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アンジュ・ヴィエルジュ ~Another Story~

原作: その他 (原作:アンジュ・ヴィエルジュ) 作者: adachi
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第16話 翠緑と群青の追憶⑤

 ゼンジとライゴは、同年配、同学年の高等部1年生である。しかし、αドライバーとしての経験では、ライゴの方が3年の格差を有している。
 これにはプログレスとαドライバー共通の特性が大きく関わっている。基本的に力に覚醒するのは、プログレスでは10代の少女。アルドラでは男女を含めた10代の若者たちであり、10代後半に成長するに従って最盛期を迎え、そこから徐々に力は下降していき、20代後半にはほとんど無くなるのが常である。
 力に目覚める時期には個人差があり、本人の素質に大きく左右される。小等部の頃からエクシードやリンクを使える者もいれば、ゼンジや遥のように高等部になって覚醒するという場合もある。
 ここに、ゼンジとライゴとの経験の差が生まれている。ライゴは地元の小学校卒業直後にαドライバーとしての力に目覚め、青蘭学園中等部に入学し、アルドラとしての訓練を受けてきた。世界の危機より自分の趣味を優先させる性格に反して、成績は優秀であった。
 ゼンジは今、焦慮を抱いていた。今回の異変での活躍次第に、遥とテオドーチェ、アクエリアの風紀委員での進退が懸かっているのだ。もし、遥がゼンジを勧誘することなどなかったら、ここまでキヌエたちとの摩擦が深刻化することもなかったのではないか、と思うと、遥たちに対して罪悪とは言わぬまでも、後ろめたい気持がないわけではない。そんな心境を、一瞬でも遥たちに悟られるような素振りを見せるゼンジではないが。
 先日の戦闘で力不足を痛感した。ゼンジは教えを乞える先達者を求めていたのだ。学園で受ける訓練や授業では得られないものを得るために。学園に来て日の浅いゼンジには高学年のアルドラに顔見知りはいなかった。なので、手近にあったもので我慢するしかないのだ。背に腹は代えられないと自身に言い聞かせ、行動に出た。
「さて、まずは何から始めるか。どうせ基礎となることは普段の訓練で受けているからな。お前はそんなことを望んではいないだろう。フーム、ではゼンジよ。お前はリンクする時、どういう感覚でリンクしている?」
 質問の意図が了解しかねた。詳しく説明を求めると、プログレスとの間にリンクを接続する瞬間に感じる感覚的なことを聞いているようであった。抽象的でもいいから言葉にして説明してみてくれと言われた。
「そうだな。ん~、リンクが繋がった瞬間は、俺と相手との歯車が噛み合ったって感じか。そしてその後に、見えない細い通路が相手との間に通って、その通路を介して力を流したり、ダメージが流れ込んだりする感じか」
「フーム、なるほど。通路か。面白いな」
「お前は違うのか?」
「この時の表現は人によって様々あってな。お前と同じ歯車が噛み合ったという奴もいるし、ラジオの周波数が一致した感じだという奴もいる。乗馬した時、馬と一体になった感じ、あれと同じだと言う奴もいたな」
「馬ね。いいよね。乗ったことないけど」
「問題はその後、お前が通路が通ったと表現したところは、ほとんどが似通ったことを言うんだ。糸で繋がれたとか、トンネルが通ったとかな。この紐帯したものが何なのかということは、科学的に実証されていない未知の部分だ。教師たちや科学者が言うには、エクストラ・エネルギーの往復運動がそう感じさせるのではないか、とか言っていたな」
「エクストラね。いいよね。食ったことないけど」
「その仮説が正しいと仮定すれば、αドライバーの力を高めるには、エクストラ・エネルギーの運動効率を上げるようにすればいいわけだ」
「なるほど、で、どうやるんだ」
「わからん」
「何だと?」
「わからん」
「マジか」
「マジだ」
 ゼンジは片方の眉根を下げ、片方の眉根を上げ、口を丸く開いた。ライゴは不動の表情でいるままである。そのまま5秒が経過した。ライゴが縫い付けたような口を開いた。
「そもそも、エクストラ・エネルギーとは何だ」
 ゼンジは顎に手を当て、目を瞑り、授業で説明されたはずの内容を朽ちかけの抽斗から取り出そうと試みる。
「世界を構成するあらゆる原子の……実在と非実在との境界を線引きする際の……その保有量によって変動する……なんたらかんたらだな」
「つまりよくわからんということだ」
「それでいいんかーーい」
「重要なことは1つ。プログレスのエクシードは実在に属し、αドライバーのリンクは非実在に属するということだ。αフィールドの説明は受けたな」
「エクシード・リンクを繋いだ時に発生する、αドライバーを中心にした、リンクを維持できる円形の特殊なフィールドのことだろ」
「要するに有効射程のことだ。フィールドの外に出ればリンクは強制的に切断される。このαフィールドが、エクストラ・エネルギーによる非実在性の拡張現象だ」
「なるほど、わけわからん」
「同じエクストラ・エネルギーでも、その運用方法がプログレスとアルドラで異なるということだけ覚えて置け」
「御意」
「以上のことを踏まえて、いよいよ実践編だ」
「実践だと!? 何も理解してないけど!」
「リンクは理屈ではなく感覚で覚えることだ。数をこなしてコツを自分のものとしろ。道は己で切り開け。さあ行け!」
 こいつに頼んだのはやはり失敗だったか。
 ゼンジは後悔しながらも、最早引き返せないことを悟っていた。ならば、とことん突き進むしかないではないか。
 遥ならきっとそうするだろう。ゼンジは覚悟と諦めの溜息を長く吐いた。
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