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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
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剣の少年と愉快な山の住人たち(後編)⑥

 川の上流までなんのアクシデントもないまま着いた。
 すでに時刻は夕方となっている。
「さて、これからどうするか?」
 夜になれば危険なので、進むのはどうかとザグルは考えているところだった。
「はあはあ……」
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
 ライトは歩こうとしたが、足が震えて思うように動かず座り込んだ。
 上流まで、石で足場は悪かったし、坂道だったから余計に体力を消耗していた。
「ダメだな」
 ザグルが一人でテントを作り、ライトはその中に休ませた。
 ザグルがまだ元気が余っている為、川で魚を捕っていた。
 野宿が主流のザグルにとって、魚を捕るのはいとも簡単なことで、動体視力を生かして、リュックの中に入れてあった、ナイフで上手く捕った。
「ライト、炎を出す力は残っているか?」
「ええ、まあ」
「そうか、なら頼むよ」
「は~い」
 ザグルを待っている間は足にマメが出来ていて、それを治療していた。
「それにしても元気ですね」
「ああ、鍛えられ方が違うからな」
 一通りの準備をザグルがやり、ライトが火を点けた。
 その後の調理もザグルが全てやった。
「ありがとうございます」
「多分、あんたが作った方がうまいだろうけど、まあ、しょうがないからな。不味くても我慢しろよ」
「ただの焼き魚で、どうやって不味いがあるのですか?」
「そうだな」
 ザグルは笑った。
「それにしても……。この魚、不味い以前に危なくないですか?」
 焼き始めて気付いたのだ。
 ザグルが捕った魚は、どれもグロテスクな顔をしていた。
 それは捕ったからではなく、元々、そんな顔をしている。
 魚の名前は二人とも知らない。
 ザグルは興味なかったし、ライトは見たこともない食材だったから知識になかった。
 しかし、あまりいい名前でないことはなんとなく分かった。
「ま、まあ、大丈夫だろう」
 焼き具合を確認して、ザグルが一口食べた。
「……」
「どうですか?」
「……不味い」
 顔が歪んでいた。
 苦いとか、辛いとか、そんな物で説明がつく味では無かったのだ。
 逆に言えば、形容できるだけ幾分マシで形容出来ない不味さだった。
「やっぱり……」
 ライトは食べなくてよかったと安心する。
 見た目通りの味だったようだ。
 ザグルは勿体ないが全ての魚を捨てに行った。
「では、僕が作りますよ」
「いや、いいよ。あんたは休め、もう夜になるし今日はこれ以上進まないから」
 それに、体力をこれ以上削って、明日に支障をきたすのもよくないと思ったからだ。
「そうですか?」
「それに非常食もあるしね」
 ザグルは仕方なく、非常食を口にした。
 別に不味くは無いが、美味しくもない。
 当たり障りのない味がした。
 だからザグルはこの非常食をあまり好きではない。
 干したパンに、干した柿……。
 こう言った職業を続けていく上では必要な物だった。
「にしても、なにもないな~、考えてみたら、なにも起こってないよな~。あの影も結局なんだから分からないし、その後、気味が悪いだけでよ」
「そうですね」
 お茶を飲んだ。
「もしかしたら、このままなにもなくいけるんじゃないかな」
「そんな、逆に慎重になりませんか?」
 呑気なザグルと慎重なライトとで意見が食い違う。
「だって、いつ間でも非常食生活も嫌だし、とっとと終わらせたいんだけど?」
 それもあるが、師匠の命令でギャラ無しでやっているから、と言うのもあった。
「ですが、奥に行けば、魔物が沢山いるのでしょう?」
「そんなことも言ってたけな~」
 ザグルは誤魔化していた。
「ともかく、安易に進むのは良くないと思いますけど」
「そうかな~」
 ザグルは食べ終わり、横になった。
「まあ、明日は確かにあるんだし、ともかく、オレは寝るよ」
 ザグルも疲れているのだ。
 ライトを心配させたくないのもあるが、見栄もあった。
 目を閉じて眠りにつくまで、そう時間はかからなかった。
「ザグルさん……」
 ライトは自分のリュックの中に入れてあった分厚い本を開いた。
 普通なら荷物になるから、置いていくのだけど、これだけは置いて行くことが出来なかった。
 日記帳なのだ。
 ペンを取り出し、今日のことを書いていた。
 それが日課なのだ。
 しばらくすると、ザグルの寝息が聞こえた。
 ライトは軽く笑った。
 他愛の無い無防備な寝顔が見える。
「誰でも寝顔はかわいいのですね……。意地悪したくなるな~」
 寝返りをうった。
 そして、訳の分からない寝言も聞こえた。
「本当に無防備だなぁ~」
 ペンを進めた。
 ついでにザグルの寝顔のことまで書いた。
「さて、僕も寝るかな」
 意地悪をしようとしたが、そんな体力も無くあっさりとペンを止めてしまい、横になった。
 そうとう疲れていた為、すぐに眠ってしまった。
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