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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な山の住人たち(後編)④

 ザグルとライトが心臓部に向かっている頃、ハンクとミーファがいるキャロの山の山頂では……。
「ライト様。大丈夫でしょうかね?」
 ミーファは心配しながらも、ハンクにお茶を出していた。
 お茶の隣には、美味しそうなお茶菓子があった。
 お茶菓子もミーファが用意した物だ。
「多分、大丈夫じゃないの? ザグルもいることだし」
 ハンクはお茶をすする。
(ザグルがライトを見捨てていなければ、ザグルが死んでいなければ、ザグルが道に迷っていなかったら、ザグルが……)
 どんなことがあっても、ライトになにかがあった時は、ザグルのせいにしようとまで考えていた。
 単純に言い訳を考えるのは面倒だったし、責任も取りたくなかった。
 金持ち商人を敵に回すのは流石に面倒だからだ。
「お弟子さんを信用しているのですね」
 ミーファが天使のように可愛くほほ笑む。
「ま、まあな」
(でも、バカだが優秀なジェイじゃなく、アホでそこそこな実力のザグルだからなぁ~)
 破門したとは言え出来のいい兄弟子と、出来がイマイチな弟弟子、出来ることなら兄弟子が付き添いであって欲しかった。ハンクはミーファに悟られないよう心配しながらお茶菓子を食べる。
(まあ、ジェイもライトを見捨てるかも知れないがな。まあ、ヘタレ過ぎてブチギレて暴れる可能性もあるし)
 ルミアの暴走もハンクは勿論知っている。
 流石のハンクも止めるのは一苦労だった。
 二度と怒らせないと誓ったくらいだ。
「それよりもだ……」
 ハンクは真剣な顔になり、ミーファになにかを話し始めた。


 薄かったが、まだ、霧がかかっていて、動いている物をなかなか見ることが出来なかったが、影が見えた。
 その影は優に三メートルはある影で、二人は同時に唾を飲んだ。
「ど、どうするのですか?」
「戦うしかないだろう」
 早々と大剣を取り出し、構える。
 が、ライトには気付かなかったようだが、手が震えていた。
 武者震いではなく、恐怖で震えている。
 久しぶりのマトモな戦闘ってのもあるが雰囲気が怖かったのだ。
「無理ですよ、逃げましょうよ」
 どんどん近づいてくる大きな影。しかも、よく見ると二つもあり、ザグルもどんどん怯えてきた。
「……そ、そうするか?」
 勇敢と無謀は違うと分かっているので、ザグルは大剣をしまい、二人は後ろを向き、猛スピードで走った。
 その際、ライトはザグルから逸れないように、ザグルの裾をしっかり握っていた。

 しばらく走り、大きな影が見えなくなり、二人は立ち止った。
「はあはあ……」
 二人は肩で息をしている。
「どうやら、影は追いかけてこないみたいですね」
 ライトは水をガブガブ飲んだ。
「そうだな」
 ザグルは地図を広げた。
「今、どこにいるか分かりますか?」
「……分からない」
 あまりに一生懸命だったから、どこを走ったのか全く分からないのだ。
 もっとも、テントに入る前からずっと地図もコンパスもあてにならなかったのだが……。
(にしても、ルミアはよく迷わなかったな)
 こんなに怪しくないにしろ、迷わないでここを歩くのは一苦労だ。
(あいつ、盗賊じゃなくって、マッパーの才能の方があるんじゃないのか?)
 等と、ルミアに関して冷静に考えていると、ライトは座り込んで泣き出した。
「ええ、じゃあ、僕たち一生この森の中を彷徨うのですか? それで、ゾンビになって他の人を襲うんだ……。嫌だよ~」
「どうしてそう、マイナス思考なんだ! だいたい、出られないって決まったわけじゃないんだし」
「決まっていますよ~」
 ザグルも流石にこの発言には怒った。
「いい加減にしろよ! 甘ったれ過ぎなんだよ、お坊ちゃまが、いいか、ここはルミアだって通った道なんだ。あいつが、師匠に破門されたバカだって出てきたってことは諦めなきゃ出てこれるってことだろう? まだ、道があるのに諦めてどうするんだ!」
 実力ではザグルより数段も格上なので『ルミア』だからは、流石に理由にはなっていないが、それでも今のライトには通用した。
 この際、なんでもよかった。
 なにを言っても勢いで通用するのだから。
「で、でも……」
「だいたいな、お前は『夢』が諦め切れなくってここにいるのに、それで腰が抜けて泣き出してなんなんだ。なにがしたいんだ!」
「うっ……」
「そんなにここで骨になりたいんだったら、もう置いていく、勝手にしろ!」
 ザグルはあてもなく、地図を片手に歩き始めた。
(あっ、目的見失った)
 ザグルは勢いで歩き始め、しばらくして反省していたが、歩みを止めてはライトのためにならないと思い歩き続けた。
『それじゃダメだ』
 ライトは立ち上がった。
「まっ、待って下さいよ~」
「……」
 無視をするザグルの背中を一生懸命追いかけた。
 ザグルはライトの姿を一瞬確認しただけで、ずっと地図を見ていて、歩いていた。
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