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私と太宰治

原作: その他 (原作:文豪ストレイドッグス) 作者: いちご
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私の日常1

 探偵社の事務所がある建物の階段を上る。異能集団・武装探偵社と物騒な名前が書かれたドアの窓からは暖かな光が差している。私はそのドアを開けた。

 「おはようございます」

 そう言ってドアを開けると国木田独歩が此方を向いた。

 「結夢、おはよう。太宰は一緒じゃないのか」
 「太宰さんは私が起きた頃にはもう居ませんでした。依頼がありましたら、私が聞きますが」

 国木田はむむっと顔を顰めた。

 「彼奴は何時も結夢に頼ってばかりで真面目に仕事をする気があるのか。結夢のお陰で私の業務が増えないのは有難いが、しかし、彼奴にもちゃんと出社するようにだな……」
 「そんな事太宰さんに言っても無駄ですよ。やる時はやるし、やる事はやる人なので、普段は適当に流しておいた方が国木田さんの眉間のシワも消えますよ」

 私がちょっと皮肉を言うと国木田はぽかんとした顔をした。

 「御前は太宰に似ているのだな」
 「これでも5年以上の付き合いですからね。ところで、依頼はあるのですか?」

 話を切り替えると国木田の後ろから谷崎が顔を出した。

 「ふふっ。結夢さんのちょっとお茶目なところ、僕は好きですよ。はい、これ。今朝方入った依頼です。内容は資料とまとめて封筒に入ってるから、太宰さんと一緒に行ってきてください」

 谷崎から封筒を受け取り中を確認する。猫の写真を見て封筒を閉じた。

 「太宰さんと猫探しって………まぁいいですけど…平和って、いい事ですよね。行ってきます」

 ニコッと笑って踵を返した。
 太宰さん、猫探ししてくれるかなぁ…。
 ちょっと不安を覚えながらも、猫の前に太宰探しに出かける。
 私が依頼を聞き、太宰を探し、業務を行う。たまに見つからない時は1人で。そうやって太宰にこき使われているうちに太宰は楽しいことに首を突っ込んでいたりする。それに気付いたら、私は太宰を支えるために全力で協力するんだ。
 さて、太宰さんを探しに行こうか。

 探偵社員、御用達の一階のカフェに向かう。毎朝、太宰が出社していないことを確認すると、このカフェにいないかどうかを確認する。特に問題がないときには、このカフェにいることが多い。
 カランカラン、とカフェのドアを開けた。
 
 「お姉さん、よければ僕とこの後入水自殺をしませんか?」
 
 おっかない台詞のナンパが聞こえた。
 そちらを見ると案の定、太宰が女性を口説いていた。
 
 「太宰さん………」
 
 カタカタカタと太宰が持っているコーヒーカップが揺れている。
 
 「ゆ、結夢ちゃん…っ。や、やぁ、どうしたんだね」
 「すみません。社員がご迷惑をおかけしました。先程の妄言、水に流していただけると幸いです。またこのカフェは大変居心地のよい素敵なカフェでありますので、これからもご利用いただけると嬉しく思います。それでは失礼します」
 
 女性に謝罪をし、太宰を連れ去る。謝罪中、女性はちょっと困った顔をしていたが、これからも問題なくカフェを利用してくれると思おう。太宰のせいでここのカフェが売り上げを落としてしまっては申し訳ない。そうなった時は太宰に弁償でもさせよう。
 
 「太宰さん、お店に迷惑なのでカフェの客に心中のお誘いをしないでください。太宰さんのせいで経営不振に陥ったら出禁になってしまいますよ。あと、仕事です。朝、私より早く出かけないでください。私が一緒に出社しますから」
 「えぇー。結夢ちゃんが一緒に心中してくれるならお誘いなんてしないのだけど。経営不振になったら私が人肌脱ぐし、朝は出社しなくても結夢ちゃんが探してくれるからね」
 「入水自殺じゃ私、死ねないですよ。私、泳ぐの得意ですから、太宰さんと手を繋いで川に飛び込んだとしても、泳いで助けますしね。なにより、太宰さんに死んでほしくないですし。とりあえず、今日の依頼は、迷い猫探しです」
 
 太宰に書類を渡す。封筒を開け、猫の写真を取り上げた。
 
 「かわいい猫だねぇ。私、白くてふわふわした猫が好きなのだよ。いいとこ育ち、って感じがしてね」
 「はぁ、早く探しに行きましょう。二手に分かれたいところですが、ちゃんと探してくださいますか?一人で仕事はしたくないのですが」
 
 太宰はちらっとこちらを見て、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
 
 「すぐに見つけて私が結夢ちゃんに休みをあげよう。ちょっと疲れてるみたいだしね」
 
 そう言って太宰さんはカフェの中に戻った。
 結夢は首を傾げて、太宰についていく。
 太宰は先程口説いていた女性の前に座った。
 
 「この猫ちゃんを見たことはないかい?」
 「…あら…?この子、この前拾った私のシャトーちゃんに似ているわ。……飼い猫でしたのね。私の家まで来てくださる?お返しするわ」
 「ありがとうございます。いやぁ、まさか貴方が猫ちゃんを拾っているとは、こんな運命的なことがあるでしょうか?よければこの後…」
 「心中はごめんですわ」

 女性が立ち上がり、会計を済ませると言ってレジへ向かった。私たちは先に外へ出た。
 私は驚いていた。まさかこんなに早く猫が見つかるなんて。迷い猫探しなんて大抵当てのない聞き込みをして結局聞き込みなんて関係なく不意に見つかるものだ。太宰は女性が猫を飼っていると気付いていたのだろうか。

 「太宰さん、女性に話しかけたのはさすがにたまたまですよね?なんで女性が迷い猫を飼っているとわかったんですか?」
 「ふふ、結夢ちゃん。捜査では観察が最も重要だ。周りをよく観察することで思ったよりも多くの情報が得られる。どれだけ気付けるか、ということが重要だ」

 太宰が私に説明をし始めようとしたところで女性が会計を終えて、カフェから出てきた。

 「それじゃあ行きましょうか」
 
 私たちは女性の家に向かった。
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