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ゴルゴ13の休暇

原作: その他 (原作:ゴルゴ13) 作者: paranto
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第七話


深夜の波止場はいつになく忙しかった。
おんぼろ漁船がいくつか停泊するさなかにひときわ大型の貨物船が停泊している。
貨物船には波止場の光が集められタラップからひっきりなしに男たちが乗り降りしている。
船側のタラップそばにはあごひげのある目付きの悪い男が葉巻を咥えながら出入りを監視していた。
そばの樽の上には突撃銃が無造作に放り出してある。

二人で細長い箱を重たげに運んでくる男。
「気をつけろよ。その箱だけで10万ドルの値打ちがあるんだ」
監視役のあごひげが声をかける。
「分かってますって」
ハンチングにうらぶれた作業着の男が応えた。
船からやや離れて、ベンツのそばに背広姿のクリスが運び込みの様子を見守っている。
そばに頭をつるつるに剃り上げたプロレスラーのような体格の男が控えていた。
腕時計に目をやって舌打ちするクリス。
「ルカ、残りが遅じゃねえか」
「明日、夕方です」
「なぜ遅れた」
「ブラジルの沿岸警備隊の手入れがあったんですよ。だから航路を迂回して二日遅れるそうです」
「ちっ、こんな時に限って」
クリスは唾を吐き捨てた。
「今回は取引だけじゃねえ。ブツよりデカい捕物があるんだよ」
禿げ頭が笑みを見せる。
「聞いてますよ。とんだ大物じゃねえですか。ゴルゴなんて。でも下手したらこっちも返り討ちだ」
「だから連中の応援がほしい」
「武器も人も足りないんですか?」
「念を入れてんだよ。十年前はそれでうちらは殺られたんだ。あいつ一人にファミリーがめちゃくちゃにされた」
「へえ……やっぱ並じゃありませんね」
ルカは自分の禿げ頭をなでる。
「だから念には念をいれないといけねえ。武器と人をそろえて一気に行く。明日そっちのファミリーがきたら総がかりだ」
腕を組んで考えているルカ
「数があると勝てるってもんでもないですぜ」
「……そりゃそうだが」
「兄貴は真正面からいこうとしてるんですよ。それじゃゴルゴの思うつぼですぜ。あいつは一人では軍隊の一個小隊だって潰せる」
「じゃあどうしろって言うんだ」
親指で禿げは後ろを指す。
「馬鹿正直に攻めることはねえ。奇襲をくらわしゃいいんです」
「……暗殺か」
「効くところによるとゴルゴはマジで休暇に来てんでしょう? ハジキもろくに無いと。こんなチャンスないですよ」
「……そうだが」
「島なら警察にも顔が利くでしょう。大陸の方でやったらまずいことになる。でもこっちならちょっとした騒動ぐらい起こしてもなんとでもなります」
クリスは目を足元に落として返事をしない。
「奴は丸腰に近い。余計なくちばしをはさんでくるポリもいない。こんなチャンスめったにないでしょう?」
「…………」
「街中でもどこでもいい。奴のお株を奪うんですよ。奇襲かましてやるんです」
「…………ああ」

クリスはじっと考えていた。
血走った目は一心に街の宿の方角に向けられていた。

轟音と同時に空の黒い影はきりきり舞して地上に落下した。
ゴルゴの後ろからガイドが歓声をあげる。
「信じられないよ! あんた、いったい何者なんだい?」
ガイドの手にはすでにぐったりしたリョコウキジが握られ、傍らの地面にも数匹の鳥が並べられている。
口笛を吹いてガイドは新たな一匹をその列に加えた。
「お世辞じゃないよ、セニョール。猟が趣味ってやつはいくらでもいたけどさ、あんたは違う。こんな凄腕の奴見たことない。なんだかほんとに“プロ”って気がするよ」
表情を変えずにガイドの言葉を聞き流しているゴルゴ。じっと銃を見つめる。
「銃がいい」
「えっ?」
「ヘビーな銃器だが、慣れればこれほど頼もしいのはない」
「そうかい」
ガイドは笑った。
「それ、市販の銃じゃないね。キチガイじいさんのところのだろ?」
「……ああ。あの店主のお手製のだ。こっちの腕を気に入って貸してくれた」
ゴルゴは唇の端に少しだけ笑みを浮かべた。

耳をつんざく轟音と立て続けの銃撃で鳥の姿はまばらになってきている。
空をすかすと森の離れにわずかに数羽のツグミらしき姿が見え隠れしている。
ゴルゴは海の彼方に霞むワタリドリの群れに目をやった。
「鳥を撃つ時と人を相手にする時の違いが分かるか」
「えっ」
ガイドは目を白黒させて言葉の意味を図りかねている。
「……どういうことだい」
「あの爺さんなら分かるだろうな」
いぶかしげにガイドは首を振る。
「人を撃つ時…… あんた軍隊にでもいたんだな」
「…………」
銃身をガイドに見せてゴルゴはつぶやく。
「鳥は反撃してこない」
「…………?」
「まれにハゲタカみたいにヒトの腐肉を狙う鳥はいる。だがな、果敢に反撃してくる鳥はマレだ」
「そりゃそうだろうけど……」
「巣の雛を守ろうとする鳥もいるが、それは話が違う」
ゴルゴはポンポンと銃身を叩いて空に目をやる。
「どんな荒っぽい鳥でもこちらが同じ目に合うリスクは考えなくていい。これほどラクな射撃はない」
「…………」
ゴルゴの話にガイドは唖然としている。
「なんかさ、あんた普通の人と感性が違うね。ついていけないや」
ガイドは頭を振った。

新たな獲物をきちんと並べ直すとガイドは振り返る。
「どうする? まだやるかね? 鳥はね、町のレストランに頼めばサバいて旨い料理を作ってくる」
「……あと一羽で終わろう」
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