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少女は小さな夢を見た

原作: その他 (原作:銀魂) 作者: 澪音(れいん)
目次

18話


※オリキャラ注意


今日も平穏な江戸の街。
しかし、一方で不穏な空気を溢れさせながらじっと「薬師屋」を見つめる男が居た。

「そーんなところで様子伺ってるならさっさと会っちゃえばいいのに。めんどくさい兄妹ッスね」

男の後ろにはあたかも気だるそうに男を見つめる少年が居たが、男はそんなお小言など気にも留めずに今しがた、薬師屋に入っていった銀髪の男を見つめながら歯をギリギリ言わせた。

「あの男…ここ最近毎日のように来ているが、ストーカーじゃあるまいな」

「いや、傍から見てたらアンタの方が余程ストーカーッス」

「俺はただ、家出中の可愛い妹を見守っているだけにすぎん!いわばあれだ、ヒーローだ」

「ヒーローっつーか、不審者ッスね」

「バカヤロウ。妹を心配しないお兄ちゃんがあるものか。多分気付いていないだけで大抵のお兄ちゃんはこうだから。残念でした」

「残念なのはあんたの頭だけッスね。普通のお兄ちゃんは多分普通に会いに行くッス」

妹がここに店を構えてから数か月。
時間を見ては偵察に着ている男を、周りは最初こそ不審者を見る目で見ていた者の、慣れとは怖いものである。彼が危害を加えないただの怪しい男だと気づいたのか、ここの住人の適応能力が高すぎるのか、既にもう彼を気に留める人間はいない。ああまたやってる、そんな視線が時折くるくらいだ。

彼の名前はここでは敢えて伏せることにしよう。
だが、あの「サラ子」「花子」と呼ばれる薬師屋の正真正銘の兄である。

彼女が家を出たあの日から時折こうして見に来ては無事を確かめていたのだが、ここ最近頻繁に顔を見せている男たちに不穏な空気を感じていた。

「もしかして、アイツらよもや俺の大事な妹を狙って…」

「いや普通にお客さんみたいッスよ。紙袋持って帰ったじゃないッスか」

「大江戸病院の近くだというのにわざわざ薬師屋に来るなんて頭がおかしいとしか思えない。やはりアイツは妹目当てで」

「アンタ薬師屋の次期当主ッスよね。いい加減にしてくださいよ、大旦那からアンタの動向を探るように言われた俺の身にもなってください」

「いやお前探るどころか普通に着いてきたよな。隠れる気すらなく俺の後ろをそのまま歩いてきたよな。探る意味わかってる?」

「アンタ、バカだから気が付かないと思ったんだ。意外と脳働いてたんだな」

「お前俺の部下。俺お前の上司。」

2人が言い合いしている間に客が数人薬師屋を後にするがどれも年配の女性だったためスルーされていた。

その間も電信柱の裏に隠れて、ただじっとしている男に少年は呆れた顔をしながら、視線は薬師屋の方に向いていることから彼も彼なりに心配ではあるらしい。

「それにしてもあの銀髪野郎いつまで店内にいるつもりだ…さっさと買って帰れ」

「相談してるんじゃないッスか?薬師屋なら珍しい光景でもないッスよ。嬢ちゃんに男の影なんて見えないんスからアンタもさっさと帰って仕事してくださいよ。」

「いやダメだ。その間にもし変な男に言い寄られていたらどうするんだ。困り果てた妹が俺の名を呼んでいたらお前どう責任取ってくれるんだ、ええ!?」

「ロリコンも大概にしないと捕まるッスよ」

「バカヤロウ。シスコンと言え」

「そこは否定しないんスね」

妹が家を出てから数年。
妹が何かを思い詰めていることも知りながら、自身は何も出来なかった後悔だけが残された。
自分は気づかないうちに、妹に嫉妬していたのかもしれない。
次期当主として小さい頃から学業に勤しんできた自分とは違い、純粋に薬学を学び楽しんでいる妹が、眩しくて、そして疎ましかった。

自由に生きていく妹が、羨ましくて、憎らしかった。

けれど、そんな妹が別れを告げたのはたった一枚の紙きれで、ただ素っ気ない言葉だけを残して消えた妹に、彼女の心に少しでも寄り添ってやれなかった後悔だけが残っていた。

「悪いな。付き合わせて。ちゃんと生活してるのが分かったら戻るから、お前だけでも戻れ」

ただ、安定した生活を出来ているのかだけが気がかりだった。
苦しい思いをしているなら、連れて帰りたかった。
けれど、時折店の奥から出てくる彼女は昔と同じで表情は乏しくても、兄妹だからわかった。
彼女が此処の生活を気に入っているのだと。

「…仕方ないッスね。嬢ちゃんのことは大旦那も大奥様も気にしているんです。お2人に報告しなきゃならないんでもう少し付き合いますよ」

「おう…悪いな。じゃあすまないついでに、後で刀買ってきてくれ、あの袴野郎が馴れ馴れしいから斬ってくる」

「いい加減にしろよロリコン」

「シスコンだ。妹以外なんてクソくらいだ」

もう少しだけ、妹を見守ってやりたい。
それが自分のエゴだとしても、あの時妹に手を差し伸べなかった自分にそんな資格がないとしても。
ほんの少しでいい、妹が気付く前に立ち去る。兄らしいことを何かしたかった。

「オイオイ、藤吾。何だあの瞳孔開いてる奴。怪しくないか。」

「ありゃ真選組の副長ッス。怪しくはないッス。瞳孔は開いているけど」

「瞳孔開いてる時点で怪しいだろうが。何でそんな奴が警察なんだよ、世も末だな」

「妹をストーカーする兄が次期当主なんて世ッスからね。妹が笑うたび鼻の下まで伸ばしちゃって」

「オイオイ、そんな不届き者もいんのか?恐ろしい世の中だな」

「は?鏡見て来いよロリコンが」

「シスコンだ」



サラ子(花子)の3つ上の兄。
昔は気難しい性格で妹と仲が良かった訳ではないが今はひっそりと見守っている。
(一応)実家の薬師屋次期当主。

藤吾
サラ子(花子)兄の両親が営む薬師屋に奉公に着ている少年。
少年と言ってもサラ子(花子)と同じ年くらい。
どちらかというと兄の方と行動を共にしていたが、妹を気に掛け心配している。
普段は他の事に興味なさそうにしているが、意外にも情報通。


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