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仲間・親友・それから…

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: 久宮
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第7話

着替えを済ませ、花巻は部屋に戻る。すでに、ほとんどのメンバーは布団に入っていた。
(あれ?いない…)
眠いと言って、先に戻った松川の姿はそこにはなかった。
(トイレでも行ってんのか)
部屋中を見回しながら、寝る準備を始める。
(…しまった)
部屋に戻る前に、お茶を買ってこようと思っていたが、すっかり忘れていた事を思いだした。夜中に目が覚めた時にのどが渇いて買いに行くより、今行ってきた方が楽だと思い、立ち上がる。部屋を出て、自販機に向かう途中にトイレがあるが、そこは電気が消えていた。
(ん?トイレじゃないのか)
部屋にいなかった松川の事を気にしながら、そのまま自販機に向かった。

「こんなとこにいたのかよ」
合宿所のそとのベンチに腰かけている松川を見つけた。
「どーしたの」
声のする方に顔を向け、返事をする。
「ん」
花巻は、ホットミルクティの缶を、松川に向かって抛る。それをキャッチした松川。
「俺、歯磨いちゃったんだけど」
「寝る前に磨けば問題なし」
そう言いながら、花巻自身は糖は入っていないお茶のペットボトルを開ける。
「ありがとね。ってか、こんな事にいたら、湯冷めするよ」
松川はプルトップを開けながら、花巻に話しかける。
「俺より長くここに座ってるやつに言われたくないわ」
「そりゃそーか」
そう言って笑う松川の顔が、なんだかいつもと違う様な気がしてた。
花巻には気になる事があった。しばらく聞こうか聞くまいか考えていた。しばらく、無言でベンチに並んで座っていたが、まだ合宿は始まったばかりだし、これから全国に向けて共に戦っていくのに、このまま変な遠慮をしたままなのは、花巻的に嫌なものだった。
「あのさ…」
花巻はなるべくいつもの調子で話せるように意識しながら、話しかける。
「なんかあった?」
「え?」
その質問に、松川は花巻の顔を見る。
「いや、風呂のときから、何か変じゃね?」
自分が風呂で話をした時から、松川の様子が気になった仕方なかった。
「俺、何か変な事言ったのかと思って…。だとしたら、ちゃんと聞いて、謝らなきゃいけない事なら謝りたいし」
松川の顔を見ながら、花巻は話す。
「いや、特に何もないよ」
さらっと松川が答えるが、それでも花巻は松川の方を見たままでいる。じっと見られている事に耐えられなくなった松川は、
「ホントに何もないって」
と言いながら、ベンチから立ち上がろうとする。が、花巻はそこで引き下がらなかった。
「何か俺には言えない事?やっぱ、俺が何かしたんじゃねーの」
松川は花巻を見下ろしながら、小さくため息をつく。そして、再びベンチに座り直す。
「ホントになんでもないよ。別に花巻が何か言ったとかもないし」
「ホントに」
「うん。ただ、ちょっと俺の問題で」
松川は花巻から顔を逸らし、遠くを見ながら言う。
「だから、花巻が気にすることないし。大丈夫だよ」
花巻は松川の顔を見たまま
「ホントだな」
と念押しをする。
「うん。そんなに疑わなくて平気だって」
「分かった」
「うん。だから、明日から朝練もあるんだし、先に戻って寝てて平気だよ」
今度は花巻の顔を見ながら、松川が言う。
「リョーカイ。松川も早めに寝ろよ」
花巻が立ち上がる。
「うん。おやすみ」
松川が花巻の背中に声をかける。そして、花巻は歩きながら手を振った。

一人になった松川は、またため息をつく。何をするわけでもなく、なんとなくベンチに座ったまま動こうとしない。時々、花巻が奢ってくれたミルクティをゆっくりと飲む。
「今度は誰?」
ぼーっと空を見上げていると、誰かが近づいてくるのが分かった。
「俺だ」
その声は岩泉のものだった。
「まさかの岩泉。てっきり、来るなら及川かと思ってたよ」
「そうか」
「うん」
短い会話をしながら、岩泉は松川の隣に座る。
「来たの、よくわかったな…ってか、お前なら気付くか」
「なにそれ」
「よく周りの事見えてるだろ、いつも」
岩泉が少し笑いながら言う。
「なんか、悪い顔にみえるぞ」
思わず松川がつっこむ。
「で、何か分かったか」
岩泉の言葉に、松川が目を見張る。
「なにそれ」
さっきと同じ言葉を松川は言う。
「そのまんまの意味」
「何か分かった…なの。何かあったとかじゃなくて」
岩泉は何も言わずに、じっと松川の顔を見ている。松川も、そのまま岩泉の方を見たままでいる。
はぁ…と、今日何度目かになるため息を、松川はつく。そして、岩泉から目線を外し、空を見上げる。
「…分かっちゃってよかったのかなぁ」
松川は独り言のように、そうつぶやく。
「分かっちゃったんだろ」
「…分かっちゃったっぽいよねぇ」
二人は目線を合わせないまま、話をする。
「分かったなら、ウダウダ考えてる必要はねーんじゃねーの」
岩泉が言うが、松川はまだ素直に頷けないでいる。
「でもさ、それって俺が分かんなかったら、今まで通りだったわけじゃん。それを…」
松川の言葉を岩泉が遮る。
「でもじゃねーよ。分かる前から、お前は気付いてだんだろ。もう気付いた時点で、戻れねーんだよ」
「………」
岩泉の言葉に、思わず松川は黙り込む。
「あの時は『なんでだろう』って思ってたんだろうけど、もうその時にはお前自身が気付いてだんだよ」
岩泉の言う『あの時』とは、松川が岩泉と二人で帰った時の事を指しているのだと、松川はすぐに分かった。
「お前って、周りの事はちゃんと見えてるのに、自分の事はあんま見えてないのな」
岩泉は、また笑いながら言う。
「そーなのかねぇ」
松川はその言葉に対する、肯定でも否定でもない返事をした。
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