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一期一会

原作: ポケットモンスター 作者: mqw
目次

クリファとむー

「きゃーーー、クリファ様ーーーー」

 キュートなガールたちの歓声が沸き起こったわ。
 あたしがかわいさ部門のコンテストに出場する時はいつもそう。
 他の出場者がかわいそうね。

 でも仕方ないわ。
 あたしとむーちゃんは連戦連勝。マスターランクのコンテストでさえ、負けたことは一度もないんだもの。

「ん~~むーちゃん! サクリファイス!!」

 ボールから可憐に飛び出すむーちゃん。小柄ながら気品さえ感じさせる姿に、また会場はひと沸き。ピンク色に染まった顔で上目遣いまでして見せるのだから、ずるいわね。
 今日のコーデはシンプルに蝶ネクタイのみ。むーちゃんは変に飾り付けるよりも、ありのままの姿が一番。

「エントリーナンバー2番、クリファ様のポケモンはムチュールのむーだああ! 相変わらずキュートだ!」

 角刈りの審査員が声高に叫ぶ。
 あなた、いつも思うけどその髪型はどうなのかしら。

「キュートじゃないわ。サクリファイスなの」

「そしてこちらも相変わらず意味が分からない!! しかしそれもいい!」

 ふふふ、あなたにもいつか分かるわ。
 見た目審査でむーは当然一位の評価。当然ね。
 桃色の腰を軽く振ってターンなんてしてみせるものだから、観客も審査員もイチ殺よ。

 かくいうあたしも負けてないわ。
 今日のために新調した深紅のドレスがみんなの目を引き付ける。
 さらにいつもよりメイクのノリも良かったから、男も女も瞬殺ね。

「続いては技審査です! 一人一回ずつ。技の披露をお願いします!」
 来たわね。
 あたしたちが出す技はいつも一緒。
 それじゃ飽きられる? いいえ。
 技は同じでも、技が見せる、いえ魅せる美しさはいつも違う。
 
 白く光るスポットライトがあたしたちを照らす。
 会場のすべての目線が、むーちゃんに集中した。
 悪いけど、他の参加者の存在感はないわね。空気よ。
 いえ、あなたたちもむーちゃんに夢中ね。

「いくわよ」

 あたしが囁いたその時、なんとむーちゃんから眩いばかりの光が溢れ出した。

「今日のむーちゃんはいつもよりサクリファイスね! ヤル気十分ってわけ」

 いいわ。
 そのヤル気、解き放って頂戴。

「むーちゃん、天使のキッス!!」

 その瞬間、むーちゃんの白く光る体が大きく膨らみ始める。
 会場中が、その姿に目を奪われた。

 だんだん大きくなり、そして二倍ほどの大きさになったとき、肥大をやめ、光が収まった。
 そこにいたのは、あたしと同じ赤いドレスを身にまとった、金髪のポケモンだった。
 桃色の肌は、少しくすみ、小豆色になっている。
 小柄だったその肢体は、丸みを帯びたボディに。
 静まり返る会場。

「こ、これは」

 審査員も言葉が出ない。

 その中でむーちゃんは静かに腕を上げ、唇に手を当てた。

「むーちゃん! やっちゃって」

 あたしは高鳴る鼓動のまま、そう叫んだ。
 むーちゃんの手が、観客に向けて放たれた。

 静寂。

 いつもなら割れんばかりの歓声と拍手が響き渡る会場は、衣擦れさえ聞こえない、無音の空間になっていた。

「ふふふ」

 あたしは口の中で小さく笑った。
 そうよね、仕方ないわよね。
 だって、全然かわいくないんだもの。
 小さくてキュートだったむーちゃんは、大きく、迫力のある姿になってしまった。
 これでは、かわいさ部門で勝つのはとても難しい。いえ、無理と言ってもいいわね。

「こ、これは悪魔のキッス」

 審査員がノコッチを見つけたみたい目で、こちらを見てくる。

 ええ、たしかに今のキスはとっても悪魔的。
 天使のようだった依然のキスとは、正反対だったわね。

 「つ、続いての審査は」

 審査員は茫然としながらも、コンテストほ進行を続ける。
 あたしとむーちゃんはその後、一度も会場を沸かせることなく、むしろ凍り付かせながら、審査がすべて終了した。

「今回の優勝者は。なんと!! 無敗の帝王クリファを破り、初優勝だあ!
 カイランとメルト! 優勝は君たちだ!」

 そして、あたし以外の出場者の優勝という形で、コンテストは終わった。
 ふふ、負けたのはいつぶりかしらね。
 コンテストが終わると、ジャーナリストや記者たちからのインタビューだ。
 彼らが集まるのはカイランと、そして劇的な敗北をしたあたし。

「むーちゃんが進化してしまったようですが、初めて見るそのポケモンは、その、なんといいますか」

 ジャーナリストが控えめに質問してくる。
 いつもは強気なジャーナリストなのに、あたしに遠慮してなのか、覇気がないわね。

「ええ、そうね」

「はい、あまりかわいくはないですよね」

「ええ、かわいくはないわね」

「はい」

「とってもサクリファイスよ!!」

「え? それはどういう」

 やだ、興奮は内に秘めておこうと思っていたのに。

「むーちゃんが、こんなにも! サクリファイスになるなんて、あなた、予想できた?」

質問してきたジャーナリストに攻寄る。

「いえ、そもそもサクリファイスとはどういう」

「たしかにかわいくはないわね。そう、これからはうつくしさ部門ね! こんなに美しくサクリファイスなポケモンに進化するなんて、さすがあたしのむーちゃん」

「えっと、美しいですか?」

「あら。あなた何年ジャーナリストやってるの? 分かってないわね。
 むーちゃんはサクリファイスなの。うつくしさ部門でも制覇間違いなしね」
こうしちゃいられないわ。
すぐに特訓しなくちゃ。

むーちゃんの必殺技、悪魔のキッスをもっと魅力的にしないと。

「気合入ってきたわ! いくわよむーちゃん!」

 唖然としたジャーナリストをおいて、あたしとむーちゃんは、ミクリの夕焼けに消えていったわ。
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