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そとづら

ジャンル: その他 作者: 久宮
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第6話

「こっちには慣れました?」
料理が運ばれてくる間、先に佐々木の注文した肴をパクつきながら、茂森は林に話しかける。
「だいぶ営業所には慣れたよ。仕事の内容も、本社でやっていたのと大きく変わったわけでもないしな」
林は、ビールを片手に話す。
「林さんて、話しやすい感じしますよね」
「どういう意味で?」
茂森が言った言葉に、笑顔で返す。
「そーゆーところですよ。いつも笑顔だし、質問とか報告とかあるときも、ちゃんと話聞いてくれそうだし」
「お前部署違うのに、よく分かってるな」
茂森の言葉に、佐々木はうなずきながら言った。
「そんな事ないだろ。結構、きついことも言ってると思うぞ。なぁ佐々木」
林はまた笑顔のまま、佐々木に同意をもとめた。
「いや、きついことというか、仕事の件は当たり前のことですし。でも、茂森の言う通り、報連相はやりやすいですよ」
「………」
佐々木が話した後、林は黙って佐々木をじっと見ている。
(ん?俺何か変な事でも言ったか…)
さっき自分の言った言葉に、何か失礼があったのかと思案する。
「あのさ、佐々木」
「はい」
林に呼ばれ、身体ごと林の方を向く。
「今は仕事じゃないんだし、そんなかたっ苦しい物言いじゃなくてもいいんだけど」
「はい?」
「なんか、仕事の延長みたいで、好きじゃないんだよね」
「はぁ…」
「茂森さんと話してる時みたいな口調で構わないし」
(急に何言ってんだ、この人)
佐々木は思った。
「いや、そうは言っても、林さんは上司なわけですし…」
「まぁ、そうなんだけどさ。ってゆうか、茂森さんと佐々木って、仲がいいんだね」
さっきまで佐々木に話しかけていたのに、くるっと茂森の方を向いて話し始める。
「私たち、同期なんですよ」
「そうなんだ。佐々木がこんなにザクザク話すの初めてみたから。もう同期は二人だけ?」
(なんだ、ザクザクって)
そんな表現されたのは初めてで、佐々木は意味が分からないといった顔で、二人のやり取りを聞いている。
「林さんとこだったら、柏木くんも同期です」
異動や退社などで、今の営業所にはもう数人しか同期はいないという事を、佐々木が付け加えて話す。
「まぁ、なんだかんだで、年々減っていくよな。俺の同期ももうほとんどいないしな」
「仕事は向き不向きもありますから、仕方ないんでしょうね」
そんな事を話していると、急に林が
「佐々木って、茂森さんにはなんか普通に接してるよね。柏木と話してる時となんか違う」
と、また佐々木の話かたについて言い始めた。
「俺の事は別にいいじゃないですか」
佐々木がそういうと、
「私と佐々木は同期ってだけじゃなくて…」
と、口をはさんだ。
「お前、余計なことは言わなくていいから」
佐々木は茂森に言うが、「別にいいじゃない」と、茂森に一言で返される。
「何、二人付き合ってるの?」
茂森が話すより、先に林が聞いてくる。
「昔です。元彼・元カノです」
茂森がさらっと答える。
「そうなんだ。なんか、こう言うのも変だけど、嫌じゃないの?職場一緒とか…」
さらに林が聞く。
「別れてすぐのころとかは、本当は嫌で仕方なかったですよ」
笑いながら話す茂森を止めることをあきらめた佐々木は、いつもの焼酎ロックを注文する。
「すごい裏切られたし」
茂森は、佐々木の方をじっと見ながら話すが、これも毎回の事なので佐々木は気にしていない。
「でも、まぁ、今ではいい友達みたいなもんですね」
茂森が言い終わると、
「友達みたいって。友達じゃないんだ」
と、林が笑う。そして、
「まぁこの顔じゃ、浮気の一つや二つしててもおかしくないよな」
と、佐々木を見ながら、さらに笑う。おそらく、茂森が言った『裏切り』を、浮気ととらえたのだろう。茂森が、佐々木がゲイであることをばらすはずはないと分かっていても、内心ヒヤヒヤしていた。
「でも、佐々木もちゃんとそーゆーこともあるんだな」
林の言っていることが分からず、首をかしげる。
「ほら。柏木から合コンの誘いを受けてても、全く興味なさそうだったから」
確かに、柏木からの誘いは毎回断っているが、まさかその事を知っているとは思っていなかった佐々木は、正直びっくりした。
(よく周りの事みてんだな…)
内心そう思ったが、特に口にはしなかった。
「あー、佐々木って合コン嫌いなんですよね」
と、茂森は適当な相槌を打つ。
「合コンが嫌いというか、あーゆー会って、がやがやうるさいじゃないですか」
と、佐々木も茂森の言葉にのる。
「そーゆーもんかねぇ。若いやつもいろいろいるよな」
と言いながら、林は残りのビールを飲む。
「そんない年変わらないじゃないですか」
佐々木はそう言いながら、酒の記載してあるお品書きを林に渡す。
「5歳以上変わると、いろいろ違うもんだろ」
そう言いながら、お品書きを受けとった。
「明日は休みだし、今日は飲みましょー」
と、茂森がテンション高く言う。
「そうだな。なんか久々に楽しい酒が飲めてるし、今日は飲むか」
と、林が続く。そして林は店員を呼び、日本酒の銘柄を伝える。
「お前帰り電車なんだから、ほどほどにしとけよ」
佐々木は茂森にくぎを刺しておくが、「大丈夫よ」と軽くあしらわれた。

三人でいろいろ話しながら飲んでいると、気が付くと、終電の時間が近くなってきていた。
「じゃ、今日はこの辺にしておこう」
「楽しかった。林さん、また一緒に飲みましょうね」
茂森はそう言いながら、席を立つ。
「ごちそう様」
口々に、店にお礼を言いながら、店を出る。
「佐々木はこの後どうするんだ?」
林から聞かれると
「駅まで、こいつを送ってから、そのままタクシーで帰るつもりです」
と答えた。
「じゃ、俺もそうしようかな」
林がそういうと、三人で駅まで歩き始めた。
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