戦が始まった。
「そーら目潰しだ!!」
「フェイントに見せかけて攻撃!」
「遅いよ!」
「沖田譲りの、冴えた一撃!!」
「おい!てめぇだけ真剣必殺かよ!!」
「オラオラオラァ!!」
いつの間にか皆本気になっていた。しかし笑顔もあった。

堀川は審神者を片手に抱え、攻撃をする。彼に雪玉を投げようとすると審神者を見せ、雪玉を投げさせないようにした。
「あ!堀川、ずるい!」
「てめぇ、主を盾になんてずりぃぞ!」
「僕も結構、邪道でね!」
そう言って雪玉を投げ、攻撃をする。
「主に雪なんてなげられないでしょ!どうなのそれ!?」
各々が文句を言いながら堀川以外を攻撃する。
それを聞いていた審神者は思った。
(う~ん…。確かに…?)
すると、最初に堀川の顔に投げられ、彼の服についていた雪を掴むと
「ごめんなさいっ!」
と言って優しくぺしっと堀川の顔につけた。
「「「「!?!?」」」」
皆驚き、言葉を失う。なにが起こったか分からずポカンとした表情で堀川は審神者を見つめる。そして抱えていた力が弱まった。その隙に審神者は飛び降り、距離をとった。
「私も結構邪道でね!…なんて…ね。あはは…ご、ごめんね?」
申し訳なさそうに言うと、
「はっはっは!!いいねぇ、主!やるじゃねぇか!」
大声で称賛をおくる和泉守。そして目が本気の堀川。
「ああ…よくもやってくれたね…。」
「ひぇ…。」
ゆらりゆらりと歩み寄る堀川に恐怖を感じ、審神者はあわあわしている。そしてもうだめと思い目を瞑ると冷たいものがばさっと振りかかった。
「!?」
驚いて目を開けると堀川が手を膝に置いて少し屈み、ニコッと笑顔で言った。
「お返しです」
堀川は雪を審神者にかけたのだ。彼の優しさに胸を撃たれた。
そして笑顔で堀川に雪をかけ、やり返した。今度は雪の掛け合いが始まった。最初は堀川と審神者が掛け合っていたが、清光や安定も参戦した。そして和泉守はその長い足を使って雪を蹴り、皆にかけた。

いつの間にか太陽が全て顔を出し、雪が積もった庭にはきらきら光る雪が舞い、たくさんの笑い声が響く。
皆楽しいひと時を過ごした。
刀であるという事、審神者であるという事を忘れ、ただの人間として。


「こらーー!!お前たち!何をやっている!!」
遠くで怒鳴る声が聞こえる。
「うわぁ、厄介な奴に見つかった。」
「だから言ったでしょ!長谷部に見つかるって。」
長谷部が再び怒鳴る。
「今すぐ戻ってこい!って主!?主もご一緒なのですか!!?」
審神者の存在に気づき、驚きの声を上げる。
「そんじゃ、戻ろっか。」
「さ、寒い…。」
「へぇへぇ、しゃーねぇな。」
「そうですね。そろそろ朝餉の用意もしなくちゃ。」
それぞれが縁側の方へ歩き始めた。

審神者は彼らの背中を見ていた。大きな背中だ。

堀川がこちらを振り返り行った。
「主さん、行きましょう。」
「あ、うん!」
ここでようやく手足の感覚がないことに気づく。冷たすぎてうまく動かない。動きにくい雪の中、一生懸命に足を動かした。すると堀川が近寄り、抱きかかえた。そして審神者の両手を掴み、はぁーっと温かい息を吹きかける。
「手足、真っ赤ですね。早く温めないと霜焼けになっちゃいますよ」
「…!…ありがとう。」
お互いにニコッと笑い、縁側に向かった。審神者は敵わないな…と思ったのであった。


縁側に着くと長谷部が怖い表情をして待っていた。
「お前たち!こんな朝っぱらから何をやっているんだ!服も濡れているではないか!あぁあぁ、縁側もこんなになって…。全く…お前たちは…」
「はぁー…長い説教が始まったぜ」
「っていうか寒いんだけど…。」
誰も長谷部の説教を聞く様子もなく、よそ見をしていた。
「っくしゅん!」
審神者がくしゃみをすると皆が審神者を見た。
「あぁ!主!すみません、後からこいつらには厳しく言っておきます。早くお体を温めなければ…。」
「あ、えっと、元はと言えば私が始めたことなの。私が雪で遊ぼうとしていて、それでみんなを巻き込んでしまったというか…。」
「本当ですかそれは!?」
「はい…。」
「主まで…。しかもそんなお姿では風邪を引いてしまいます!」
「まあまあ、まずはみんな着替えて。部屋も暖めておいたよ。後で温かい飲み物も持っていくね。」
燭台切が全員分のタオルを持って来て渡しながら言った。
「「「「「お、お母さん…。」」」」」
口をそろえて言った。
「ははは。ほら、風邪ひいちゃうよ?」
燭台切は移動するように促した。
「ほら、君も。そんな薄着じゃだめだよ。」
審神者にタオルをかぶせ、ごしごしと頭を拭いた。
「そ、そうだね。まず着替えてくる」
そう言って審神者は自分の部屋へ向かった。

歩いていると借りたままのジャージに気付く。
「あ、堀川に上着借りたままだった。」
不意にそっと袖口を鼻元へもっていく。彼のにおいが微かにする。
(いい香り…。堀川のにおいだ…。まるで堀川に…ってぇぇ!!私は何を考えて…。)
審神者は自分でこんな事を考えるなんてと驚いた。そして審神者を呼ぶ彼を思い出す。艶のある黒髪、浅葱色の大きな瞳、綺麗な肌…。とても近い距離で接していたことを思い出すと顔が真っ赤になり、体中が一気に熱くなった。
そして、小走りに自分の部屋に向かった。


走っているからだろうか。なかなか胸の高鳴りが止まらない。

調子狂うなぁ…。

いつの間にかジャージのポケットに入っていた雪は解けていた。

後日・・・

「あ!堀川!この前はジャージありがとう。あと...一緒に遊んでくれてありがとう。すっごく楽しかった。」
「はい!僕で良ければいつでもお相手しますよ。」
ニコッと笑顔で答える。やはり彼は眩しい…。

一通りの会話が終わり別れると、堀川は不意に丁寧に畳まれたジャージを鼻元へもっていく。
「主さんのにおい...いい香り...ってぇぇ!!僕は何を考えて...」
堀川は顔を真っ赤にし、ジャージを羽織りながら小走りに手合わせへと向かった。
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