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約束

ジャンル: その他 作者: 水篶(みすず)
目次

約束

ジリジリと太陽が照りつける暑い暑いある夏の日。
今日は主の大切な人の命日らしい。
俺は主の部屋へ行き、襖の前で声をかけた。
「主?今いい?」
「うん、どうぞー」
「失礼しまーす」
襖を開けると主は出かける支度をしていた。
「今日、お墓参りに行くんだって?」
「え?なんで知ってるの?」
「歌仙が行ってた。主に花の事聞かれてその時に。」
「あ〜なるほど!うん、今日は現世にお墓参りに行きます。」
「大切な人?」
審神者は少し困ったように答えた。
「…うん。そう…だね」
「あれ?そういえば、主の家族はまだみんな元気?」
「うん…」
「あ、じゃあ親戚?おばあさんとか」
「うん…かな…」
主はあまり話したがらなかった。
確かに主の口からあまり家族や親戚の話は出ない。
「だから留守の間、本丸をよろしくね」
「……。」
「?清光?」
「ん?あぁ…りょーかい。」
一段落会話が終わると主はまた支度を再開した。

「………。ねぇ、主。」
「んー?」
「俺も一緒に行ってもいいかな?」
「えっ…?」
「主の大切な人なら会いたいし」
「う〜ん。でもわざわざ一緒に行ってもらうのも…大変だし……」
「だいじょーぶ。俺、現世行ってみたいし。」
「うーん。でも…」
主は口をもごもごと
「ダメ?」
そう言って主の顔を覗き込んだ。
「うっ……」
よし、効果抜群。
「あっ……」
主は何かを思い出したのだろう。動かなくなった。
そしてしばらくすると、
「あ、あのね清光…。やっぱり一緒に来て」
「へ?」
「お墓参り。一緒に来てくれない?」
「え、いいの?」
「うん。」
「行く!行く!よし、じゃあ準備してくる」
すぐさま主の部屋を出て、準備をした。


「ほいっとーちゃく!」
「とーちゃく〜〜」
「わ〜〜あっちぃ…」
「暑いね……」
「現世もこんなに暑いんだね…」
「だね……私も久しぶりに現世に来た…早く終わらせて帰ろうか」
「そうね〜…あぁ…暑い…」
「あっそうだ。ちゃんと準備してきたよ」
審神者は鞄の中をごそごそとし、取り出したのは日傘だった。
傘を開いてはいっと清光に渡した。
「あ、主〜〜さすが俺の主!」
「良かった持ってきて。日焼けしちゃうもんね」
「本当だよ…シミも増えるし」
(清光の女子力の高さには毎回驚かされるな…)
審神者はいつもそう思っていた。
「よし、じゃあ行こうか」
審神者が歩き出すといきなり腕をつかまれ、後ろに引かれた。
「わっ!!」
驚いて後ろによろけてしまい、清光の体に少しだけぶつかってしまった。
「びっくりした…ご、ごめん…ね…」
ふと見上げると、すぐ近くに清光の顔があった。
綺麗な肌だった。そして何よりも吸い込まれそうなほど綺麗な瞳だった。
「日傘に入らなきゃだめでしょ。主もシミができちゃうからね」
清光はにこっと笑うと審神者は我に返った。
「そ、そうだね!ありがとう…」
「うん。よし、じゃあ行きますか!」
体や顔が熱いのは暑さのせいだろうか。

「あ、ここだ。」
「ついた?」
「うん。一年ぶりだ……まずは掃除かな」
審神者はお墓の周りの雑草を抜き、墓石も綺麗にした。そして清光も手伝った。
「ふぅ〜…こんなもんかな。清光、ありがと」
「ふぅ〜〜こうもほっておくと大変だね〜〜」
「ね。雑草たくさんあったね。お疲れ様」
審神者は清光にタオルを渡し、線香に火をつけた。
そしてしゃがみ、手を合わせ目を瞑った。
清光も隣にしゃがみ、審神者の真似をする様に手を合わせ目を瞑った。
辺りは蝉の声だけが響き渡っていた。

清光は横目でちらちらと審神者を見ながら、手を合わせ続けた。

しばらくすると審神者が話始めた。
「おばあちゃん…お久しぶりです。元気だった?
なかなか来れなくてごめんね。あのね、遅くなっちゃったけど、私審神者になったよ。ほら、私の初期刀の加州清光。清光はね、とても頼りになるし、私の事ちゃんと叱ってくれるんだよ。ちゃんと私を見てくれる…。おばあちゃんみたいだね。」
「ちょ、やめてよ…照れるじゃん……」
「ふふっ。仕事は大変だけどみんなと過ごす日々はすっごく楽しくて幸せだよ。審神者としてはまだまだ未熟だけど、これからもたくさん勉強しておばあちゃんのような審神者になれるように頑張るね。」
審神者は再び願いを込めるように強く祈った。
清光はその横顔を見つめていた。
祈り終わると隣にいる清光に審神者は言った。
「おばあちゃんはね…元々審神者だったんだけど、私が生まれた頃にはもう引退してたの。私は色々あって物心ついた頃からおばあちゃんと2人で暮らしてたんだけどね、おばあちゃんに言われたの。『あなたが審神者になったらお祝いしなくちゃ!その時はきっと立派になってるわね。ふふふ、早くあなたの審神者衣装が見たいわ。あ、そうだ。ぜひあなたが選んだ初期刀さんも一緒に来なさい。みんなでお祝いしましょ。たっくさんお料理作って待ってるわね。』って。でも、間に合わなかった…。でね、その言葉を思い出して、今日は清光も一緒に来てもらったの。…おばあちゃん。私頑張るね。」
「主…。」
「よし!おばあちゃんにも報告できたし、そろそろ帰ろっか!」
「うん…そうね。」
審神者は辺りを片付け始め、帰り支度をした。
清光は手を合わせ、目を瞑り心の中で語りかけた。
(おばあさん、初めまして。初期刀の加州清光。俺の主は頑張ってるよ。主はいつも優しくて自分よりも俺達の事を一番に考えてくれるんだ。昔は色々あったけどちゃんと仕事もこなしてるし、何よりもみんなから愛されてるから、)
「清光ー?行くよー」
「今行くー」
(だから安心して。主はとーっても良い審神者だから。きっとあんたも良い審神者だったんだろうね。あんたが大切に育てた主は何があっても俺達が、
俺が主を守るから。)
よしっと決意を改め、勢い良く立ち上がり審神者の方へ急いだ。
「何話してたの?」
「ん?ちょっとね」
「えー、気になるよ〜」
「だーめ。秘密。」
「もぅ……今日は一緒に来てくれてありがとうね」
「うん。良い報告も出来たし、俺もきて良かったよ。これからさ、一緒に行ってもいいかな?」
「本当に?もちろん!」
「ありがとう。」
2人は歩き始めた。すると肌をくすぐるような追い風が吹き、木の葉や草がささやく様にかさかさと揺れる。
そしてどこからか鈴の音が聞こえ、続いて聞こえた。

約束よ、お願いね

清光は立ち止まり、振り返った。
それは、その声はとても温かく、優しい声だった。
「…清光?どうしたの?」

清光はふっと笑い、小さな声で呟くように言った。

もちろん

再び前を向き、
「ううん。なーんでも。行こっ」
と言い、歩き始めた。
拳を強く握りしめ、心の中で強く誓った。
(必ず主を守り、主と共に歩むよ)
その背中はとても頼もしいものであった。


2人の背中を見て、温かな笑みを浮かべる人影が2人を見守るようにいつまでも見送っていた。

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