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アンジュ・ヴィエルジュ ~Another Story~

原作: その他 (原作:アンジュ・ヴィエルジュ) 作者: adachi
目次

第4話

「そのドラゴンってのはどこ産のドラゴンなんだ? 呼び出すと願いを叶えてくれるやつか? それとも生け贄召喚してでてくるやつか?」
「5つの世界でも、ドラゴンが実在するのは黒の世界〈ダークネス・エンブレイス〉だけのはずだ」
「クラリスさんの言う通りです。おそらく、門が開いたことで黒の世界から青の世界に迷い込んだか、誰かが持ち込んできたか、この2つの仮説が有力かと思われます」
「黒、ね……ダークメ〇フレア撃ってきたりしないよな」
「今のところ攻撃性は見受けられないとのことです」
「ドラゴンって初めて見るなー、どんな姿なの?」
「目撃情報によると、赤い体をしていて、口が2つあるらしい」
「まずいな、サンダー〇ォースの方だったか」
「さっきから何言ってるのだ? ゼンジ」
「気にしたらダメだよテオ」
 風紀委員一行が、目撃情報のあった学園外の森まで来た。青蘭島には青蘭学園の他、学生や島の住民達が住まう住宅街に、ショッピングモール、遊園地などの娯楽施設、各研究機関の研究施設など生活設備から研究設備まで不足なく揃っているが、青蘭島は広い。生活区域として整備された島の反対側には鬱蒼とした原生林が支配する自然が多く生き残っている。
 門が開き、世界が連結してから青蘭島が異変への対策拠点と定められ、急進的な開発が行なわれるまで、この島は全域にわたって豊かな植生に覆われていたのであろう。今でも町外れに行けばその名残を認めることができる。学園側に広がる森もそういった名残の一種であり、緑や自然を好むプログレスたちの憩いの場か、訓練の場、または個人的な気分の発露の場として利用されている。そして時に、他世界から門を通じて入り込んだ生物の隠れ家として。意図的にか、過失によってか。その点も重要な事由である。彼らが忘れなければだが。
「一応、ウロボロスという可能性も捨てきれない。警戒しながら行こう」
「さっすがクラリス! 頼れる先輩だね!」
「私もクラリスさんと同じ1つ上の先輩なのですが、どうでしょうか。遥さん」
「もちろんアクエリアもだよ! 頼りにしてるから!」
「うふふ、ありがとうございます」
「テオだって10万歳を超えているんだぞ! ずっと年上なんだからな! ソンケ―するんだぞ!」
「飴ちゃん食べるか?」
「食べるのだー♪」
(チョロい…)
(チョロいな…)
(チョロいですねー…)

 青蘭島にある研究施設の1つ。青の世界には存在しない技術が整然と無言で並べられている。埃1つなく掃除されているのに、人の手によるものではないであろう潔癖さが感じられるのは、ここが、白の世界〈システム=ホワイト=エグマ〉の管理する施設であるからかもしれない。
 施設の1室に、眼鏡を掛け、白衣を羽織った女性がリラックスチェアに座り、幾何学的数字の羅列を示したタブレットを眺めている。長い黒髪を後頭部で束ね、瞳には深い知性が輝いている。
 白の世界の科学者であり、青蘭学園に所属するプログレスであるDr.ミハイルは、机上に置かれたコーヒーの入ったマグカップに手を伸ばし、口を付けたが、表情からコーヒーの味に満足しているのか否かを読み取るのは、高度なプログラムで構成された顔認証システムをもってしても不可能ではないかと思われる。
 部屋の入口の自動ドアが開き、訪問者を電子臭と微かなコーヒーの香りが先立って歓迎した。
「こんにちは。Dr.ミハイル」
 銀色の髪に赤い瞳──光の角度によっては濃い紫にも見える──の訪問者の挨拶には親し気な雰囲気がこもっている。
「やあ、ユーフィリア」
 応えるDr.ミハイルの声色も同様なものであったから、この2人にはそれなりに親交があるようである。
 彼女のことは、誰もがDr.ミハイルと呼ぶ。やあミハイル、とか、どうもミハイルさん、ではなく、Dr.ミハイルである。彼女自身もそう名乗っており、いつからそう呼ぶようになったのか、誰も知らないし、疑問にも思わない。Dr.ミハイルというのは、彼女を示す最も正当で的確な言葉であると、初めて耳にした者でも納得させる不思議な力があった。その一端には、Dr.ミハイルの英知に富んだ静かな物腰と、白の世界でも指折りの天才科学者であるという肩書が、見た者に無意識の首肯を促すのだろう。
 Dr.ミハイルは、見た目や性格がそうであるように、正面切ってウロボロスと戦う肉弾派タイプではない。後方で作戦を指揮する参謀タイプである。ウロボロスの襲撃の際には、作戦の立案から指揮までを一任されることもあり、彼女の頭の内側が尋常ではないという証左を、実績によって周囲に知らしめてきている。そういった立場上、彼女は様々なプログレスたちと連携を取り、その顔は広く知られている。
 また、彼女が青蘭学園にいる最も緊要かつ荊棘な理由として、世界で散発的に発生する異変の真因を解明するという重責を背負っている。
 この世界全体の命題には、5つの世界それぞれの智者たちが全力を傾けて解明に奔走している。なぜ世界は突如として連結したのか。ウロボロスはどこから来るのか。世界崩壊の危機は、旧態依然のまま平行線を保ち続けている。蜘蛛の糸の上の、絶妙なバランスで。
「計算結果が出たのですか?」
 ユーフィリアが側に近寄り、尋ねた。
「ああ、まだ憶測の域は脱していないが、可能性としては切り捨てられない憶測だ」
 Dr.ミハイルはタブレットから眼を上げ、平然と言った。
「あと4年、早くて3年後には、5つの世界が崩壊する」
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