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ゴルゴ13の休暇

原作: その他 (原作:ゴルゴ13) 作者: paranto
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第二話

「ねえ、おじさんお花買ってよ」
ターミナルの入り口近くでゴルゴはそばかす顔の少年にアプローチされた。
金髪を短く刈り上げているが身体つきは華奢で幼い。無言のままゴルゴは立ち止まる。

少年の差し出す花は四方に開いた花びらの真ん中に筒のような長い花弁が立つ珍しい品種だった。
黙って花を見やるゴルゴに少年はすかさず花束をかざして見せる。
「これ初めて見るでしょ。エストラーダ島にしかない花だって。この前植物調査に来た大学の先生が言ってたもん」
「……何て花だ?」
「オラム。壺って意味なんだって。ほら」
花弁に指をいれて振った。人差し指がすっぽりおさまっている。花を手に取って眺めるゴルゴ。
「ドルでもいいのか」
「もちろん」
 ゴルゴは札を少年に握らす。少年は目を丸くした。
「こんなに! ありがと。これ付けてあげるね」
さらに少年は茎の短い一輪を取り出してゴルゴのジャケットのボタン穴に入れた。
出口に歩いていくゴルゴを追いかける少年。「おじさん、今日はお仕事? それとも山で植物採集でもするの?」
「ただの休暇だ」
「そうなんだ。ねえお花買ってくれたしさ、暇だったら家によってよ。ママがスッパゲティご馳走するから」
「……考えておこう」

少年は紙にペンを走らせて家の地図を描いてゴルゴに渡す。
「ここの町のはずれがうちだから」
ゴルゴはかすかに頷く。
「じゃ、またね」
少年は元気よく手を振る。
見送られながらゴルゴはターミナルの出口に向かった。

タクシーを降りてターミナルに向かっていたバルーゾはぎょっとして立ち止った。
慌てふためいて柱の陰に身をひそめる。
とんがったあごひげを生やし、肩幅は大きいが目付きがひどく悪い。
右あごの辺りにひどい切り傷があり、ひげはそれを隠すためにもあるようだった。

ゴルゴは表情無く入口から歩み出てタクシーに身体を入れている。
「あいつは……」
柱の陰から視線を送る。額に汗が噴き出ている。
「間違いない。ゴルゴだ。なぜあいつがここに……」
ゴルゴを乗せたタクシーが消えるとバルーゾはパニックになったように公衆電話の受話器を取り上げた。                       
◆                        
サングラスにダークスーツに身を包んだクリスは、興奮を抑えきれずに拳をたたきつけた。
机から灰皿が飛んで床に中身が散らばったが、気にする者はいない。
「間違いないのか?」
「俺が見間違えるわけないでしょう、十年前あいつに殺されかけたんですぜ」
バルーゾは目に見えて怯えていた。クリスは厚い胸板を震わせて息を吐き、拳の甲を噛んだ。小刻みに震える拳が内心の動揺を現わしている。
「なぜだ? なぜこんなちっぽけな島に来やがる?」
「分かりません。港の仲間に探らせると休暇で来たって言ったらしいです」
「ケッ、カタギの家族持ちじゃあるまいし」
クリスは吐き捨てるように顔をゆがめる。
「マジらしいです。調べた分じゃ武器も持ってなくて。仕事はブラジルで済ませたと」
 クリスは忙しなく机の前を歩き回り、落ち着こうとするのかのように大きく葉巻をとりあげる。火はつけたもののそのまま握りしめたままで口に運ばない。
いらだったようにソファに身を投げ出す。
「まさか……俺らを狙いに来たんじゃないだろうな」
「さすがにそれはないでしょう……」
当惑したようにバルーゾは答えた。
「明日の夜はPCCのファミリーとブツの取引があるだろう? それを狙って」
「そんなケチな取引のために来ますかね? 奴は警察でもなんでもねえ。
あくまで金でデカいターゲットやるだけです。ビックビジネスしかやらねえ男だ」
「そうだが……」
額に汗を浮かべて葉巻を口に運ぶクリス。小刻みに葉巻の先が揺れている。
「……これが十年前なら俺らも狙われて仕方ねえですが」
 頷いてクリスは拳を握りしめる。
「あいつさえいなかったらニカアグラまで俺らのシマだったんだ」
「間違いないです」
バルーゾも口惜し気な表情を浮かべる。
「大統領、警察長官、軍の将軍、全部俺らの言いなりだった。センデソ・ルミノソだろうが米軍だろうが俺らには手出しできなかった」
「叔父貴さんはまるで王様でしたよ。それが……」
「奴一人。奴一人にめぼしい連中全部殺られたんだ。今じゃファミリーは滅茶苦茶で田舎のポリにびくびくしながらしけた商売……情けねえもんだ」
 唇をかみしめてクリスはソファの腕を殴りつける。
 隅に控えていた若い男がおずおずと尋ねる。
「ガンビーノ一家かどこかがゴルゴを使ったんですか?」
クリスはいまいましげに首を振った。
「違う。ファミリー同士の争いならあそこまで徹底的にやらねえよ」
クリスのサングラスの奥の目が凶暴な光を放つ。
「ニカアグラの若い政治家だったな。ロヨラとか言う。親戚がサトウキビをアメリカに売ってやがって金だけはあった。
マフィアを国に入れるな、浄化するんだって綺麗ごとぬかしやがって。叔父貴が何人か裁判官や政治家も殺ってやったのが良くなかったんだ。
まともにやったら勝てねえもんで実力行使してきやがったのさ」
いまいましげにクリスは吐き捨てた。
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