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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な山の住人たち(後編)➆

 次の日。
「さぁ、今日こそ、心臓部にまで行くぞ!」
「はい!」
 ザグルもライトも元気だった。
 完全では無いにしろ、疲れが取れた為だ。
 ライトの足の治療はしたが、まだ、痛みが治まった訳ではないが、歩けない訳ではなかった。
 しかし、どこか引きずっている。
「大丈夫なのか?」
 ザグルが心配した。
「ええ、大丈夫ですよ」
 ザグルが見ても無理をしているのは分かった。
「しょうがないな」
 ライトの荷物も持ち始めた。
「いいのですか?」
「構わないよ」
 昨日よりは少し減ってはいたもののまだまだ重かった。
 剣も軽い訳ではないのに、ザグルは少し無理をしていた。
 その代わり、ザグルの荷物をライトが持っている。
 ザグルの荷物の方が、軽いからだ。
 前に進むと少しよろめいていた。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。これも修行だ」
 足場の悪い森へと入った。
 心臓部へはここからかなり歩くことになる。
 しかし、今日中に行けない距離ではなかった。
「早く終わらせようぜ」
「はい」
「今日は元気だな」
「ええ、昨日いい物を見ましたから」
「なにを見たの?」
「秘密です」
「なんだよ」
 ザグルの寝顔だなんて、言えるはずなかった。

 心臓部へ近づく度に、草木がいっそう生い茂った。
「どんどん。足場が悪くなってきましたね」
「大丈夫か?」
「ええ」
 やはりライトはザグル以上に息遣いが荒かった。
 そして、大木の枝くらいの大きさ、太さはあろう自然の物ではない、コケまみれのコードがあった。
「近いな」
「はい」
 森を抜けた。
 そこには丸くて黒い機械的に出来た球体があった。
 それが、心臓部コアだ。
 その近くで、青い瞳の少年が二人を見ている。
「よう」
 友人に声を掛けるみたいに軽い口調だった。
「あんたは、師匠?」
 今より少し若い、ハンクの姿があった。
 二人は驚き、急いで走って少年の元に向った。
 背丈はザグルより十センチは高かった。
「正確には、お前たちの知っているオレの三十五年前の姿だけどね。だから、師匠ではなく、ハンクでいいよ。師弟と言う自覚全く無いし」
 背中にはザグルと同じ位の大きな剣を背負っている。
「じゃあ、ハンクなんでここに?」
 ザグルはすぐにため口になる。
「そりゃ、ここから先の案内をオレがするからな」
「なんで?」
「お前達、確実に迷うだろ?」
「だったら、入り口から案内しろよ!」
 ザグルが人差し指を指した。
「そんなことしたら、冒険が面白くないだろう? 冒険は楽しまなきゃ」
「前座はいらないんだけど……」
 ザグルは昨日一日のことを言った。
「でも、面白かったろ? 怪しくって……」
「そんなに」
 二人は首を激しく横に振った。
「オレの未来の弟子ははっきり言う奴ばっかだな。まあ、いい。時間を潰すのは嫌なんだろ? とっとと行こうぜ」
 ハンクの言葉で球体に穴があいた。
 すぐに歩いた。
 二人も後をついていった。

 中は暗かった。
 その為、カンテラに火を点けて、進むこととなった。
「ところで、考えてみたら、あんたがいるのになんでオレ達がここにいるんだ? 必要ねーだろう」
「それは、オレは幻影で肉体を持っていないからね。触れることは出来ないんだ」
「はあ?」
 ザグルは理解が出来なかった。
「だって、本物は山にいるんだぜ? だったらオレは?」
「幻影ですね。では、その幻影は師匠が作ったのですか?」
 ライトが質問した。
「まあ、作ったのは作ったけど、門番の役目としてコアが作ったから、正確には違うな」
「そうですか?」
 ライトは怪訝な顔をする。
 それにしても実体に近かった。
 だから、本物の『人』と見分けがつかない。
 しかし、ここまで本物に作ったのだ、コアの魔力もすごいものだ。
 そして、師匠の力も……。
「でも、いつまで経っても魔物は出ないな~」
 ザグルが辺りを見回した。
 早く終わらせたいが、なにもないのもそれで嫌だった。
「ああ、あれね? それなら出ないよ」
「出ない?」
「うん。多分、本物のオレがついたウソだろう? 考えてもみろ、こんな高い力を持つ建造物が無防備に立っていると思うか? 狙われるか、住処になるのがオチだろう。だから、幻影の技術がある訳」
「じゃあ、オレが見た、魔物も?」
「ああ、幻影だよ?」
「じゃあ、記憶がないのは?」
「それは夢を見ているのと同じ原理だよ。見たのは覚えているけど、内容は忘れているだろう? ここの幻影もそうなんだよ。今は力が弱まっているからな。出すのは難しいだろう。オレと言う存在が維持できているのも奇跡だよ」
「そうか……。って、師匠もその術に引っかかっていたよーな……」
「……それは知らん」
 ハンクは呆れていた。
 どうやら、自分の術にわざとでもなんでも、引っかかったからだ。
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