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ゴルゴ13の休暇

原作: その他 (原作:ゴルゴ13) 作者: paranto
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第四話

主人が歩くたびにコツ、コツと金属製の音が響いた。

独特の身体の運びからズボンの下は義足なのが分かる。
古びた海軍帽のようなものをかぶり、上半身をひょこひょこと動かす。黒光りする左手も義手であると理解できた。
顔の下半分は白いひげに包まれその間からタバコ焼けした地肌が見えている。くすんだ緑色の軍服のような上着からはウィスキーの携帯ボトルがのぞいていた。

ゴルゴのそばにやってくると足を止めてじっくりとゴルゴを眺める。
「島の人じゃないな」
「……銃の看板が見えた」
「ああ。猟銃の貸し出しをしてるよ。ここは小さな島だけど山の方はキジのデカいのがいる」
足ををひきずるようにしてゴルゴに合図する。
「こっちに来とくれ。銃を見せよう」
店の中に戻るとショーケースからいくつか銃を取り出してくる。
「これはどうだい?」
一丁の調子を確かめてゴルゴに手渡す。しげしげと眺めて遊底を引いて確かめるゴルゴ。
「銃を撃った経験はあるのかい?」
「ああ」
言葉少なにゴルゴは頷く。じっとゴルゴの様子を見ていた店主は笑みを漏らす。
「あんた、ただの観光客じゃないな」
「…………」
じっとゴルゴを見据えていた店主は帽子を脱いで頭をかきまわした。
そっとゴルゴの耳元でつぶやく。
「人を撃ったことがあるだろう? どうだ?」
一瞬鋭い目を店主に向けて再びゴルゴは銃に目を落とす。
「あんたには関係ないことだ」
「ははっ、悪かった」
破顔して店主は椅子に腰を下ろして葉巻に火をつけた。
「わしも若い時はビアフラ戦争に従軍しててな、分かるんだよ。戦いを経験してきた男は」
ゴルゴはライフルを明かりにかざした。
「何か改造が施されてるようだが」
「ああ。そっちの方が良くなってるよ。照準も貫通力も。弾丸も特殊装甲をしてる」
ショーケースの上に出された横長の箱には白銀に輝く弾丸が並ぶ。ゴルゴはいくつかを取り出してしげしげと眺めた。
義手をかざすように振りまわして店主は笑みを見せる。
「戦争でこんな身体になっちまったけどな。わしも機械いじりだけは昔から得意だったんだよ。訓練キャンプでもわしが銃の組み立てが一番早かった」
黄色く染まった歯を見せて煙を吐き出す。
「腕を見込まれてな。工兵隊の士官が銃器のいじり方から何から仕込んでくれた。一度覚えれば楽なもんさ。鉄砲なんてもんはな。片手が動けばなんとかなる。
大学は出てないがわしは軍隊の専門家より銃のことなら詳しい」
猟銃を片手にゴルゴは隅のドアに顎をしゃくった。
「試し射ちしてかまわないかね」
「ああ。好きにしてくれ」
店主は弾丸の入った箱を手渡した。

鼓膜を震わす高音がとどろき、穴が再び穿たれた。
人型の標的の中央には綺麗な穴が一つだけしか姿を見せてない。
一息ついてゴルゴは猟銃から目を離した。背後に立つ店主は茫然として唇の端にだらしなく葉巻をくわえている。
「信じられんな」
頭を振って店主はゴルゴに近づいた。箱の中の弾丸は半分ほどに減っている。
弾と標的を見比べながら店主は興奮したようにゴルゴの腕をつかむ。
「あんた、すごいよ。勲章もらった奴でもここまで腕のあるのはいなかった」
「…………」
ゴルゴは表情を変えずに再び弾丸に手を伸ばしている。
「ちょっと待ってくれ。あんたならあの銃を扱えるかもしれん」
「……?」
店主は裏のドアから出ていくとやがて両手に抱えるようにして一丁の大ぶりのライフルを持ち込んできた。
重そうにライフルをそばの机に置くと、引き出しをあさって黒い細長の箱を取り出した。
「こいつはな、わしが過去何年もかけて改造してきた最高傑作じゃ」
箱のふたが開けられると黒光りする弾丸が整然と並んでいる。
「この銃はな、誰にでも撃てるもんじゃない。銃の方が射ち手を選ぶんだ」
重そうにライフルを取り上げ得てゴルゴに渡す。その重量に顔をしかめるゴルゴ。
「面白いもんが見れるぜ」
身体をはねるように歩くと目の前の射的場に鉄板の立った荷台を引きずってくる。ゴルゴのいるレーン上で止めるとしゃがみこんで車輪を固定した。
鉄板を四、五枚等間隔で並べる。
「的は同じだ。でも途中がちがう」
ぽんぽんと鉄板をたたいて見せる。
「普通のライフルならな、途中で止まる。弾丸だってひしゃげちまう。でもなわしの腕によりをかけて改造してやた」
義足をひきずりながら戻ってきて弾丸を取り上げる。
「弾丸や火薬だけ強めても本体の方が持たない。だからそっちも強化してあるんだよ」
ゴルゴが胸元に持つライフルにあごをしゃくる。
「そのライフルは世界一威力あるよ。パワーも貫通力も。その分反動もすごいがね」
黄ばんだ歯をみせて意地悪く笑う。
「アフリカで傭兵稼業やってきたって2メートル近いゴリラみたいなやつが前に来たんだがね、そいつは引き金引いた瞬間後ろに吹っ飛んだよ。生半可な奴じゃ銃に負けちまう」
ぽんぽんと店主は万力をたたいて見せる。
「わしも試し射ちをするときはこれを使っとるぐらいでね」
「…………」
胸に抱えたライフルにゴルゴは黙って目を落とす。
「どうだい、使ってみるかね?」
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